第五話:技術のゆりかご(後編)
「迎撃、迎撃ぃ───ッ!!」
「撃ち方始めェ───ッ!!」
警報が鳴り響く中、警備隊の隊長達が放つ怒号と、彼らの持つ76.0mm野砲が放つ特定目標拘束用ネット弾が飛び交う。
その横須賀の街を、迫り来る弾幕を回避しながら試作三号機は駆け抜けていた。
「吹野さん……!!」
時間は少し遡る。
「有本君!!?」
妙な胸騒ぎを感じた僚が艦載機格納庫に向かい試作三号機のコクピットに乗り込んだその時、彼を追いかけてきた優里が必死になって止めにかかった。
「待ってください!!
困りますよこの機体で向かうなんて!!」
「あの人達が彼女に何をするか分かりません」
「だからって戦闘機を許可無く引っ張り出すのは駄目です!!!」
「なら許可貰えばいいんですか!?」
「いやよくないでしょ!!?」
その時、
「僚」
いつの間にか現れていた絆像が何故か制服の上着を脱ぎ、僚に放り投げた。
「あそこに行くなら、軍の身分証が必要だろう。
それを使うといい」
言われた僚はそのポケットに何かがあるのに気がつき、それを手に取る。それは絆像のメモ帳で、その表紙のポケットには彼の身分証が入っていた。
「艦長、良いんですか!!?」
「……たまには悪ふざけしたくなってな。
ただし、条件を出す。
それでいいな?」
「……ありがとうございます」
僚は返事し試作三号機のコクピットハッチを閉めた。
“兵士形態”に変形した試作三号機は、すぐさま電磁投射砲を脇下から前方へ潜らせる様に構え、
発射されたのは戦闘車両の装甲をも穿つ徹甲弾───ではなく、訓練用に用いられる赤いマーカーが入った粘着性のペイント弾。
それが野砲の放ったネット弾に当たり、歪な塊として地面に落下する。
さらに僚は頭部の近接防御機関砲を起動した。
こちらにも装填されているのはペイント弾。特にこの武装は口径が小さい為対人用として使うことができた。
それの銃弾が野砲を操作する兵士の近くに降り注ぐ。
脚元付近に着弾した粘着弾が逃げようとした兵士の脚を絡めて転倒させ、野砲の基部に当てることでそれそのものを無力化する。
『誰一人として死傷者を出すな。
……軽傷程度なら甘く見るがな』
それが、絆像が僚に条件として出した唯一つの命令。故に万が一にも当ててしまっても大丈夫な様にペイント弾を装填してから出撃した。
兵士に当てたのは0発。一発も兵員へと直撃させることなく部隊を制圧した僚は、そのまま機体を深雪の居る海軍司令部へと向かわせた。
海軍本部のすぐ近くの空き地。
そこにはTCの所有する大型トラックが二輌駐車されていた。
『お二人共。出撃の準備はできておりますか?』
それぞれの車輌に搭載されていたT-34のコクピットで、イリヤとカチューシャがオーナーからの通信に応えた。
コンテナが開き、そこから正座したT-34の姿が出てくる。
「ごめんね、エレナ。
機体借りちゃって」
『大丈夫。
手土産に新型機との戦闘データ、待ってる』
イリヤが詫びると、オーナーの隣に居たエレナがそう返した。
「うん、分かった」
応えたイリヤは操縦桿を握り、
「
イリヤ・ルナチャルスキー、出ます」
エレナから借りたT-34を走らせた。
「見せて貰うわよ。
日本軍の新型戦闘機の性能とやらを!」
もう一機のT-34に搭乗しているカチューシャが、シートに座り起動準備を整え次第に息巻いている。
そこに個別で通信をいれてきたサーシャが『調子に乗って機体を壊さない様にな』と冷やかしを入れてきた。
「うっさいわね!
あの頃とは違うのよ!」
『人が心配してやってるのに』
「フン、このカチューシャが華麗に捌いてあげるんだから!」
そう唸りながらカチューシャはスロットルを最大まで吹かした。
「
カチューシャ・クドリャフカ、出るわ!」
両脚共の足裏に備わるリニアモーター技術を応用した高速回転履帯によって、80km/hに達する速力を叩き出す。
こうして、肩にTCの所属ペイントを施された二機のT-34がトラックより出撃した。
「おい、オペレーター!
