アフタヌーンティー
「心優ちゃん! いらっしゃい、なんだかんだで久しぶりね!」
「お久し振りです! 半年振りくらいかな? お邪魔します」
純兄のお母さんは、和やかに迎え入れてくれた。純兄の雰囲気はきっと彼女に似たのだろう。手土産もないのはなんだか申し訳なかったので少し頑張って作って来たお菓子を渡し、荷物を中に運んだ。
1階の和室に案内され、そこで荷物を整理していると、不意に襖が開き、そこからひょいと純兄が顔を覗かせた。
「……ひょっこりはん?」
そう言うと彼は笑って答える。
「そのつもりじゃなかったな……。お茶淹れたから、一緒に飲もう?」
頷いて彼の後を追っていくと、リビングから香ばしい香りが胸をくすぐる。
テーブルの上には紅茶の入ったティーカップと私が持ってきたお菓子が置かれていた。
「心優ちゃんお菓子作るの上手ね!」
「歩に教わったりもしてたので、ネットで調べて頑張ってみました!」
おばさんは目を細めてお菓子を頬張っている。こういうのを見ると作り甲斐があったと心が暖かくなる。
「そういえば、おじさんは?」
「朝から釣りに行っちゃった。俺も誘われたけど、海釣りって言ってたから断った」
「……そっか」
純兄は昔から海が苦手だ。きっかけとかはあまり覚えていないが、間違いなく何かトラウマがあるのだろう。
「あ、そろそろ夕方のドラマが始まっちゃう!」
時計を見ると、針は15時に指そうとしていた。過去のドラマの再放送だ。確か、今やっているのは不倫の話だったはず。私も見ていたが、確か濡れ場もあったはず。
私はさっさと紅茶を飲み干して立ち去ろうと思い、カップに口を付けたが、熱すぎて飲めない。
それを見た純兄はカップを持って立ち上がると、そっと微笑んだ。
「庭で飲んじゃおうか」
「おしゃれ!」
私は彼の後を追って庭に出ると、綺麗に整えられた花壇や、芝生の真ん中に置かれたベンチとテーブルが目に入った。
「あ! 懐かしい! そういえば昔ここで歩と佑も一緒に遊んでたよね!」
「そうそう、その時心優なんて言ってたか覚えてる?」
「……覚えてないけど絶対恥ずかしいこと言ってそうな気がするから言わなくていいよ」
純兄はその言葉に笑みを溢すと、ベンチに腰を下ろす。
綺麗な庭は、素人が見てもこまめに整えているのがよくわかる。花壇には様々な花が咲き乱れ、一際目立つのが白百合だ。それの甘い香りが風に乗って辺りを包み、陽だまりが睡魔を呼び寄せる。
「心優、シェアハウスするようになって格段に料理上手くなったね」
「歩のおかげだよ。入りたての時なんてカップラーメンにお湯入れただけでも料理って呼んでたし」
「そういえばそんな時もあったね。歩は本当に昔から女子力高いよな……。俺も見習わなきゃな」
「純兄はそのままでも充分な気がするけど……」
「そう言ってもらえると光栄だな」
柔らかい日の光に当たった彼の微笑みはいつも以上に優しく、私の心に沁みてくる。
幼い時からずっとそうだ。心がぐちゃぐちゃになっている時、一番効く薬はいつだって純兄の柔らかな微笑みだった。
紅茶を少し口に含み、飲み込むと熱さがするりと喉を通り過ぎて行く。
その瞬間、鼻の奥がツンとした。気付くと、私は純兄に頭を撫でられていた。
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