球技大会なんて、
あっという間に月日は流れ、球技大会当日を迎えてしまった。
球技大会なんて、消えて無くなればいいとか思ってたけど、今はもう、球技大会なんて、黒歴史の塊であり、カスであるとしか思えない。
なぜかって?
この状況だよ。
2-Bは2-Aと只今バスケをしておりまして、点差は7点で負けております。そして残り時間5分。さ〜らに、私は全くボールに触れていないのです!
これでは、快斗や先輩に教わった意味がまるで無い。
「みゆーーーう‼︎ ガンバーーー‼︎」
やる気が完全に失われかけた瞬間、咲っぺの叫び声が聞こえた。
そうだ。まだだ。頑張らなきゃいけない。
相手チームのボールを手にした人がこちらへ近づいてきた。
私は、ボールを奪う事に集中した。頭の奥では、快斗や先輩に教わったものがグルグルと回っている。
そして-
私は、ボールを奪うことに成功した。
ドリブルをしながら、味方の誰に渡すか、位置を確認する。
『見てて思ったんだけど、心優ってさ、なんか……ボールを操っているっていうより、ボールに操られてるって感じなんだよね』
突然、練習している時に言われた快斗の言葉がフラッシュバックした。
その時の彼と同じ表情をした相手が目の前に立ちはだかっていた。
ふっざけんなああああぁぁぁ‼︎‼︎
私は、苛立ちを抑えきれず、全身全霊を込めてボールを投げた。それは見事に遥か彼方にいた味方の手に渡り、2点が入った。
そこからは、波に乗ることが出来たようで、一気に点差を縮めていった。
『ありがとうございましたーっ』
両チーム向かい合い、礼をした。
結果は、25対24で、2-Bの敗北。
しかし、チームには全くと言っていいほど暗い雰囲気は無かった。
「八生さん、バスケ得意だったんだね〜!」
「ちょっと見直したよぉ」
「今までで一番盛り上がったゲームじゃない?」
なぜか、チームメイトは私を褒めた。
その中には、バスケ部の子もいた。
どうやら、みんなの中の私は、使い物にならない人材だという印象だったようだ。
調子に乗った私は、サッカーでも進んでボールを奪いに行った。
今度も負けてしまったが、笑顔が消えることは無かった。
***
「心優!」
「すみ兄! 試合観てたんだ」
「うん。凄かった」
球技大会も終わり、体育館裏の水飲み場で休んでいると、心優と純友先輩の話し声が聞こえてきた。
「すみ兄に教えてもらって良かったよ。ありがとう」
「ううん。頑張ったのは心優だから。俺は手伝っただけ」
段々その声は近づいてきて-
「そんな……あ。快斗!」
見つかった。
「おつかれーっ!」
「先輩もお疲れ様です」
「快斗、凄かったよ! スリーポイント!」
「心優もボールぶん投げた時凄かったぞ」
互いにそれぞれの印象的なシーンを語った後、ふ、と心優が呟いた。
「球技大会なんて、要らない。って思ってたけど……」
その暗い表情から一転して、ポニーテールを揺らして彼女は笑った。
「球技大会なんて、なんて楽しいんだろう! って、今は思う。快斗、すみ兄……ありがと!」
その笑顔は、普段の真面目で一生懸命な表情とは違い、幼い子供の無邪気なものだった。
「それ、ちゃんと望先輩にも言ってやれよ?」
「うん。あ。佑にも言わなきゃだね!」
ちょっと受け止め方がズレてるな。こんな鈍感なところには少し呆れる時があるが、望先輩が彼女のことを好きでいることに納得してしまう。
“小説家OWL”とは、全くの別人格である。
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