第40話

「予選はかるく突破だね。」

 すっかり習慣化したスターバックス新宿サザンテラス店での練習後ミーティングで、マヤはシナモンロールを口に放り込みながら言った。

「いよいよ来週かあ。まあ、確かに楽勝でしょ。とりあえず、友達とか、下級生のコ達とかにツイートしておこう。きっとみんな応援しに来てくれるよ。でも、吉祥寺のフォルテって、確かそんなに大きいライヴハウスじゃなかったよね?みんな入れるかな?」

 ソメノは予選通過よりも、ライヴハウスのキャパシティの心配をしている。確かに今の彼らの状態なら、それも無理からぬことだ。

「ああっ、マヤ姉、オレのシナモンロール!」

 キイチがスマホに夢中になっているすきに、マヤはすっかりシナモンロールを平らげてしまっていた。

「だってアンタ、ひとっつも、こっち見てないんだもん。また、ユキナちゃんとライン?かりにもミィーテング中でしょ。ホラ、アタシのスコーンあげるよ。」

「いいよ、オレ、スコーン苦手だから。なんかパサパサしてて、ヤなんだよ。」

「キイチさん、私のカップシナモンロールでよかったら、どうぞ。」

「うわーユリカちゃんやさしい。ありがとう。じゃ一つ。これもなかなかイケルネ。」

 キイチはひと切れシナモンロールを頬張ると、また画面に釘付けになった。

「ダメだこりゃ。コイツ、バンドより彼女のほうが大事みたい。それはそうとユリカ、当日集合はライヴハウス前、1時だよ。場所分かる?」

 そう言ってマヤはブラックのアイスコーヒーのグラスをくるくると回し、カラコロン、と澄んだ氷の音を響かせた。

「はい、もう確認済みです。リハが1時15分で、本番は2時からですよね。緊張します。」

「衣装は制服だよ。あと、黒のスパッツは必ず履いてね。」

 ソメノが片目をつぶって言う。

「それももう用意してあります。でも、ホントにスカートの中を覗いてくる人なんているんですか?」

「いるなんてもんじゃないよ!隙あらばスマホで撮影しようとするバカがいるからね、気をつけて。それにしてもユリカは初めてのライヴで、感極まって何するか解らないからなあ。あのサカベでの様子から考えると、トンデモないアクションをやりそうで。逆に期待してるけど、ヘドバンのしすぎには注意しよう。」

 マヤはデニムの短いショーツから伸びている長い足を組み替えながら言った。

 ユリカは、なんてこの人の脚は長くて綺麗なんだと思った。

「はい・・・そうですね。わたし、何かに夢中になると、何やっているか解らなくなる時があって、大丈夫かな?って自分で心配になるんですよ。何かを考え始めたり・・・本読んでいてもそうですし、ギターを弾いていてもそうなんです。」

「きっとユリカちゃんは本物のアーティストなんだよ。オレ、どんなに熱くなっても何やってるか解らなくなるなんて状態になったことないもん。スゴイよ。」

 そう言って、ようやくラインにケリをつけたキイチは結局マヤのスコーンを手にとってかじりだした。

「なんだよ、キイチ、結局それ食べんの?いいけどさ。じゃあ、来週の土曜日、吉祥寺フォルテに1時集合だよ。」

 マヤはみんなにもう一度念を押した。

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