第五十八話「最後の戦い」

 それは絶望だった。

 

 ギャラクスが産み出した巨大な、戦艦サイズにまで膨らんだエネルギーボール。


 測定不可能な、信じられない程の数値を叩き出すエネルギー。


 地球を破壊すると言うのはハッタリではない。


 この星に生きる物は敵味方関係なく間違いなく無に返す程のエネルギー量だ。


 だが――真っ先に動いたのは闇乃 影司だった。


『そうか・・・・・・そう言う事だったのか』 


『影司くん、何を?』


『あの天照大橋で断片ながら自分が何をするべきなのか、受け取っていたんだよ――奇跡的に生き延びても、次会う時は殺し合う中になってるんだろうな・・・・・・』


 それだけ言い残して闇乃 影司は巨大なエネルギーボールを産み出したギャラクスの元へと素早く飛び去っていった。


『キサマ何を!?』


『お前も未来を知っているように俺達も断片的にだが未来の情報を受け取ってるのさ――全くイヤな役回りだぜ』


『まさか、未来の記憶を――』


『ああ、今迄はおぼろげだったんだがマスタージャスティスの御陰でね。お前は本来この世界に姿を現すのは二年後だった。だがその時点ではもはや俺達に滅ぼされる運命でしかなかった。だから今滅ぼすしかなかった――』


 そう言って闇乃 影司はギャラクスにタックルをかまし、ギャラクスが産み出したエネルギーボールに押し当て――巨大なエネルギーボールごと空の彼方へと勢いよく上昇していく。


 空へ、空へ――


「やめろ!? キサマも死ぬことになるぞ!?」


『かもな。だけど不思議とそんな気はしないんだよね・・・・・・じゃあな、皆――』


 爆発と謎の障壁が貼られたのは同時だった。

 間違いなく地球を吹き飛ばす規模のエネルギーだった。

 にも関わらず、周辺に被害が全く出なかった。

 


 天野 猛にとって闇乃 影司の関わりは数える程しかなかった。

 

 だが――それでも、死んでいい人ではなかった。


 ブレン軍も次々と宇宙に上がって撤退。


 無人機は糸が切れたかのように機能停止していく。


 戦いは終わっ――


『流石の私も死ぬかと思ったぞ!?』


 そう言ってギャラクスが擱座した巨大円盤の上空に現れた。

 

「あいつまだ死んでなかったの!?」


 皆の気持ちを代弁するかのように舞が叫ぶ。


『いえ、先程よりも大幅にパワーダウンしています!! 皆さんの心中は御察ししますが、今は――』


 と志郎が話を纏めた。


「うん。これで正真正銘最後の戦いだね」


 猛は決意した。

 これが最後の戦いだと。


『粋がるなよ!? 貴様達を滅ぼす程度今の私でも造作はないわ!!』


 そう言って周辺にエネルギーの弾幕を張り始めた。

 外にいた巨大ロボットなどが諸に直撃を受ける。

 そして無人兵器も再起動し、自分達の首魁が生きている事が分かりブレン軍の配下も次々と再度攻撃に転じた。 


 これが最後の総力戦だ。 


 彼方此方で再び激しい激突が始まる。


 ギャラクスと戦うのは先程まで戦っていた、闇乃 影司を欠く天野 猛を中心としたメンバーだ。


『地球は破壊できずともこの辺り一帯を吹き飛ばす事は造作もないぞ!?』


「またあのエネルギーボールを!?」 

 

 悲鳴を上げる森口 沙耶。

 止めなくては――と皆が思っていたところでそれを止めたのは――JOKER影浦だった。空中飛べたらしく、勢いよくギャラクスへドロップキックをかまして吹き飛ばした後――日本刀で――恐らく何度も切り裂いたらしい。


 そして擱座した巨大円盤の甲板におっこちるギャラクス。

 

 全身から火花を散らしながら立ち上がろうとする。


『クソが――クソが!?』


『よくも――』


『なっ――』


 そして倉崎 稜が近付いてくる。


『よくも、よくも――よくもよくもよくも影司をぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 倉崎 稜が滅多に見せない怒り。

 その余波で円盤の甲板がめくれ上がり――地響きが起き、大気が震える。


『コイツ怒りで我を忘れるとここまでの力を――』


 全てを言い終わる前に倉崎 稜の猛攻が始まった。

 手から産み出した光の剣による斬撃、光の雨――ギャラクスは必死に防ごうとするが稜の攻撃の手が止まらない。


「あれが・・・・・・稜なの?」


 宮園 恵理はその稜の変わり様を見て呆然とする。


 ただの怒り任せの攻撃ではなく、ただ目の前の敵をいかに効率よく殺せるかと言う事を突き詰めた機械的な――相手を情け容赦なく確実に殺すための戦いだった。


『なめるなぁ!!』


 ギャラクスはダメージ覚悟で強引に倉崎 稜に一撃を入れるが構わず稜は殴り飛ばす。

 その一撃で再び上空に押し出される。

 