やつの自爆装置はどうしたのだ!!?」
『すみません!!
何度も試しているのですが、全く反応しませんでした!!
おそらくパイロットが自爆装置の回路を自力で外したとしか』
「だまれェッ!!
貴様の様な生ぬるい女がやっとるからだ!!!」
対空司令官を務めているとある士官が信濃のオペレーターを理不尽に怒鳴りつけている。
ちなみにこの時この士官は気づいていなかったが、頭を下げていたオペレーターこと桂木 優里は画面外で半ば自棄気味に
つまるところ試作三号機に装備された自爆装置 迦楼邏の操作など微塵もやっていなかったのである。
「これは一体どういうことかね、神山君?」
そのすぐ近い位置で、横須賀司令部の総司令官を務めている栗林中将が別の回線で通信する絆像に問いかけていた。
「吹野さんのことが心配になってしまった様でそのまま迎えにいってもらいました」
「そんな『飼い主を迎えに行った忠犬』の様な表現をされてもな……」
『……彼女の愛犬は凶暴です』
「上手く纏めんで良い」
中将は冷や汗を滴らせながら絆像の冗談を受け流す。
「君はパイロットを止めなかったのか?」
『いえ、むしろ良い機会だと思いまして』
改めて問いかけると、絆像は何やら含みのある言い分を返してきた。
「良い機会?」
この時、通信する絆像が怪しい笑みを浮かべた様に中将は感じていた。実際に彼がどの様な表情をしていたのかを知る由など無かったが。
『頭の硬い老害“
栗林中将も、そうとは思いませんかね?』
「……ほぉぅ」
言われた中将は、関心した様に返す。
「つまるところ君は、パイロットを宣伝に使ったに過ぎない、といったところか?」
『まぁ、だいたいそんなところです。
少なくとも
「……中々に策士だよ君は」
髭の蓄えられた下顎を撫で、苦笑しながら彼を評する。
「さて……それでは私も、
『えぇ、どうぞご覧ください』
そこまで話したところで、通信が切れた。
一息吐いた中将は、
「急がば回るな、若者よ」
大画面に映し出された零の姿に、そう語りかけた。
警告音が試作三号機のコクピット内に響く。
「───ッ!!」
レーダーを見やると、試作三号機の斜め後方に新たな反応が二つ確認されていた。
「『
後ろの交差点より、ビルの脇から身を乗り出す二機のT-34。それぞれBAK-147とBUZI-SMG二挺とを構えた機体が僚に向かって射撃する。
振り返りながら翻す様に弾幕を回避し、放たれた弾丸の着弾地点を見やった。
「───ペイント弾……!!」
二機のT-34が放った弾丸は全てペイント弾であったらしく、あちこちに紺色の塗料を撒き散らしていた。
「僕を試してるのか……?」
彼らは射撃戦を不利なことを承知でやっているのだろうか。
「だったら───!!」
一人吠えた僚は二機に向かって突撃をかける。
全く当てられずに、接近を許していることに相手が動揺しているのが分かった。
そして膝部に装備した箱状の装備から、はみ出ている剣の柄の様なものを引っこ抜きそのまま抜刀斬りをする要領でそれを振るった。
「わっ!!こっち来てるよ!!?」
「分かってるわよ!!!」
イリヤとカチューシャは、動揺しながらも撃ち続けた。この動揺の始まりは、まさか相手が正面から堂々と突っ込んでくるとは思っていなかったからだったが、
「なんで当たらないの!!?」
「知らないわよ!!!」
その対象が『段々と全く攻撃が当たらず、かつ急速な接近を許している』ことへと変化していく。
そして、相手が自分達の正面数メートル先まで来たところで、膝部の箱状の装備から何かを取り出そうとしていたのに、全くついてこれず、
「えっ!!?」
「なっ!!?」
気が付けば二人の間を相手が独楽の様に回転しながら通り抜け、二機はそれぞれの得物を地面に落としていた。
「なに、いまの……」
「切り落とされた……いや……何を、されたの……?」
二人が振り返ったところで、十数メートル離れた位置に回転の勢いを
