第57話

 敬老の日に行われる野音での本番を10日前に控えて、デスピノはいつもの新宿のスタジオで最後の仕上げにかかっていた。サウンドはより強固になり、メンバーも自分たちの演奏にかなりの自信を深めていた。

「かなりいい調子だよね。もうドームでもやれるって感じ。」

 ソメノは休憩コーナーでコーラを飲みながら言った。

「そうだねー、あとは宣伝かな。今、ツイッターとフェイスブックとインスタとユーチューブでデスピノのアカウントとってあるからそこにどんどん情報載せていこう。キイチ、ヨロシクね。」

「ちぇっ、マヤ姉は面倒なこと全部俺任せだからなー。でも、最近はフォロワーも増えてるから、優勝すれば知名度はさらに上がるんじゃない?なんとか1000人集まっかなー?去年は300人くらいはいたよね。それだってかなりすごいことだと思うけどさ・・・ユリカちゃんあそこにいたんだったらさ、覚えてる?」

「わたしが見たときは、たくさん人がいる気がしました。だいぶもみくちゃにされて・・・それでも講堂の後ろの方は結構スカスカでした。」

「あと700人か・・・とにかく優勝しなくちゃなー。あっ、そういえばさ、マヤ姉、ソメ姉さ、こないだコウタロー先輩からメールが来たんだよ。」

「はぁ?今更なんだって?」

 マヤはあからさまに嫌な顔をした。

「うーん、なんかね、車の免許取ったって。そんで浪人やめて就職するかもしれないって。あと、今度の練習はいつだ?って聞かれたから、今日のこと教えた。」

「それだけ?」

 ソメノはコーラを飲み干して聞いた。

「うん、それだけ。」

 キイチは例のスティックを振る動作で答える。マヤは腑に落ちない様子で

「どういうつもりなんだろね。まさか、練習見に来るつもりなのかな。そしたら飛び蹴りしてやるんだ。」

 と蹴るマネをした。

「まーいいや、どうでも。それより練習しよ。ユリカ、さっき、少しチューニングずれてたみたい。あと、キイチはちょっとサビ前のフィルインがうるさいから抑えてね。」

 マヤはそう指示を出してメンバーにスタジオに入るように促した。


 練習が終わり、料金を払っていつものスタバに向かおうとスタジオを出ると、突然数メートル先から長髪、金髪でずんぐりした若い男が走ってきた。

 ユリカはその瞬間「襲われる!」と思い、後ずさった。

 しかし金髪の男はデスピノたちの前で立ち止まるやいなや、いきなり膝を折り、ガバと土下座をした。周囲の人間はいったい何事かと目を向けた。

「コウタロー先輩!?」

 マヤとソメノとキイチは同時に叫んだ。コウタローは狭い往来で土下座したまま言った。

「悪かった!ごめんなさい。今頃申し訳ない。本当はずうっと謝りたかったんだけど、なかなかチャンスがなくて・・・」

 衆人環視の中、ギターを持った女子高生の集団に土下座をする金髪の男の姿は異様だった。新宿南口に近いこの路地は裏道とはいえ、それなりに人通りがある。中にはスマホで撮影をしようとする者もいた。

「ちょっと、ちょっと!やめてよ!いきなり何やってんの?ホラ、立って!今時外でこんなことしたら、すぐネットに上げられちゃうよ!」

 マヤとキイチは慌ててコウタローの腕を引っ張って立たせた。

「あ・・・ごめん。でもどう謝っていいかわからなくて・・・。」

 コウタローはいい年をして今にも泣きそうな顔である。金髪の髪が乱れて、顔の中央にすだれのようにかかっているのが彼の悲壮さをより強調していた。

「とりあえず、場所変えよう。そこで話を聞きますから。」

 マヤは憮然ぶぜんとした表情で言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

新規ユーザー登録無料