第68話

 ・・・リカ!ユリカ!

 ユリカはソメノの声で我に返った。

「どうしたの。いつものやつ?そんな場合じゃないよ。いよいよ出番だよ。さ、行こう」

「エントリーナンバー10番。いよいよ最後のバンドです。デスピノの皆さん、どうぞ!」

 イグニスの紹介でいよいよ4人はステージへと出た。大波のような拍手と歓声が彼らを迎える。ユリカは改めて2000人という人の多さに驚いた。しかしもう逃げたいとは思わなかった。みんなと一緒にいれば怖いことなどない。

 コウタローはひとり舞台袖で待機している。彼はスタッフのひとりに聞いた。

「あのう、ここって、消火器あります?」

 突然着ぐるみを着た、金髪のさえない男に突拍子もないことを聞かれたスタッフは怪訝けげんな表情を見せたが、すぐに舞台脇に備え付けてある消火器をあごで指した。それを見たコウタローは安堵あんどの表情を見せ、頭部の装着に取り掛かった。

 ステージではあらかじめ撮影されたバンドの短い紹介ビデオが流れた。この間に楽器をセッティングするのである。ユリカはシールドをマーシャルに差し込んで、エフェクターのツマミを最終確認した。手元のボリュームをあげればいつでも音が出せる状態だ。

 吉祥寺フォルテでの演奏の様子がステージ背面中央に設置されたモニターに映し出され、その後に4人で

『デスピノ、頑張りマス!』

 と声を合わせてピースをしている絵でビデオは終了した。

 イグニスが登場し、

「うわーカッコイイね!こんなに可愛い女の子たちがヘビーメタルなんて最高にクール!それにしても、デスピノがこのコンテストに出場したのはワケありだって聞いたんだけど・・・」

 そう言って準備ができたマヤへマイクを差し出した。

「あ、ハイ、私たち、とある事情でぇ、学校でバンド活動ができなくなっちゃいまして。それで生徒会長と交渉した結果、学祭のライヴに1000人集めれば活動再開できることになったんです。そのために、こうしてコンテストに参加して、できるだけ多くの人に見てもらって、あわよくば優勝してなんとかお客さんに来てもらおうと思ってるんです。だからみなさーん、10月4日、渋谷霊徳学園高校の学園祭にぜひデスピノを見に来てくださーい!」

 そう言ってマヤは観客へ手を振った。温かい拍手がそれに応えた。

「へー、それはそれは、頑張ってねー。優勝すればCSだけどテレビにも流れるからいい宣伝になると思いますよお。さ、それでは第5回東京ハイスクールバンドコンテスト、最後の出演バンド、デスピノの皆さんで『マスターオブパペッツ』です!」

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