その両手に一本ずつ握られていたのは、剣の様にも見えるなにか。
新型の剣の様にも見えなくはないが、柄から先が縦方向にギザギザに折れており、横から見れば角錐形をしている様な見た目で、とても物を切れそうなものには見えない。
「なにあれ……」
イリヤが呻くのを余所に、カチューシャは機体に訓練用木剣を抜かせた。
目の前の機体は、すぐにそれを構えた。
「…………」
僚は二機のうち片割れが木剣を構えるのを横目に、全周囲モニターに映る試作三号機の両手に握られたものを見やる。
(どう見てもハリセンだよね、これ……)
お笑い番組などの小道具としてよく見るジョークグッズで、彼はこれと似た様なもののことを知っていた。ボケ役にツッコミを入れる際にこれで頭をひっぱたく様を見たことがある。
目測で刃渡り(?)4.0mはあるであろうこれは、彼の知る限りで世界最大のハリセンである。
(
一人でどうでもいい冗談を思い浮かべながら、取り敢えずその二振りのハリセンを構えた。
先手を取ったのは、カチューシャのT-34だった。
T-34が右手に持つ木剣が試作三号機の頭部を目掛けて斜めに振るわれる───が、僚はそれをやや前屈みにしゃがみ込むことで回避する。
その回避行動時の勢いのまま、僚は試作三号機の右手に保持されたハリセンで一閃。
パシーンという渇いた音が響き、だがその一閃はT-34が居た地面に叩きつけられた。
ほぼほぼ一本道だったこともあり、後ろに逃げて回避したT-34がさらにそこから踏み込み、木剣を振りかざす。
試作三号機も負けじと左手のハリセンをかざし防御姿勢を取った。
パシーンという渇いた音がまたしても響き、ハリセンは木剣を受け止めた。
「なんて強度……!?
見た目はスッカスカなくせに!!」
「このT-34のパイロット……!!
あれだけの重量で、なんて反応速度だ……!!」
「この機体での接近戦は、ただでさえ部が悪いってのに……!!」
「機動力はこっちが上のはずだけど……経験の差、なのかな……!!」
鍔迫り合いの中、通信している訳でもないのに互いが互いを認め合う。
だが、次に撃ち合った瞬間に右手側のハリセンが折れてしまった。
「───あっ」
「───壊した!!」
今だと言わんばかりにカチューシャの『T-34』は木剣を振り上げ追撃をかけた。
左手に持った分のハリセンも、それを受け止めたら真ん中から折れてしまう。
「あっちゃ……」
「二本ともやった!!
これでトドメよ!!」
そこまで言って、カチューシャは試作三号機に再度の突撃を敢行する。
「この勝負……僕の負けか」
いつのまにか決闘をしている様な感覚になっていた僚は、木剣を振り上げたT-34を前に少し弱音を呟いた。
「……でも───」
直後、
「───戦いには勝たせてもらうよ!!」
吠えながら肩部回転銃身機関砲を展開し射撃した。装填されていたペイント弾が連続的に吐き出される。
「あんなところに
胴体部の、肩の付け根あたりに備わっていたカバーが展開され、中から小型のガトリング砲が顔を出して射撃してきた。
胴体部や肩部にペイントが張り付き、それに気を取られているうちに距離を置かれてしまう。
詰めるべく前進したその時、
「───頭にもっ!!?」
頭部のこめかみの位置からペイント弾が射出され、それによってメインカメラをやられてしまう。
「嘘───きゃぁっ!!?」
メインカメラの画面が何も見えなくなった直後、何かに躓き、カチューシャのT-34は転倒してしまった。
実際は躓いたのではなく試作三号機の電磁投射砲によって脚を撃たれ、その着弾した衝撃で転倒したのだが。
「カチューシャ!!」
カチューシャ機が転倒したのを確認したイリヤは拾い上げ構えていたBAK-147を
援護しようとして構えていたが付け入る隙が見当たらず呆けてしまっていたのを、
だが、時は既に遅く、
「へ?」
試作三号機は折れ曲がった得物を持ったままの両腕を振り上げ、振り下ろした。
