第五十話「突撃」
Side 天野 猛
トレーラーとかも纏めてどうにか飛行船に乗り込んだ一向。
それを確認し終えると蒼翼は急発進する。
息つく間もなく機内放送で姫路 凜は話を進めた。
『時間が無いからよく聞いて。ツッコミ所があると思うけど――先ず学園長が単独で敵の本丸に突撃して命駆けで揺動してくれているわ。宇宙でも敵の増援部隊を地球連邦軍や謎の援軍達が全力で食い止めてるけど長くは持たない』
そこまでして一息ついて話を続ける。
『日本に駐留してる地球連邦の残存戦力や自衛隊の戦力も陽動作戦に乗ってくれたわ。誰かどうやってか手を回してくれたんでしょうけどそんなのはどうだつていい。これから自分でも馬鹿じゃないかと思えるぐらいの単独突撃かますから覚悟して。降りたかったらパラシュート降下でお願い。時間が惜しいの。この機会を逃したら――次はもう無い』
皆静かだった。
話を聞き入っているのだろう。
『私はこのまま黙って、ポッと出の謎の宇宙人に好き放題されるのがイヤ。大好きな皆も物も町も全部全部奪われたくない。子供とか大人とか関係ない。だから私だけでも戦うわ。猶予は十分。少しでも迷いがあるならさっさと降りることを選択するわ。残ってたらイヤでも死ぬ気で戦わせるからそのつもりで』
と一方的に通信を絶ちきった。
「いやいや、ヒーロー部の部長はとんでもない女傑だね」
そう何処か、縁起くさい軽薄な態度を取る黒髪の格好いい系の美男子が歩み寄ってくる。
ホストクラブとかの接客業が似合いそうな程に整った顔立ちをしていた。
飛行船で出迎えてくれた凜との合流時での戦闘では銀色の騎士のようなパワードスーツを身に纏って戦っていた。
「僕の名はグレース・ナディア。突然だけどヒーロー部に入部した新入部員だから――まあよろしく」
「あ、此方こそ。天野 猛です」
と、軽く自己紹介する。
「時間は無いみたいだけど、君は行くのかい?」
「はい。それに確かめたい事もあるから」
「確かめたい事?」
「天照大橋で受け取った記憶の断片、これから待ち受ける未来――それに、ここ最近特に不思議な力が湧き出ていてそれが春歌ちゃんいも影響してる。恐らくだけど、この戦いが終わっても何かまだとんでもない事が起きそうな気がする。そして僕達はそれに無関係ではいられないと思うんだ」
「まあ確かに、もう今の状況だと大人も子供も関係ないけどね――好きな子がいるんだろ?」
「え? まあ?」
突然話を春歌の事に振るグレース。
不意打ち気味に言われたせいで猛は顔を真っ赤にする。
「運命だろうが何だろうが、愛する者を守り抜くために戦う――男の戦う理由なんてそれだけで十分だと思うよ?」
「そ、そうかな――」
「そうしない方がきっと後悔せずに済むからな」
「?」
グレースは一瞬表情に影を落とした。
そして元通りになる。
「そう言えばヒーロー部にはまだ合流してないメンバーがいると聞いたけど――」
「ああ、沙耶さんは何か戦力集めて回っているみたいだけど――この状況で間に合うかな?」
「で? どう言う女性なの?」
「えーと、同性愛者の魔法少女――」
「OK、関わらないようにしよう」
「あ、はい」
グレースがどう言う人なのか何となく理解出来た猛であった。
そして「他のメンバーにも挨拶してくる」と言ってグレースは足早に立ち去った。
「嵐山先生――」
入れ替わりに嵐山先生が現れた。
「よう。行くんだな?」
「うん。嵐山先生も?」
「ああ。行く」
「そう――」
「ま、死なない程度に頑張れよ」
「はは・・・・・・」
軽く無茶な注文を付けてくる担任兼顧問に猛は苦笑する。
『どいつもこいつもバカ野郎ね。タイムアウトよ。もう泣いても笑っても降ろさないから! 早速だけど飛行可能なメンバーは先行して出撃して頂戴! そろそろ敵の防空範囲内よ!!』
船内放送から響き渡る凜の号令が戦いの合図だった。
☆
Side 揚羽 舞
「私達が先陣を切り開くのね――」
ざっと見渡す。
天村 志郎とベルゼルオス。
宮園 恵理と倉崎 稜ペア。
闇之 影司と城咲 春歌と黒崎 カイト、ホーク・ウィンドウは直営に付いている。
影司と春歌とホークは空中は飛べるが空中戦には不向きであるし、カイトは念の為と言う事だ。
『そうですよ。まあ死なない程度に頑張りましょう』
「あの担任も言ってたけど、貴方も軽く言ってくれるわね」
志郎の軽口を返しながら眼前を見やる。
ジェットパックを背負った戦闘員。
戦艦級、戦闘機級のUFO。
それだけでなく、地球連邦軍や自衛隊の戦闘機や戦闘ヘリ、更には地球の宇宙戦艦まで浮かんでいた。
どうやら複製されて投入されたようだ。
遠距離から蒼翼が叩き落としていくがそれでも次々と代わりばんこに敵が投入される。大技を無闇やたらにぶっ放しても焼け石に水状態だろう。
