第16話

 翌日の日曜日、2回目のデスピノの練習があった。この1週間、暇さえあればダウンピッキングの練習に励んだ甲斐があって、ユリカはなんとかマヤについていくことができた。少しずつユリカはバンドになじみ始めていた。

「ユリカ!かなりいいよ!頑張ったんだね。」

 マヤがめるとユリカは有頂天になった。

「ありがとうございます!わたし、がんばりました。」

 ソメノもキイチも上機嫌だ。この日の練習は先週とうって変わって充実したものとなった。練習最後の方で、ユリカは初めてヘッドバンギングをしながら弾いてみた。それを見た他のみんなも一斉に頭を振り始め、スタジオは異様な熱気に包まれた。

 ユリカは我を忘れてギターを弾き続けた。


 練習が終わってミーティングを新宿サザンテラスのスターバックスで始めた頃には、ユリカの首は軽いムチ打ち症のようになっていた。首が痛いので妙に背筋を伸ばした、ニワトリのような姿勢のユリカを見てソメノが心配そうに聞いた。

「ね、ユリカ大丈夫?いきなりあんなに激しく首振ればそりゃそうなるよ。ウチらは結構年季が入っているからそれほどでもないけど。あとで湿布貼っておいたほうがいいよ。」

「は、はい。後でバイト先で沢山余ってる湿布をもらいます。」

 ユリカは上半身直立不動でフラペチーノを飲みながら、痛みに耐えて言った。

「ユリカ結構ムチャするよねー。それがまたいいとこなんだけどさ。お風呂で首温めなよ。結構効くよ。でも、よく今日は弾いてたよ。すごくいい感じ。今度はもっと曲を増やそう。ユリカ、何かやりたいのある?ぷふっ。」

 マヤはそう言いながら、ユリカの格好を改めて見て吹き出してしまった。

「マヤさん、笑わないでくださいぃ。わたし、どうやら調子に乗りすぎたみたいですね。今度は気をつけます。それで、えーとそうですね、ダメージ・インクとかがいいです。」

 相変わらず変な姿勢でユリカは答えた。それを聞いたキイチは嬉しそうに言った。

「おっ、いいねえダメージ・インク!オレの両足が唸るぜ。なにしろあの曲最後ずーっとツーバスだからね。それはそうとさあ、マヤ姉、どうやって客集めんの?1000人って。」

「そうそう、それなんだけど、これに出るよ。」

 そう言ってマヤはスマホをちゃっちゃと操作し、テーブルに置いた。皆が額を集めて見た画面には『東京ハイスクールバンドコンテスト』というロゴがポップなレタリングで表示されていた。

「予選が8月の後半。決勝は9月の敬老の日で、会場はなんと日比谷の野音!これに出て、知名度を上げて学祭の宣伝するの。優勝すればCSで放送されるって!絶対優勝するよ!」

 マヤは断固たる決意を表明するように皆に宣言した。

 ユリカは話を聞いて、首の痛みも忘れるくらいに身が引き締まる思いだった。

 ――うわあ、頑張らなきゃ。夏休みくらいにはギターも買えそうだから、予選には間に合うかしら。初ライヴが予選か・・・わたし、人前で演奏ができるかな。ドキドキする。

 高まる緊張のあまり、背筋を伸ばしてストローをくわえ、メガネの奥が寄り目気味になっているユリカの様子を見てマヤはまた吹き出した。

「あーユリカ、マジでおもしろいわ。それにしてもそろそろゴールデンウィークかあ。そこで1回くらい練習入れるかな。みんなの都合ってどうなってるの?」 

 マヤが伸びをしながらそう言うとユリカは鎌倉行きの話を伝えた。そして、思い切って言った。

「あの、マヤさんとソメノさんにお願いがあって・・・。」

 なあに、と答えた2人にユリカは頼んだ。

「一緒に服を買いに行ってください。」

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