直後、そこから何かが射出されイリヤのT-34が持つBAK-147を叩き落とした。
「にゃわぁっ!!?」
折れ曲がった刀身(?)が柄から外れ、投擲されたのだ。
「───嘘……っ!!?」
確認し試作三号機の方を向き直った時にはもう遅かった。
頭部機関砲、肩部機関砲、電磁投射砲がそれぞれすでに向けられていたから。
「はにゃぁ─────────ッ!!?」
コクピット内で虚しく絶叫が響く中、試作三号機による
時を同じくして。
茨城県某所に位置する、比較的大きな家。
その氏は、『
十六畳ある和室で寝そべる少女と、そのすぐ近くの庭で竹刀を振るう少女の姿があった。
二人は双子。一卵性双生児であり、容姿が良く似ている。
寝そべっている方、姉の陸駆
「銃のお手入れすればいいじゃない?」
庭にいる方、妹の陸駆
「そんなこと言ったってー、射撃場にでも行かなきゃ基本撃つことないしー」
言いながら、雷華はテレビを付ける。
この家には四台テレビがある。大広間、祖父と祖母の部屋、自分達の部屋、そしてここ客間兼和室。
『続いてのニュースです』
ちょうどやってたのはニュース番組だった。
『昨日、横須賀で起きた騒動に於いて、───』
「あー……───」
昨日もやっていた、というかずっとこれしかやってなかった気がする話題。
特に見てはいなかったが、十代の女子が興味をそそる話題でもない。
「───え?」
少なくとも、ここまでなら。
『───海軍が極秘で開発したという新型戦闘機が活躍し、鎮圧に成功しました。
これに対し、海軍はに関する会見を本日、開きました。
会見は現在途中ですが、これより放送いたします』
画面上部のテロップにはこう書かれていた。
『日本軍もついに騎甲戦車導入なのかー!?
海軍の新型戦闘機 零とは!!』
と。
『この機体は騎甲戦車とは違います』
自分達と同じくらいの少女が檀上に立ち、会見を行っていた。
『ではこれは、日本軍独自の兵器だと?』
記者、らしき人物が問い掛ける。
よくは事情を知らないがなんとなく察したことだけで判断してみるが「人型の兵器だから騎甲戦車なのではないのか?」ということで討論しているのだろう。
『空挺機動高等戦術対応騎兵型可変戦闘機。
略称は『空戦騎』とします』
少女がそこまで言ったあたりで、彼女が機体についてある程度説明が終わったらしいことがわかる。
「ふーん」
「どうしたの?
お姉ちゃんがニュースに見いるなんて珍しいね」
いつの間にか庭から上がってきた電子が、近づきながら尋ねてきた。
「海軍が新型の戦闘機開発したらしいのよ。
騎甲戦車みたいな人型に変形する戦闘機、だってさ。
えぇと……空戦騎、だったかな?
そんでそれが昨日の戦闘で活躍したんだってー」
「へぇ……人型に変形……かっこよさそうだね!!」
そんなことを言っていたら、丁度画面には飛翔する零とかいう戦闘機が空中で騎甲戦車の様な人型の姿に変形する瞬間の映像が映された。
その映像を見ながら「ふぁぁ」と感嘆が口から漏れる
「……まー、陸軍には関係ないわよ。
陸軍と民間には極秘で作られてたっぽいし」
そう言いながら、雷華は和室の
『卒業証書 一年 陸駆 雷華
特別待遇により貴官の飛び級、卒業を認定する。
今後も、祖国たる本国の繁栄の為、尽力することを誓わんことを。
国立防衛大学附属高等学校 岩瀬校舎 陸軍部歩兵科』
もう一つのは電子のものだ。
彼女達は二人共、高校を飛び級で卒業している。
それでいて軍曹という階級も既に頂いており、近々何処かの部隊に配属になる予定だった。
「もー消すわ。
これ以上見てたって───」
言いかけ、リモコンを手に取り電源を切ろうとしたその時、
『───僚───』
誰かが言った質問の中の、その部分を聞き、彼女の動きが止まった。
「え……?」
「今……なんて……」
電子も、似た様な状態だ。
「……『僚』って……言った、よね……?」
二人して、その名を呟く。
「まさか……」
「まさか、ね……」
