第37話

 美山の意図する内容がわからなかったが、とりあえずユリカは思うところを答える。

 「どうって・・・なんて言ったらいいのかな。自然と心の中から想いが浮かんでくることもあるし、ことばが先に出て、そこから広がることもあるし・・・。書こうと思って書くことはあんまりないかも。何かきっかけがあると、それに影響されることもあるよ。」

 「そう・・・。ねえ、私の詩、どう思う?正直に答えて。お願い。」

 美山は顔の半分を覆う髪をかきあげ、耳にかけた。ユリカが美山の両目を見るのは初めてだった。青白く、やや不健康な顔色で目の下にはうっすら隈があるような印象だが、髪で顔を覆った時と比べると、思いのほかあどけない顔つきだとユリカは思った。しかしその目は真剣そのもので、ユリカの返答を待っている。思いつめたような表情で美山はまっすぐこちらを見据えている。だからユリカも真摯しんしに答えるべきだと思った。

 「うーん、いいか悪いかっていう判断は私は説明できないけど・・・。ただ、使っている言葉は難しいけれど、それは本当の美山さんの言葉じゃないと思うの。ひょっとして、スマホで検索した言葉を組み合わせたんじゃないかな・・・って思った。でも、それが美山さんのやり方かもしれないから、それはそれでいいんじゃないかな・・・。」

 ユリカを見つめたま、ユリカの言葉を聞いていた美山の目からは次第に涙があふれ、大粒のしずくとなってこぼれ落ちた。思わぬ美山の反応にユリカは狼狽ろうばいした。ユリカが口を開く前に、涙声で美山は言った。

 「そう・・・そのとおりよ。私の言葉じゃないわ。大石さんの言うとおり。やっぱりわかっちゃうんだね・・・。でも、でも、それが私の詩なの。これを読んでくれる友達がいるの。そう、自己満足かもしれないけれど。うぅ・・。」

 すすり泣く美山を見ているとユリカも心が揺り動かされ、落涙寸前である。それでも美山は言葉を続けた。

 「・・・初めて大石さんにあったとき、ああ、きっと、私の詩なんか相手にされないなって思ったの。ボードレールなんて言ったけど・・・ネットでちょっとかじっただけで、ほとんど意味なんかわからないの。だから、とうてい大石さんにはかなわないって・・・読んでる量がすごいって思った。実際こないだの編集会議でも大石さんの詩を読んで、私とは全く違う、私なんかニセモノだって。詩なんて言ってるけど、何の価値もないんだって痛感したの・・・」

 それだけ言って美山は号泣した。ユリカは途方に暮れてしまった。久々に学校に来て、顔を出した部室でまさかこんな修羅場になるとは思ってもみなかった。ただ、美山の苦しみや悲しみはひしひしと感じられ、ユリカの頬にも涙がつたわっている。

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