第41話

「それで、通天閣の前の通りで、とりあえずお好み焼き屋さんに入ったんだよ。適当に入ったのに、スゲエうまいんだぜ。なんか、レモンの風味とかして。」

 予選前日の金曜日、大阪のツーリングから帰ったばかりの倉田は、ひかり堂の休憩スペースで大量の土産話をユリカに披露していた。

「へえ、いいなあ。わたしも食べてみたいなあ。」

「それでそのお好み焼き屋で、すげー見た目怖いお兄さんがいてさ。やべえ、大阪ヤクザだ、とか勝手に思って西川とヒソヒソ話してたんだよ。そしたら、その人、テーブルにケータイ置いたまま出てっちゃったんだよ。2人で顔見合わせてどうしようかと思ったけど、すぐにケータイ持ってその人追っかけたんだ。ビビリながらも呼び止めて渡した瞬間、そのひと『ああ、アリガト!』って言って、メッチャ笑顔なんだよ。スゲーいい人だったんだよ。」

「あはは」

「そんで、最後の日は宿代ケチって温泉施設みたいなところに泊まったんだ。二千円くらい払うと、お風呂入り放題で一晩過ごせるんだよ。そういう人多いみたいで、夜中みんな廊下とかに布団敷いて寝てんの。俺ら、勝手がわからないから、とりあえず遅くまで風呂に入ってたら、全然寝る場所がないんだよ。」

「えー、じゃあどこで寝たの?階段?」

「さすがに階段は無理でしょ。相変わらず無茶言うなお前。西川と2人で布団持ってウロウロしてたら、何故か急に空いているスペースがあってさ。ラッキー!と思うじゃん。」

「うんうん」

「そしたら、そこって、ゲームコーナーの真ん前なの。何故かそこのゲームコーナー、一晩中営業してるんだよ。誰ひとり、客いないのに。でも電気がついてるから少し明るくて、寝るにはちょっと、ていう感じなんだよ。でも他に場所もないし、疲れてるから眠れるだろ、と思ってそこで寝ることにしたんだよ。」

「よかったじゃない。」

「それが、よくないんだよ。なんかさ、そこにポケモンのゲーム機が置いてあってさ、それが何分かごとに、しゃべるんだよ。『ポーケモンをォーゲットだぜぇー!』ってサトシが絶叫するんだよ!」

「あははは。おもしろーい」

「面白いけどさ、せっかく眠れそうになったとたん『ポーケモンをォー』じゃないっつうの。実際頭狂いそうになるぜ。何度そのゲームぶち壊そうと思ったか。まあ、でも結局寝たんだけどね。」

「結局寝たんだ。」


 センスのない通天閣のキーホルダーの土産と共に聞かされた倉田の話はいつにも増してユリカを笑わせた。

「あっ、もう休み時間終わるじゃん。トイレ行ってくる。」

 そう言って部屋を出た倉田と入れ替わりに、店長が入ってきた。なにやら浮かない顔をしている。

「あのさ、ユリカちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど・・・」

「はい、なんでしょう。」

「明日の土曜日なんだけど、バイト入れないかなあ。」

「明日の土曜日・・・ですか?」

「うん、午前中だけなんだけど、棚卸たなおろしお願いできるかなあ・・・。いや、ユリカちゃんの休みの日だって分かってるんだけど、薬剤師の田中さんが急に入院しちゃって、他に頼める人がいないんだよねえ。棚卸って結構時間がかかるから一人でも多い方が助かるんだよ。というより、いないと午後から店が開けられなくなっちゃうんだよね・・・。」

 明日はいつもの土曜日ではない。大事な予選があるのだ。しかし、ひかり堂店長の今にも泣き出しそうな表情を見ていると、とても断れるような様子ではない。

「わかりました・・・出ます。」

 ユリカはそう答えるしかなかった。

 12時に多摩センターを出れば1時には吉祥寺に着ける。少し位なら伸びても大丈夫だろう、そうユリカは算段した。

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