既に直営組も戦闘に入っている。
蒼翼の上面などに取り付いた敵をホークが殴り倒し、カイトが斬り倒したりしている。
迎撃役の舞を含めた四人は近くの敵にのみ的を絞って敵を圧倒している。
だがそれでも物量差に押し潰されそうになる。
敵は同士討ちも構わずに砲火を乱射してくるのだ。
特攻紛いの事も平然とやってくる。
「このままだと――」
舞は焦りが産まれる。
どうすればと――
『此方航空自衛隊――!! 援護に駆け付けた!!』
『地球を守るのに縄張りもクソもあるか!! 出来うる限りの戦力が集結している!!』
『未来を任せた!!』
そんな時だった。
航空自衛隊の戦闘機達が集まった。
次々と機銃やミサイルを惜しげもなく消費し、自分達の血路を開いていく。
更に――
『此方地球連邦軍、日本駐留航空機隊!! 微力ながら手を貸そう!!』
『地球連邦のブラッド少佐!! 殿は任せろ!! レイジング・バスターエンゲージ!!』
『同じく地球連邦のミハエル・シュミット中尉!! ラウンド・ウォーリアー混成飛行連合隊! 其方の意図は理解した! 人類の未来、君達に託す!!』
地球連邦軍の戦闘機や飛行用パワードスーツ、空専用ラウンド・ウォーリアーが戦場に辿り着き、戦闘に入る。
『私達も此処に来たわよ。味方だから撃たないでね?』
「沙耶!? 一体何処に――」
森口沙耶の声だ。
姫路 凜と同じく久し振りに聞いたような気がする。
すると敵の群れの側面から食い破り、此方に飛んで来た。
勿論変身形態だ。
「久し振りね――色々と慈善活動してくたびれたわ。ハヤテも一緒よ」
「そうみたいね――」
何やら巨大な手裏剣を足場にして空中を猛スピードで飛んでいた。
今回は紺色の目に見えて分かる忍者型パワードスーツを身に纏っている。
より詳しく言うならちょっと悪者っぽい忍者戦隊の強化フォームみたいなデザインだ。
背中には忍者刀を背負っており、時折手に持った玩具っぽいデザインの銃で敵を叩き落としていた。
「ハヤテが召集しようとした忍者部隊は殆ど宇宙に上がったわ。地上に残った忍者は私が集めた魔法少女達と一緒に戦ってくれてるの」
「それは頼もしいわね――」
「最後にお客さんが来た様ね――」
「まだ誰か来るの?」
『俺だ』
金髪の少年レイ・シュナイダー。
シャイン・ブレードを身に纏い、この空域まで飛んできた。
『時間が無い! 一気に血路を開くぞ!!』
そう言って両手からエネルギー光弾を乱射する。
蒼翼の進路状の敵に絞って次々と叩き落としていく。
ある程度片付け終えた後、次の技へと移る。
『波動砲!!』
更に両手を眼前に向けて極太のエネルギー砲を発射し、敵の戦闘員も戦闘機も戦艦もそれで薙ぎ払う。
『お前達は先に急げ! 宇宙の方も何時防衛線が崩れるか分からない!』
「分かったわ。ありがとう――」
舞はそう礼を言って先を急ぐのであった――
☆
Side ブレン
『ええい!! ここまで好き放題されるとは――!!』
巨大円盤の司令室でブレンは苛ついていた。
先刻、この巨大円盤に突入した侵入者は未だに暴れ放題だ。
更に敵の飛行船が防衛網を食い破りながら此方に向けて進撃しているらしい。
後もう少しすれば肉眼でも確認できるだろう。
『だが好都合だ――ブレンよ。我々が欲しい物が自ら飛び込んで来たのだからな』
しかし神はブレンに考え方を変える様に言った。
『良いか、これは試練だ。この試練を乗り切れば我々の勝ちだ。マスタージャスティスも暫くは動けまい。あのJOKERを倒せば問題なのは創世石の小僧と闇乃 影司と神装具の小僧ぐらいだ――それを手に入れ、物にする期間さえ手に入れれば我々の勝ちだ』
『ハッ――』
冷静さを取り戻し、神に頭を下げる。
☆
Side 春龍・姫路 凜
飛行船、蒼翼のブリッジ。
そこで春龍と姫路 凜は状況を把握しつつ、指示を飛ばしていた。
チュンロンの付き人のフェイランは操縦に専念している。
「ついに見えて来たわね」
凜はモニターに目をやる。
「SF映画に出て来そうな近代都市が築かれとるアル――」
ブレンの巨大円盤周辺の状況を春龍はそう評した。
地球に降下してまだ一週間も経ってないのにも関わらずこれである。
短期決戦と言う自殺行為染みた考えが正しかったと凜と春龍は思った。
「何処かに連れ去られた一般市民がいる筈――下手に都市へ攻撃は出来ないわ」
「ブレンの船に突撃して制圧する他無いアルね」
「出たとこ勝負って奴ね。嫌いじゃないわ――陸戦班を降下させるわよ!」
そうして戦いは一気に最終局面に入る。
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