喰神機攻ガーディアイン

椎那優城

Chapter1:変わる世界変わらぬ思い

プロローグ「失われたもの-ハジマリ-」

 空を見上げると、そこには雲一つない晴天が広がっていた。まさに、絶好のデート日和、ってやつだな。

 ここは東京都池袋。天に聳え立つ大きな建物、サンシャイン60が有名だと思う。

 ビルが並び立つその景色はまさに壮観で、人類の成長の証って感じがするね。

 俺、紅羽くればねアラタはというと、その池袋にある大きな駅の入り口の前……ど真ん中にある像の前に立っていた。そう、巨大な手の上に人が二人乗ってるあのよくわからない像だ。どんな人がどういう目的で造ったのかは知らないけど、目印としては丁度いいので度々使わせてもらっている。

 流石に駅前だけあって人の通りが多い。休日なのも相まって、非常にカオスな状況だ。

 茹だるような暑さの中、俺は腕につけた時計を確認する。時計の針は11:40を示していた。待ち合わせの時間よりも20分早いことになるな。……我ながら、早く来すぎたとは思ってるよ。初めてのデートだから、緊張しちゃって。

 確かに、今まで何度も一緒に出かけたことはあるけど……ちゃんとしたデートっていうのは初めてだから、さ。

 しばらく待っていると、目の前にある大きな横断歩道を渡る一人の少女が見える。間違いない、シロネだ!

 俺はシロネにもわかるように大きく手を振った。俺に気づいたシロネは顔を俯けると、駆け足で近づいてくる。


「お、おはよう……アラタくん」

「お、おう、おはよう。……今日もシロネは相変わらず可愛いな」


 彼女の名前は神埼かんざきシロネ。絢爛と輝きを放つ銀色のストレートヘアーが特徴。スタイルは平均よりもやや上で、顔立ちも端整。ホントに俺なんかにはもったいない彼女だと思う。

 お世辞抜きにして、絶世の美少女だ。日差しをよけるための大き目の帽子を被ってる姿も可愛い。

 そして、その身に纏った白いワンピースが、一層彼女の美しさを引き立てる。


「なっ、かわっ!? ~~ッ、どうしてアラタくんはいつもそうやって……!」


 現に、さっきから周囲の男連中の視線はシロネに釘付けだ。いや、男だけじゃない。周囲を歩く人が、一度は振り返ってしまうほどの美貌の持ち主だということだ。


「なんでって言われても……俺は事実を言ってるだけだぜ?」

「だとしてもよ……普通正面切って言うかしら?」

「可愛いものを可愛いということになんの問題もなかろう。つまりはそういうことじゃよ」

「いきなり語調変えないでもらえるかしら。読んでいる人が戸惑うわ」

「へいへい……」


 改めて周囲を見渡す。っと、思った以上に注目を集めちまってるな。これ以上目立つのは嫌だし、さっさと移動した方が良さそうだ。


「シロネ、そろそろ行こうぜ」

「……そうね。まだ話は終わってないけど」

「うっ。そ、それは、また今度ってことで……」

「ま、今日はデートだしね。大目に見てあげるわ」

「ははっ、ありがたき幸せ」


 邪魔になるといけないので、俺たちはそそくさとその場を離れる。目の前にある大きな横断歩道を渡り、目的地へと向かう。

 お昼時だからな。まずは腹ごしらえしないと。


「なに食べたい?」

「そうね……あまりお金がかからないファミレスとかかしら?」


 シロネのその返答に、思わずクスリと笑ってしまう。

 すると、シロネから睨まれてしまった。怒った顔も綺麗だけど、ちょっと怖い。


「なによ。なにかおかしいわけ?」

「いや、まさかシロネからファミレスって言葉が出るなんてな」

「なによそれ。私だって普通の女の子なのよ?」

「そうだけどさ。シロネって学校だと高嶺の花みたいな感じだろ? もっと高そうなとこ行くと思ってたよ」

「私は学校での扱いは不服だけどね。なんであんなに持ち上げられるのかしら」

「近寄りがたいオーラっていうか、どっかの令嬢っぽい雰囲気というか……」

「要するに避けられているわけね……」


 シロネが目に見えてしゅんと落ち込んでしまった。


「いや、その、みんなも話したくてしょうがないけどちょっと勇気がないというか、度胸がないというか、ええっと、その……」

「……ふふっ」


 俺があたふたしていると、シロネは口を押さえて小さく笑う。ちょっ、俺そんな変なことした!?


「気に障ったのならごめんなさい。ちょっと面白くて」

「面白いって……」

「だって、あんなに慌てた様子のアラタくんなんて、普段は見られないもの」


 シロネの微笑み。俺は思わずドキッとしてしまった。

 ……破壊力、ありすぎだろ……。

 シロネは軽快な足取りで歩き出す。鼻歌を歌いながら、スキップしているみたいに足取りが軽い。そんなシロネの姿も、可愛い。


「おい、置いてくなって!」


 俺は、シロネの後を追って走り出した。









「んー、楽しかった!」


 時刻は15:00を少し過ぎたあたり。俺たちは、先ほどまで遊んでいたゲームセンターから出てきた。


「ゲームセンターには初めて来たけど、とっても楽しいのね!」

「だろ?」


 シロネの手には、少し大きめのウサギのぬいぐるみが抱かれていた。もちろん、俺が自腹でとった。出費は少し大きかったけど、彼女のこんなはじけるような笑顔を見れたんだから、安いもんだよな。


「ふふっ、じゃあ、次はどこに行く?」

「そうだなぁ……」


 と、新しい目的地へ歩き出そうとした瞬間。


 ――ギギギギギギギ……。


 空から、黒板を爪で引っかいたような音が聞こえてきた。俺は思わず耳を押さえてしまう。耳を塞いでもなお、耳の奥に響いてくる不快な音。な、なんでこんなに大きな音が……!?

