第六十一話「事件の影で――」
Side 天野 猛、城咲 春歌
揚羽 舞と別れて猛は春歌と一緒に暴走したロボットを斬り捨てていく。
春歌はブレンとの戦いの影響なのか使えるようになった日本刀型のサクラブレードを使用していた。
「これで何体目かな!?」
「最初から数えてませんから分かりません!」
猛は次々と斬り捨てていく。
地方巡業で劇の立ち回り稽古ついでに戦闘訓練などの経験が役に立っている形だ。
主に暴れているのは何かしらの日本政府などの息が掛かっているロボットやパワードスーツだ。
遠くの広場では目玉の巨大ロボットも暴れているが、そこは複数人掛かりで対処中とのことである。
「この状況だと一気に必殺技で片付けるのはやめといた方がいいね」
「ですね」
猛の提案に春歌も同意した。
敵その物は大したことはないがいかんせん数が多い。
それとまだ退避し切れてない来場客も多い。
来場客を巻き込む可能性もあり、必殺技で一気に一掃と言うのが出来ないのが現状だった。
☆
Side 天村 志郎
一方――天村 志郎はと言うと――
単身で今回の事件の首謀者の元に乗り込んでいた。
ベルゼルオスは強力すぎるので以前使っていた、触覚のようなアンテナがついた、赤い双眼で黒き金縁のダークヒロイックなパワードスーツであるインペリアスを身に纏っていた。
『お久しぶりですね、冴葉博士』
「来たね志郎君――」
場所は会場を見渡せる芝生の広場だった。
特に迎撃準備も罠もなく、見かけは初老の髭を蓄えた白髪の黒いメガネの男と対面できた。
白衣の下は白いYシャツの上にネクタイを締めていた。
『やはり復讐ですか?』
志郎は迷うことなく本題に入る。
と言うのも目の前の人物がこのような強行に走った理由がそれしか理由が考えられないからだ。
「ああ、復讐だよ。志郎君――言っておくが私をどうこうしても止められないようにしている」
『だからこうして自分を呼び寄せたんですか?』
「そうだ。最後に君と話をしたかった」
既に死を覚悟をしている。
いや、生きる事を諦めているのかもしれない。
最後のやり残しとしてこんな騒動を引き起こしたように感じられた。
志郎は変身を解き――
バキッ!!
志郎は一発思いっきりテロリストに堕ちた元科学者の顔面をぶん殴った。
「これで満足か!? このさい復讐するなとは言わない!! でも復讐する相手を!! 無関係な人間まで巻き込んで何をしたいんだアナタは!?」
珍しいことに志郎は怒りの感情を剥き出しにした。
「無関係か――私にはもうその線引きが分からなくなってしまったよ」
「・・・・・・あなたを人殺しと糾弾した世間ですら復讐の対象ですか」
「そうさ――」
☆
冴葉 幸一は元々はロボット工学を専門にした科学者であり、ロボットの平和利用を目的に研究をしていた。
天村財閥だけでなく、天照学園ぐるみで支援していた。
さらにはジェネシスへの勧誘もしたが断れた経緯もある。
そんな彼を世間は人殺しのマシンを作っている悪のマッドサイエンティストにしたてあげた。
市民団体も彼を悪の科学者として責め立てた。
これには日本政府なども関与していた。
と言うか一学園機関にテロを仕掛け、カラーギャングを扱き使ってデザイアメダルを積極的にばらまき、最終的には正義の味方面して天照学園を乗っ取ろうと考えていたクズたちが政治の実権握っていたのである。
やらない、関わってないと考える方がおかしいだろう。
そうして市民団体が正義の名の下に暴走し、妻子も失ったが無罪放免状態となり、冴葉博士は行方を眩ませた――
☆
「君に分かるかね? 自分だけでなく家族までもが魔女狩りに晒された気分を――」
「・・・・・・自分も天村財閥の人間です。賞賛を浴びる一方で大切な人を死なせ掛けたことがあります」
その一言に冴葉博士は「そうか――」とだけ返す。
志郎が言う大切な人とは揚羽 舞のことである。
彼女を事後承諾でセイントフェアリーと言う十字架を背負わせた張本人である。
それに人間とは優れた人間に賞賛だけでなく、嫉妬などの負の感情を向ける生き物である。それが普通なのだ。
一歩間違えば自分もこんな風になっていたのは志郎も容易に想像出来た。
「どうしても止める方法は?」
「ない。この件を見届けたら死ぬつもりだ」
「なんて身勝手な!!」
「・・・・・・私もね、最初はここまでするつもりはなかった。だが復讐の炎を再び燃え上がらせてくれたのは日本政府だよ」
「なに?」
「あいつらは私にしでかした事を忘れたワケではあるまいに、なにが”今度は世の中のために役立てて欲しい”だ!? なにが"奥さんも娘さんもそれを望んでいる"だ!? それに奴達はなにも変わってない!! 何も変わっちゃいないのだよ!!」
「待ってください――その口振りだと――」
「ああ、あいつらは何も変わっちゃいない!! ブラックスカルの時から、ブレンの襲来ですらも何も学習していない!! 君達の仲間である闇乃 影司を含めて行く宛のない少年少女達を実験動物のように扱い!! デザイアメダルの実験を極秘裏に進め!! 未だにアシュタルと言う人体改造を平然とする組織と通じ、そして権力や法の力でヒーロー管理法などと言う悪法を成立させて君達を手駒にしようとしている!!」
衝撃的な情報のオンパレードだ。
知っていたこともあったが知らなかったこともあった。
だがそれ以上に、こうして第三者の口から怒りとともに出されると――志郎でさえ、心の芯のような物が大きく揺さぶられてしまう。
特にヒーロー管理法など、この様子だとロクな法案ではないだろう。
「極めつけはこのイベントだ!! このイベントは本来私に全ての濡れ衣を着せて、君達を陥れるためのイベントだった!!」
「つまりロボットの暴走は最初から政府に仕組まれていた?」
「ああそうだ! 私は政府が産み出した悪魔と契約して全てを知った!」
そこまで語り終えると彼は泣き崩れた。
「何が正義だ!? 何が悪だ!? こんな世の中は間違っている!!」
『少々喋りすぎだな――』
そして何者かが現れた。
志郎は即座に変身する。
ベルゼルオスではなく、以前使っていたインペリアス。
黒い悪魔ではなく、触覚が付いた赤い双眼の黒くて金縁のパワードスーツだ。
SFチックな銃剣、インペリアスブレイカーも片手に所持している。
『お前は――?』
背の高い、赤いマントを身に纏った銀色のロボットだった。
頭部は縦長で黄色い双眼。
体のシルエットも木の枝のような印象を持つ。
歩く度にガチャ、ガチャ、と言う金属音が響き渡る。
『私の名はグランドレイダー・・・・・・新たに出来たばかりの組織、レイダーの総帥とでも名乗っておこう』
これがグランドレイダーが表舞台に出現した瞬間だった。
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