第17話
ゴールデンウィーク、憲法記念日の鎌倉は大変な混雑であった。ユリカは本来なら江ノ電に乗りたかったのだが、この時期、場合によっては小田急線藤沢駅から1時間待ちだということを須永から聞いていたので、大船を経由して鎌倉へ着いた。案の定、江ノ電の鎌倉駅は人で溢れており、
「現在40分待ちです」
というアナウンスが聞こえていた。
人ごみを縫って鎌倉駅前に出るとここもまた人、人、人である。駅を出て左手に見えるマックに向かうと、知った顔がちらほらと見えた。中でも須永が頭一つ抜けて見えたのでユリカは胸が高鳴った。
マヤとソメノはユリカの申し出を受け、ショップを何軒もハシゴした。まるで着せ替え人形のごとく嬉々としてユリカに取っ替え引っ変え試着させ、靴から何から全てを見立て、コーディネートしてくれた。
ユリカはブラウス部分が白の七分袖、スカートの部分がグレーのドッキングワンピースに、黒のパンプスと白ソックスをあわせた出で立ちでみんなに近づいた。
「わあ、ユリカちゃん、可愛い!おしゃれだねー。」
横井がユリカの姿を見るなり褒めてくれた。その横井も上品な顔立ちに似つかわしい、清楚なグレー地のバーバリーチェックのワンピース姿であった。
「あ、ありがとうございます。横井先輩も素敵です。これ、高そうですね・・・」
「そう?実はお姉さんの一張羅を無断で借りてきたの。」
そう言って横井はくすくすと笑った。その様子がとても華やかで、横井の周囲から、まるで花が次々と咲くような雰囲気をユリカは感じた。
ちらと須永の方を見ると、薄手のグリーンのカーディガンに白Tシャツ、リーバイス501にジャック・パーセルといったカート・コバーンを
「やあ、おはよう。やっぱり女の子は華やかでいいね。みんなの私服を見るのって面白いよね。ほら、あの2人見てよ、チェック兄弟。」
そう言って大沢と山賀をアゴで示した。なるほど2人とも申し合わせたように初夏だというのに地味なチェックのネルシャツを羽織っている。
山賀はダボっとしたベージュのチノパンで、大沢は膝が出ているジーンズを履いていた。総じて2人とも野暮ったい。須永の
「ああっ、須永さん、またオレのことバカにしてたでしょ!おほっ、ユリカちゃんお洒落だね。ヘビメ・・いや、メタルバンドやってる子には全然見えないよ。あっ、池田君が来たよ。」
そう早口でまくし立てる大沢の視線の先には、文芸部3人目の新1年生、池田の姿があった。池田は鎌倉駅の前でうろうろしていたが、大沢が周りの視線をお構いなしに大声でいけだくーん!と叫んだのでこちらへやってきた。何故か彼もまたチェックのネルを着ていた。
――チェック3兄弟!とユリカは思ったが、もちろん口には出さなかった。自分だって、ついこないだまではヨーカドーが御用達であったのである。
それにしても着る洋服によってこんなにも気分が変わり、また他の人の服装が気になるようになるのが不思議であった。
「あとは美山さんだけだね。遅いね。」
大沢はユリカがひそかにチェック3兄弟と命名したのを知らずにのんきに構えている。ぼんやり改札口を見ていたユリカは、何か周りとは相容れない雰囲気のものが近づいて来るのに気付いた。
黒いパラソルをさし、黒のフリルつきのジャンパースカートに白のブラウスを着て、仕上げにごついロングブーツを履きこちらへやってくるのは美山その人だった。
いわゆるゴスロリと言われるデコラティヴなファッションに身を包んだ美山の顔は、今日も黒髪のストレートヘアで隠されて半分しか見えない。
ようやく皆の前に姿を現した美山に対して大沢は無邪気かつ無神経に言い放った。
「わあ、美山さん、それってメイドコスプレ?」
途端に美山は片眼でギロリと大沢を睨みつけて
「違います。メイドじゃありません。これはゴシックアンドロリータというんです。」
と半ば殺意の感じられる言い方でたしなめた。大沢はスイマセンと言ってちぢこまる。
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