第39話

「うわすごい!ユリカ!いい音するね!」

 翌週のスタジオ練習で、ユリカの新しいギターの音を聞いたマヤは上擦うわずった声で叫んだ。

 ユリカの肩にはあのベラ・ルゴシの描かれたギターがさがっている。ついに彼女は手に入れたのだ。

 美山との一件があったその日、帰宅すると家にはネットでパパに注文してもらっておいたギターが届いていた。

自分の部屋で、厳重に梱包された包みをもどかしい思いでほどくと、E.S.P.と刻印された墓石を模したハードギターケースが現れユリカは狂喜の声を上げた。梱包材のダンボールをそのままに、震える手でギターのケースを開けると、あの憧れのギターが姿を見せた。ユリカはしばらくうっとりとそれを眺めた。黄色い目をしたベラ・ルゴシが眼光鋭くにらんでいる。“WHITE ZOMBIE”の白くレタリングされた文字がまぶしい。フレットのポジションマークにはコウモリと蜘蛛が刻印されており、ヘッドの部分にもベラの黄色い両眼が刷られていた。ゆっくりと丁寧にギターを取り出し、その重みをユリカは味わった。感無量であった。

 ――やっとわたしの手元に来た・・・。なんて素敵なギター。働いた甲斐があった。

 一刻も早く弾きたくて大急ぎでチューニングを済ませ、ヘッドフォンアンプにつなぐ。

まずはEのコードを引いてみる。凄い音だ。これだけでアドレナリンが奔出ほんしゅつする。ヘッドフォンを通してさえ、今までのおさがりギターとは比べ物にならない音の太さ、重量感が感じられた。ネックの握りがよく、運指もなめらかである。フレージングが自由自在な感じがして、手当たり次第に思いつくメロディーをユリカは弾いた。そうしてユリカは例によって飽くことなく夜中まで弾き続け、ママが怒って止めなければ徹夜をする勢いでピックを動かしていた。


「家で弾いてもすごかったんですけど、マーシャルにつなぐとさらにすごいですね!わたし涙が出そうです。やっとマヤさんの背中が見えた感じです。」

 ユリカの新ギターはデスピノの音作りに画期的な効果をもたらした。どうしても線の細さが感じられていた今までのユリカのお下がりギターだったが、ベラはマヤの音に拮抗きっこうする力強さを持っていた。初めてマスター・オブ・パペッツをこのギターで合わせたとき、メンバー全員がまるで目の前で重戦車があらゆるものをなぎ倒すような、そんな感覚を味わった。

「いやーぜんぜん違うもんだね。やっぱりいい楽器は大事だね。ユリカ、よかったねえ。」

 ソメノは自分たちの出す音が、こんなにもパワフルであるなんてまったく信じられないとでも言うような表情であった。キイチも同感のようで、以前にも増してドラムを叩く腕に力が入っている。

 この時点において、彼らの演奏能力はピークに達していた。もう怖いものなどないと皆感じていた。

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