第59話

「いや、今その話じゃなくて。このバナナフィッシュ、なかなかすごい。まず、曲はオリジナル。で、このトランペットを持っている男と、トロンボーンの男でツインボーカルなんだ。ハモリとか掛け合いとか、かなり考えられてて、しかも曲のセンスがいい。俺、動画を見つけたんで見たらビビったよ。ほら。」

 そう言ってコウタローはバナナフィッシュの動画を再生した。

 やや広めのライブハウスでバンドが演奏をしている様子が映っている。ステージは造花のヒマワリで飾り立てられ、その中を各メンバーが縦横無尽じゅうおうむじんに走り回り、それに合わせて観客も激しく飛び跳ねている。ファンクを基調としたドラムの跳ねるようなリズムに合わせ、ベースがバキバキと激しいスラップでグルーヴを生み出している。そして曲の随所にホーンセクションが挿入され、その響きとメロディは作曲者のアイディアの豊富さを物語っていた。

「なんかすごいですね・・・実際に見たらもっと迫力ありそう。」

 ユリカは率直な感想を述べた。

「確かに、同じ高校生なの?って感じはするね。でもさ、向こうがアタシたちを見れば、やっぱりそう思うんじゃないのかな。」

 マヤはあくまで強気である。

「でもヴィジュアルは俺らのほうが弱いっていう気はするね。」

「なんだと!このガリガリドラム野郎!アタシたちじゃ華がないってか!」

 ソメノはキイチの頬をその白く細い指で思いっきり引っ張った。

「あいたたたたた」

「ちょっと!ケンカしてる場合じゃないでしょ。まあ、確かにキイチの言うことは一理あるかもね。だって、このバンド、演奏も上手いし、正直観てて楽しいよね。何よりオリジナルだから審査員の評価もひょっとしたら高いかもね。」

 しかしソメノはまだキイチの頬から指を離さない。

「痛いよソメ姉、ゆるして」

「わあ、このトロンボーンの人、楽器放り投げちゃいましたよ。ユキナさんが見たら卒倒しそうです。」

「なに、そんなに無茶するくらい暴れてんの。わ、本当だ。インパクトあるねー。って感心している場合じゃないよね。」

 ソメノはそう言ってようやくキイチの頬から指を外すと、今度は彼の飲みかけのシェイクを奪い、一気に飲み干そうとした。

「あぁ!俺のストロベリーシェイク!」

 ソメノは悲痛に響くキイチの言葉を無視して勢いよくすすり続けていたが、やがて鼻の頭を抑えながら

「ウヒョー冷たい!頭痛いアタマ痛い」

 と足をばたばたさせて天井を仰いだ。マヤが笑った。ユリカもコウタローも思わず吹いてしまった。

 ――この人たちと一緒にいるのは、本当に楽しい。文芸部の人達も、デスピノのみんなも本当に大好き。

 ユリカがささやかな生の充実を味わっていると、コウタローがふいに真顔になってみんなに向かって言った。

「どう?この情報。結構役に立ったろ。」

「まあ、そう言われりゃそうだけど、だからってどうすりゃいいのさ。アタシたちはデスピノとして演奏するだけだよ。」

 マヤはちょっと憂鬱ゆううつそうにつぶやき、紙袋の底に残ったフライドポテトを探しあて、それを口にした。

「そこで、オレがなんとか力になれないかっていう話。」

 コウタローは相変わらず真顔でそう言った。

「力になるって・・・コウタロー先輩に何ができるんすか。」

 キイチは、ほぼ残りがなくなったシェイクを無理やりずずずとすすっている。

「ちょっとこれ見て。」

 コウタローは別の動画を再生させた。暗い倉庫のような場所で何か異形いぎょうのものがうごめいている。デスピノのみんなは最初何が動いているのかよく理解できなかった。そのうちにどうやらそれは怪獣の着ぐるみであることがわかってきた。背中には翼が生え、目は赤く光り、鋭い牙の生えた口が開閉している。

「これ、オレが作ったんだぜ。中に入ってるのもオレ。」

 コウタローはまるで捕まえたカブトムシを自慢する小学生のような表情でそう言った。

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