第42話

 翌日、ユリカが出勤したのを見て倉田は意外な顔をした。

「あれ?大石、今日コンテストの予選じゃないの?午後から?大丈夫かよ。結構棚卸は時間かかるんだよ。」

「店長相当困っていたみたいだから、断れなかったの。ね、今日予選だってことは言わないでね。やるからには店長に変に気を遣わせたくないの。8人いればなんとかなるでしょ。」

 しかしひかり堂はそう大きくない店舗とは言え、商品はかなりの数であった。すべての商品の数量と在庫をチェックし、端末に入力する。実際にやってみると途方もない作業である。時に分類不明の商品やら、明らかに数がおかしい商品などが出てきて、そこで時間が取られてしまう。バイトの倉田とユリカを含めたひかり堂8人全員がかりで昼までにはとても終わりそうもない様子であった。

 11時をまわった時点でようやく4分の3ほどが終わった。しかしどう考えてもこのペースでは12時には終わらない。ユリカは次第に焦りだした。ガムの数量をかぞえ間違えてやり直しになった時など、発狂しそうになった。

 倉田はユリカの持ち場に時折やって来て様子を見る。場合によってはユリカの持ち場も手伝ってくれた。倉田はさすがに手際がよく、ユリカもその要領を見てなるほどと思いながら数をこなした。それでもまだ終わりが見えない。時折時計を見ると、不安になってくる。そうしてついに12時になった。しかし皆黙々と仕事をこなしている。とてもこの場から抜けられる雰囲気ではない。ユリカはトイレを口実に店を出て、とりあえずラインでマヤに連絡しようとした。

「おい」

 突然声をかけられてユリカはギクリとした。振り向くと倉田が立っていた。

「もういい加減時間だろ。店長に言って、行ったほうが良くない?」

「ううん、もう少しやってく。だってあんなにみんなが必死になってるのに、抜けらんないよ。」

 そうは言ったものの、時間は刻々と過ぎていく。どう考えてもこのままではライヴに間に合わない。

「お前、ひょっとして最後までやってくつもり?」

「うん・・そのつもり・・・。」

「最悪、何時に吉祥寺?」

「リハを欠席して、最悪1時50分。」

「このままなら、俺の予想だと終わるの大体一時過ぎだぜ。そこから電車乗ったって、吉祥寺なんて絶対間に合わないぞ。」

「ええっ・・・どうしよう・・・でも、でも・・・。」

 ユリカの今にも泣き出しそうな様子を見て、倉田はきっぱりとした調子で言った。

「よし、じゃあ、オレが連れてってやるよ。」

「え?」

 ユリカは倉田が何を言っているのかよくわからない。

「オレがバイクでお前を乗せてくから。それなら間に合うだろ。吉祥寺なら鎌倉街道から東八道路をすっ飛ばせば30分くらいで多分着くよ。」

「で、でも・・・」

 「でも、とか言ってる場合じゃないだろ。他に方法あるか。」

 そう言われてユリカも覚悟を決めた。ここは倉田の提案に従うべきだろう。

 「うん、そうだね。ありがとう。お願いする。ちょっと怖いけど、倉田くんの言うとおりだね。じゃあ、できるだけ早く仕事終わらせちゃおう。」

 一気に決断したユリカはマヤにちょっとしたアクシデントでリハは出られないけれど本番までには必ず行きます、本当に迷惑かけてごめんなさい、とメッセージを送った。マヤからはユリカの身を心配する返事があったが、それに応える余裕はユリカにはもうなかった。倉田と2人、かなりの気合を入れて棚卸作業を進めた。焦るとロクなことがないので、速さをキープしつつも正確を心がけた。

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