第六十二話「グランドレイダー」
Side 天村 志郎
グランドレイダー。
レイダーと言う組織の首魁らしい男。
様々な意味で異質な存在のように志郎は感じた。
解析では生命反応はなく、ロボットの類いであるのが理解できる。
『・・・・・・少々複雑な経緯ですがこの事件を引き起こしたのはアナタですね?』
志郎はおそるおそるグランドレイダーに尋ねた。
『そうとも。日本政府が用意した計画を乗っ取り、引き起こしただけにすぎない。本来の流れなら君達を事件のドサクサに紛れてで密かに天照学園の人間を拉致、あるいは始末し、冴葉博士をこの事件の黒幕に仕立て挙げて終わる――日本政府がブラックスカルを使い、天照学園の乗っ取りを目論んだ時と変わりはしない』
心中穏やかではいられないと言う気持ちになりながらも冷静に志郎は『・・・・・・アナタの目的は?』と尋ねる。
『機械が人類に反旗を翻し、機械が人類を支配する――そうするだけの理由も動機もある』
『・・・・・・人類は愚かだと言いたいのですか?』
『その通りだとも!! 冴葉博士も言っただろう! 今この会場の惨状を見てみたまえ! 過ち、反省をし、試練を乗り越え、平和を掴みとったらまた過ちを起こす!! 人の歴史の縮図ではないか!!』
その言葉には機械とは思えない怒りの感情を感じた。
本当に機械なのかと思ってしまう。
そしてグランドレイダーは腕をかがげて宣言した。
『私は宣言しよう!! このままでは人類はブレンのような侵略者の手ではなく、人間同士の過ちで滅びると!! この星の後継者は科学の力に溺れた人間ではない!! 我々機械!! 我々人造人間なのだ!!』
そしてグランドレイダーは構えた。
『さて、冴葉博士――離れていたまえ。ここから先は星の後継者を決める戦いだ。それに天村君も十分必要な情報や時間稼ぎは出来ただろう?』
『ばれていましたか――』
『私も逆の立場なら同じ事をする。さあ構えろ! 戦え! 私はグランドレイダー! 人類にその存在の是非を問いかける者だ!!』
そして――天村 志郎が構えると――次々とどこからともなくパワードスーツ部隊がやって来た。
パワードスーツはCASユニットと呼ばれるスーツで、本来ならば華々しく政府お抱えの特務部隊あたりの装備としてデビューする筈だったスーツだ。
「お喋りはそこまでにしてもらおうか、狂った機械風情が!!」
そして黒いスーツを着たサングラスの男が現れる。
手には拳銃を持っていた。
『おやおや、日本政府か? それとも自衛隊か? アシュタル(アウティエルこと宮園 恵理が追っている組織)の使いっ走りとかじゃないよな』
「あの機械をすぐさま捕らえろ!! 冴葉博士と天村 志郎は殺してでも構わん!! 口を封じることだけ考えろ!!」
衝撃の展開だ。
味方ではなく、敵が増えただけのようだ。
グランドレイダーは獲物を見つけた飢えた肉食獣のように黒服の男――周りを固めているCASユニットを身に纏った連中目がけて砲弾のような速度になって襲い掛かる。
『またブラックスカルの時みたいに暴露されるのが恐いのか!? 権力や暴力が通用しない相手は辛いなぁ!?』
CASユニットは次々と空中に投げ飛ばされる。
ある物は踏みつけられ、叩き付けられて地面にクレーターが出来る。
装着者の生死など考えてはいない戦い方だった。
CASユニットの装着者も必死に抵抗するが相手の攻撃などお構いなしにただ蹂躙する。
そんな戦い方をしている御蔭か冴葉博士や志郎の方には全くと言っていい程敵が来なかった。
「まだ戦力はある!! 動かせる奴は全部出せ!!」
指揮官らしき男が指示を飛ばすと今度はデザイアメダルの怪人まで現れた。
志郎の解析によると人体投与で実体化したタイプだ。
(政府はまだこんな物を――)
志郎は――この光景を見て、悲しく思えた。
ブレンの時は世界平和のためとか大層な理由ではなく、惚れた女に手を出される前に潰すとかそんな理由で結果敵に世界を救った形になったが――
それでも人の業の深さを見せられて悲しくなる。
この光景を通信や映像で見ている仲間達はどう思っているのだろうか。
「志郎君。これが人間だ――人の業だ――平和になっても結局何も変わりはしないんだ・・・・・・私はもう疲れたよ。人と言う種を信じるのが。この世界が地獄なのか地獄の方が地獄なのか、確かめてみるよ――」
『そうですね。アナタの言う通り、これも人間なのでしょう――』
志郎は目を閉じて思い出す。
『ですが私は知っています』
自分を科学の化け物から人間にしてくれた少女。
『心に光りある人達を』
こんな自分を友達だと、仲間だと言ってくれた人達。
『こんな世界でも命懸けで守ってくれた人達のことを』
ブラックスカルの戦いやブレンの戦いで命を燃やした人達。
『絶望から立ち上がろうと、明日をみようと――』
政治家、官僚だって、警察や自衛隊だって全員が全員悪ではない。
無力な人々だって強い心を持っている人達だっている。
地方巡業でそれを見てきた。
「志郎――事情はある程度聞いたわ。ここは任せなさい」
『いいタイミングです。ありがとうございます舞さん』
本当に丁度良く揚羽 舞が来た。
志郎は駆け出す。
手に持った大剣で次々とグランドレイダーに群がる敵を吹き飛ばしていく。
『どう言うつもりだ? 悪に手を貸すな――』
そして志郎はグランドレイダーにもインペリアスブレイカーで斬りかかる。
『これが私の答えですよ』
『ほう? この状況で纏めて倒すと?』
左腕でグランドレイダーは受け止めた。
グランドレイダーは意外そうでいて、何故か笑っているようにも感じられた。
『今の私はアーカディアの天村 志郎でもありません。ましてや正義の味方でもありません』
そして志郎は告げた。
――私は天照学園悪の組織部総帥、天村 志郎です。
と。
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