『消えてなくなれ!! ギャラクスぅうううううううううううううううううううううううううううう!!』


「ッ!?」


 そして決着を告げる一撃がギャラクスに――赤い閃光が放たれた。

 その閃光に飲み込まれたギャラクス。

 大気圏を突き抜け、宇宙に飛び出し――


『ヤレヤレ。神殺しの力にも困ったものです――』


 と、緑色の肩幅が広いパワードスーツと言うよりロボット然とした機械の魔人が展開したバリアで消し止められた。

 

 危うく宇宙の展開している地球連邦軍や未知の勢力達にも直撃する可能性があったが奇跡的にも――ブレン軍主力の周辺、連邦艦隊は今、猛たちが戦っている場の頭上(上空、衛星軌道場、宇宙)であり、友軍に直撃することはなく、宇宙で謎の存在に止められることで被害は抑えられた。


 止めに入ろうとしたJOKER影浦もホッとしてその存在――天村 志郎の兄に礼を言った。


『クソが――私は、私は神だぞ――神なんだぞ!?』


「しつこい!?」


 そしてギャラクスはまだ生きていた。

 猛の言う通り本当にしつこい。

 エネルギーを使い果たしたのか倉崎 稜はその場に倒れ込み、恵理に介抱される。


『皆、消えて無くなれぇええええええ!!』


 そしてギャラクスを中心に一際大きな大爆発が起きた。

  

 

『クソここまでパワーダウンするとは・・・・・・』

 

 UFOの甲板に直径100m程の大穴が空いた。

 だが本来ならUFOどころか周辺を巻き込むほどの大爆発引き起こすつもりだった。想像以上の力の消耗に苛つくギャラクス。


「今度こそ終わらせる、ギャラクス!!」


 そして最後に立ち塞がったのは天野 猛。

 春歌が咄嗟に庇ってくれた御陰で被害が少なくて済んだ。

 春歌は同じく無事だった舞に任せている。


『俺も手を貸そうか?』


 上空からブラックセイバーを身に纏った黒崎 カイトが駆けつける。

 まるで狙い澄ましたかのようなタイミングだ。


「黒崎さん?」


「道が混んでて遅れたんだ。マスクコマンダーの御陰で辿り着けた」


「そう――」


 そこまで聞いて猛は意を決した。


「一緒に戦ってくれる?」


「ああ。お前はまだ戦えるか?」


「もちろん!」


 そう言って二人はそれぞれの剣を持ってギャラクスに食らいつく。


『創星石の戦士はともかく雑魚が一人加わったところで何になる!?』

 

 ギャラクスも両手に光の剣を持って相手の剣を振り払う。

 両者による空中での剣戟合戦が始まった。


(かなり弱っている筈なのに、まだこれだけの力を!!)


 猛も相手の粘り強さに舌を巻いた。

 これまで相当なダメージを食らっている筈だがまだこれだけの余力が残っていたのだ。

 恐らく自分一人では天照学園から送り届けられた力や謎の手助けがあったとしても勝てなかっただろう。


 黒崎 カイトも「こんな奴と戦っていたのか・・・・・・」と苦悶の声を出している。


 一旦猛もカイトも吹き飛ばされるが態勢を建て直し、再び斬りかかる。


「負けられない! 負けられないんだ!!」


 そう言って猛は斬りかかる。


『幾ら吠えても結果は覆えせんぞ!?』


「それはお前の運命のか?」


『なっ――』


 背後からJOKER学園長が羽交い締めする。


「心配するな!! 俺を信じて全力を撃ち込め!!」


 学園長は猛とカイトの二人にそう呼びかける。

 猛はレヴァイザーキック。

 カイトは全身を黒い炎に包んで突撃するフェニックスダイブの態勢へと移行した。


『は、離せ!!』


「さらばだ邪神の一体・・・・・・滅び去るがいい」


『ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』

 

 交差するようにレヴァイザーキックとフェニックスダイブを決め、JOKER影浦は円盤の甲板――離れたところに着地する。

 今度こそギャラクスは依り代となったブレンと一緒に爆散した。


「これで決着か・・・・・・」


 JOKER影浦は空を見上げる。

 今回の戦いはあまりにも犠牲が多すぎた。

 しかしそれでも勝たねばならなかった。


 それでも今は、この戦いを生き抜いた皆に余韻に浸ろせようと学園長は思った。

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