その名前は、彼女達の良く知る人物と同名だった。流石に苗字までは違うだろう、とそう結論付け今度こそ電源を落とそうとしたが、
「───はぁ!!?」
「───ほぇ!!?」
苗字が出るより先に、着陸した零のコクピットから自分達の良く知る人物とそっくりな人物が這い出てきた。
次の日。時刻、〇八〇〇。
何故か信濃の船体塗装が一部変更されていた。海上に浮かぶ黒鉄色をした城砦の様な信濃の船体の一部に、何らかの模様みたいな紅い塗装が施される。
信濃だけではなく、隣にいた榛名もだった。
外が騒がしかった為に試作三号機のコクピットを降り後部甲板に出てきた有本 僚はそれに気付いた。
吹野 深雪の姿もすぐ近くに見当たった為、近づいて尋ねる。
「何が始まるの?」
「所属艦隊の識別塗装。
第一遊撃部隊に配属になったからあーして紅く塗装してるのよ」
「あぁ、なるほど……」
そういえば第一遊撃部隊の通称たる『紅蓮の艦隊』の名の由来の一つで、船体の識別塗装について言っていたのを思い出した。
榛名の隣にいる摩耶は元から第一遊撃部隊 所属なので、元からこの塗装がされていたのだが、さらに摩耶の隣にいる『新造艦』にもこの塗装がされている最中だった。
「そういえばあの新造艦、艦名なんていうの?」
僚が尋ねると、
「あー、あの金剛型八番艦?
確か『三笠』、だったはずよ」
と深雪は答えた。
「へぇ、三笠か……。
そういえばさ、この艦所属以外にも航空隊ってあるのかな?」
「そりゃ、艦隊だものあるでしょ。
まぁ、戦艦には無いでしょうけどね」
「まぁ、そこはね……」
実際問題、専属の航空隊を持つ戦艦とはある意味不思議な存在である。
旧日本海軍に於いて運用されていた伊勢型戦艦や、その設計・運用データが反映された現日本海軍が運用する日向型戦艦が一応該当する為、一概に前代未聞とは言えないが、その前例を持ってしてでも異例と言える。
そういえば、と後ろを振り返り、僚は深雪に尋ねた。
「ところで、何で試作三号機が甲板上に出てるの?」
「今から塗装するところよ」
「塗装?」
「あなたの
隊長機なんだし塗らないと」
「……隊長機が試作機って……なんだか、複雑な気分だなぁ……」
遠い目をする僚。それに対して「あら、文句があるならそのうち配備される量産機でも良いのよ?」などと言うから、僚は「はいはい」と言って受け流した。
今さらだが、最初は深雪に対し敬語を使っていた僚だったが、同い年と分かったこともあってやや砕けた態度で接する様になっていた。
ちなみに言うと、昨日の一件によって零は栗林なる将官にやたらと気に入られたこともありTCの協力も仰いだ上で正式に量産化が決まった。この栗林中将は元々 零に対して興味があり自身の手持ちを資金に然り気無く混ぜ陰ながら支えていたらしく、余計に生き生きとした印象を僚は感じていた。隣にいたもう一人の名を名乗ることがなかった士官は妙に不機嫌そうだったが。
まやかしの『欠陥機』の烙印を押されていたとはいえ機密兵器扱いの機体の無断使用と、無断出撃、さらには軍への反逆罪と成りかねない僚達(主に僚のだが)の罪も完全に揉み消されたどころか僚の特進卒業、及び信濃への着任も認められ、士官階級も与えられることになった。
それ故にか彼女も些か気分が良さそうである。
「パーソナルカラー、かぁ……」
腕を組み、考え込む僚。
「赤とかどう?
『通常の三倍』とかいっ───」
「悪目立ちするから却下」
「っ……!
んじゃ、青とか」
「も目立つ、却下」
提案を出す度に断る僚に「そんなん言うなら何がいいのよ!」とふてくされる深雪。
少し間を開けて、
「白」
という答えが僚の口から突然出てきて「え?」とすっとんきょうな反応をしてしまう。
「機体、白く塗装して貰えるかな?」
僚がそう頼んだことにより、その数十分後には、何色にも塗装されてない
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