 周りを見てみると、全員俺と同じように耳を押さえていた。中には、そのまま座り込んでしまう人もいる。一体、なにが起こってるって言うんだ!?

 やがて、響いていた音が収まる。俺はおそるおそる耳から手を離した。


「大丈夫か、シロネ?」

「うん、なんとか大じょ……う……」


 シロネの言葉が途切れる。どうやら、シロネは俺の後ろを見ているようだった。その表情が、驚愕に染まっていく。

 俺もシロネにつられて後ろを振り向いた。





「――なんだよ、ありゃ……」





 俺が振り向いたその先、その上空。

 空に、亀裂が走っていた。

 それだけじゃない。その亀裂から、鋭く尖った二本の槍のようなものが伸びていた。さっきの音の原因はあれか……?

 ありえない光景。俺たちは、その場を動けずにいた。

 数瞬の間もなく、その槍が動き始めた。まるで、空間を左右に裂くかのように、まるで、閉じた扉を開けるように、左右に動き始める。

 広がった裂け目から、その本体が姿を現した。

 先ほどの、槍のように見えた部分は腕だった。そのフォルムは全体的に鋭利で、しかしどこか人の姿に見えなくもない。

 身体は細長く、その異質さを如実にあらわしていた。

 頭部はひし形で、口や鼻と呼べる器官はない。その中心に赤く輝くモノアイがあるのみだ。

 そして、なによりも異質なのはその背中。無数の触手が、まるで花が咲いたがごとく開いている。それぞれが独立してうねうねと動いており、生理的嫌悪感を抱かせる。はっきり言ってしまえば、とても気持ち悪い。

 30メートルはありそうな巨体が、空に浮かんでいた。

 ――逃げないと。

 俺は、咄嗟にシロネの手を掴んでいた。

 そして、そのまま化け物とは反対方向へ走り出す。

 シロネの顔色を伺うと、その顔は真っ青になっていた。身体も、プルプルと震えてるようにも感じる。


「キャァァァァァァァァァァ!!!!」


 背後から悲鳴。俺は思わず振り返った。

 見ると、化け物が触手を地面に向けて垂らしていた。

 その触手の先端から、ゲル状の塊がどんどんと吐き出されていく。

 産み落とされたゲルは、あろうことか周囲にいた人々を襲い始めた。ゲルに捕まり、徐々に身体を飲み込まれていく人々。必死に抵抗するが、複数のゲルがそれを許さない。

 人を飲み込んだゲルは、化け物の触手に吸引されていく。これじゃ、まるで捕食じゃないか……!

 そして、俺はあることに気がついた。

 先ほどから、化け物のモノアイが俺たちを睨みつけている。まさか、俺たちを狙ってるのか……?

 大量に吐き出されたゲルは、周囲の人々を飲み込みながら俺たちの元へと迫っていた。化け物を見ると、人を取り込んだゲルを吸引すると同時に新しいゲルを吐き出していた。無限に湧き続けるって……そんなのありかよ! くそっ、とりあえず逃げるしかない!

 その場から離れようと足を踏み出した瞬間、俺の足がゲルに捕まってしまう。俺はそのまま転んでしまう。くっ、このままじゃ、シロネが……!


「逃げろ、シロネ!」


 俺はどうなってもいい。でも、彼女だけは……逃がさなきゃ!

 だが、シロネは動かない。空の一点を見つめるばかりだ。

 突如、俺とシロネに影が差さる。……おかしい。今日は雲一つない晴天のはずだ。影が差さるわけがない。

 俺は後ろを振り向き、シロネの視線の先を見た。

 そこには俺を――否、シロネを覗く一つ目の化け物がいた。鋭利だった腕がぐにゃぐにゃと軟質化、変形していき人の手を作り出した。

 化け物はその場で膝をつくと、シロネに向かって跪く。てのひらを上にして、シロネに差し出す。

 もう片方の鋭利な腕は、俺に向けられていた。その切っ先が、俺を睨む。俺は人質ってわけかよ……!


「行くな、シロネ!」


 俺の声に反応して、ビクッとその肩を震わせるシロネ。数瞬顔を俯かせると、彼女は化け物の手の上に乗った。

 俺は足に絡みついたゲルを振りほどき、離れ行くシロネを追う。しかし、数体のゲルに捕まり、地面に押し倒される。


「シ、ロネ……ッ!」


 俺はそれをさらに押し退け、シロネに手を伸ばす。

 振り向いたシロネは、小さく唇を動かした。




『ごめんね』




 なんで、彼女が謝るのかはわからない。それでも、俺は手を伸ばし続けた。伸ばし続けていないと、一生彼女に会えない気がしたから。

 霞んでいく視界の中、俺はシロネに手を伸ばし続ける。たとえその手が届かないとしても、俺は伸ばし続ける。

 眩み行く意識の中、彼女の目元から水滴が弾けたのが見えた。


 ――なんだよ、シロネ。お前、泣いてるじゃんかよ……!


 無数のゲルに押し潰され、俺の意識は、そこで途絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます