25.それはポケットにしまって <2>
「………………悪い、アンナリーナ、なんか聞き間違えたかもしれない」
「ドラちゃんとかが予測できない混乱を起こせるくらい、経済については詳しいんでしょ? だったら、今度は経済省で経済安定のためにその知識を活用すればいいかなあって」
「いやいやいやいや! アンナリーナ、よく考えろ、魔王だぞ。魔王を経済省で雇う? そんなことあると思うか? レンリッキ達もそう思うだろ?」
「面白いアイディアですね! 僕は良いと思いますよ!」
「私も。国のためにもなるし、賛成だわ」
ええええええっ!
「アナタ、もうバートワイト王国を滅ぼす気はないんでしょう?」
イルグレットが訊くと、魔王がゆっくりと数回頷いた。
「ああ。そんな力はないし、特に恨みがあるわけでもない。次代の魔王に任せるとするよ」
「経済省で働く気は?」
「まあ受け入れてもらえるなら、しっかりやろうとは思う」
「よし、決定ね」
「ホントに! これから魔王連れて城まで戻るの! 何日もかけて!」
「あ、シーギス、それなら大丈夫よ」
アンナリーナがポンポンと肩を叩いてくる。
「アタシ、ワープの魔法使えるから、すぐにお城に行けるわ」
「その魔法の存在初めて知りましたけど!」
結構村の移動とかに使えたんじゃないですかね!
「よし、レン君、イルちゃん、帰るわよ。ほら、シーギスも魔王も掴まって」
魔王と一緒くたにされながら、俺達は彼女に掴まり、激しい戦いをすることなく、その場を後にした。
「なるほど、そういうことか……」
お城の中、2階の一室。
俺達4人と魔王は、ドラフシェに会って事情を説明していた。
出発前にあったときは肩まであった彼女の茶髪はさらに伸び、胸くらいまで伸びている。でも相変わらず、くるんと綺麗にカールしていて、猫がいたら喜んでじゃれるだろう。
「な? どう思うよ、ドラフシェ。やっぱりここまで国中の人を苦しめた――」
「うん、採用しようじゃないか」
「早っ!」
まだ言い終わってないですけど!
「経済省は実力主義だからな。女性だろうが魔王だろうが実力があれば採用する。私の部下なら、私の権限で採用できるしな」
魔王だろうが、ってそんなケース今まで無かったでしょ。
「今回の一連の騒動、全て展開を読んでゴールドを操作していたんだろう? その知識は本当に敵ながら
彼女の言葉に、アンナリーナは大きな音で拍手をする。
「さっすがドラりん、考え方が柔軟ね! どっかの勇者とは大違い」
「そうね。未だにブツブツ言ってる勇者に聞かせてあげたいわ」
「仕方ないさ、勇者っていうのは戦うことしか考えられない生き物なんだよ」
「俺が悪者にされてる!」
みんなの切り替えが早すぎるんだよ!
「そんなわけで魔王、これからよろしくな」
「ああ、こちらこそ。ドラフシェ、だったな」
握手を交わす2人。パッと見は魔王と国の癒着にしか見えないな。
「じゃあシーギスルンド、今日は一旦これで。色々ありがとうな。魔王、早速1つ、相談に乗ってほしいことがあるんだが……」
そして魔王と一緒に忙しそうに部屋を出て行くドラフシェ。
「うんうん、ハッピーエンドね。よし、今日は酒場で祝杯だ!」
「あ、でも僕達ミエガ村の紐ゴールドは持ってますけど、コインはないですよ」
「じゃあモンスター倒しましょ。ほら、シー君、行くわよ」
「はいはい……」
こうして4万Gもかけて武器と防具を装備した俺達は、食事代のためにモンスターと戦うことになった。
***
「あ、いたいた。シーギスさん」
城の近くの市場でパンを買って立ち食いしていた俺を、レンリッキが見つける。
「探しましたよ。ドラフシェさんが呼んでます」
「また? ったく、人使いの荒いヤツだよ」
2人で城まで駆け足で戻った。
あれから数日。俺達は「一応国を救った」という扱いで、歴代のパーティーよりも大分少ない報奨金をもらった。
そして、やることが無くなった俺達4人は、経済省お抱えのパーティーとなり、各地で起こるモンスター絡みの問題を解決するお役目を担うことになった。
まあ、何もやることがない日々よりいいのかもしれない。
「遅いぞ、シーギスルンド」
「悪い悪い」
上司になったドラフシェが城の入り口で待っていた。アンナリーナとイルグレットもいる。あと魔王も。
「ステップトン村の人口が大分増えていて、仕事がない村人が大勢いるらしい。あの辺りはモンスターも増えているようだから、村を守る仕事を作って、雇用を創出したいんだ。お前達、悪いが戦い方を教えてあげてくれ」
「そんなこともやるのかよ、経済省……」
「経済や雇用の安定が、この省の仕事だからな。あ、それと、今回は魔王も一緒に行くぞ」
はい? 何で魔王も?
「村の現地視察もしてもらいたいし、彼にも戦い方は少し学んでおいてほしい」
「私は剣や弓が使えないからな」
「使えないの!」
メチャクチャ弱いじゃん!
「分かった分かった。じゃあ5人で行ってくるよ。アンナリーナ、ワープ魔法でステップトンまで飛んでくれ」
「イヤよ、あれ結構魔力使うんだから。歩いて行きましょ」
「ここからステップトンって何日もかかるじゃん……」
「こら、シーギスルンド、ワガママを言うな。世の中にはワープしたくてもできない人が大勢いるんだぞ」
「そんな『食べたくても食べられない』みたいなニュアンスで言われても!」
使えるなら使おうよ!
「じゃあ出発しましょう! 魔王さん、僕が案内しますね!」
「ああ、よろしくな、レンリッキ」
そして、3人は魔王と仲良く話しながら歩き出した。
「頼むぞ、シーギスルンド。期待している」
門を開けて城に戻ろうとするドラフシェに、ニッと笑って返す。
「任せとけっての」
ドラフシェもフッと笑い、城の中へ戻っていった。
「さてと、行きますかね」
歩き始めようとすると、ポケットから何かが落ちた。
レンリッキに渡しそびれていたのであろう、その幾つかの物を拾い上げる。
ゴールドも道具も、価値なんてものは、一つには決まらない。
色んな要因で、状況に応じて変わっていく。
それならこれも、大した金額のものじゃないけど、俺にとっちゃ大事な思い出だ。
「ちょっと、シーギス! 遅いよ!」
「シーギスさん、魔王さんの話、面白いですよ!」
「シー君、武器の使い方、どうやって教えるか、一緒に考えましょ!」
「あいよ、今行く!」
棒と石と紐をポケットにしまって、4人のいるところまで走り出した。
魔王は呪文を唱えた! モンスターの落とすゴールドが下がった! 経済は混乱した! 六畳のえる @rokujo_noel
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