第三十九話「なぜ自分達が世界を救わないといけないのか」
「ちょっと皆さんで世界救いに行きませんか?」
この天村 志郎の一言は衝撃的だった。
地球連邦軍の宇宙艦隊、自衛隊を現在進行形で纏めて叩き潰している相手に特別な力を持っているとは言え、中学生達が挑むのは馬鹿げている。
どう考えても普通ではないだろう。
一番敏感に反応を示したのは嵐山 蘭子だった。
「何となくこうなる話の流れになるかと思ったが――正直馬鹿げている! 狂っているとしか言いようがない!」
と、極めて珍しい事に彼女は声を荒らげて反論した。
「まあ嫌なら私一人でも行きますんで。そのためにベルゼルオスの封印を解いたような物ですから」
蘭子の正論に突き放すように志郎が返す。
「ともかく質問は後で受け付けますので私の話を聞いてください――」
そこから天村 志郎は説明を始めた。
☆
天村 志郎が言うには日本は持って一週間だと言う。それも希望的観測を含めた数字だ。
世界中の軍隊も劣勢を強いられているらしい。
地球連邦軍も宇宙艦隊も残存艦隊を中心に再度集結し、自衛隊も戦力を温存して敵の母艦相手に総力戦を挑む腹つもりだ。
在日の地球連邦軍北米方面軍達も同じようだ。
他の地球連邦軍を含めた世界各国の軍隊は自国防衛で手一杯で助けは期待できない。
制宙権(宇宙空間での軍事的優位)、制空権を握らているのが余程痛手らしく生き残った軍事組織は少ない戦力で反抗しているようで捻り潰されるのも時間の問題だとか。
更に襲来時に通信に必要な軍事衛星もかなりの数が破壊されており、軍事行動どころか民間のシステムもマヒになっている。
降下時には民間、軍事施設だろうがまとめて飛行物体は破壊され、日本や在日連邦軍の空軍は壊滅状態。
更に攻撃の手は緩めず、日本は巨大な陸の孤島となりつつあるらしい。
「そして最後の手段が――」
地球連邦軍も宇宙艦隊も残存艦隊を中心に再度集結し、自衛隊も戦力を温存して敵の母艦相手に総力戦を挑む腹つもりだ。
在日の地球連邦軍北米方面軍達も同じようだ。
「もっともこの計画は強行軍で穴だらけです。ですが現時点で取れる最有力の手でもあります。アメリカの映画みたいに核兵器で吹き飛ばすと言う手もありますが、敵の防空範囲は桁違いです。それに宇宙を旅する巨大船相手に核兵器が通じるとは思えませんが……」
確かに志郎の言う通りだ。
すべて的を得ていると猛達は思った。
「さて、勝手ながらそれぞれの戦いの様子は様々な方法で収集させて頂きました。そして奴達がこの星にやって来た理由は少しだけですが判明しています」
それについて語ろうとした時、志郎は深呼吸して暗い顔をした。
「既に勘付いている方もいるかもしれませんが……創星石、妖精石と私が使うその改良型のDストーンなどの明らかに現代地球のテクノロジーを上回るオーパーツ。それが今回の大規模侵攻の目的だとも推測できます。勿論、この地球を植民惑星化するのも目的の一つではあると言えますが・・・・・・」
それを聞いて猛はある人の事を思い出した。
黒崎 カイト。
嘗ては戦い、そして最後は一緒に戦った仲だ。
彼はジェネシスを地球人の存在を本気で信じ、それに備えるために馬鹿正直に研究して殺された集団だと罵った。
しかしジェネシスの理念は正しかった事が証明された。
(今彼は何しているんだろう・・・・・・)
猛は不安に感じた。
「だけど、それだけじゃ私達が戦わなきゃならねえ理由にはならねえな――」
嵐山 蘭子が目付きを鋭くさせて――睨み付けて志郎に言った。
たぶんも何も怒ってるのだろう。
生徒のために。
「いえいえ。さっきも言いましたが標的にされてるんですよ。さっきの戦闘で――私も含めてね。それに言いましたよ? 私は一人でも行くつもりなので・・・・・・」
「バカ言え、生徒を一人で特攻させる教師がいるが。嫌なら私がやる」
「何だかんだ言って良い教師ですよアナタは」
「世辞はいい――それでちゃんとした理由を言え」
どんどん険悪なムードが高まっていく。
そこで舞が一歩歩み出た。
「志郎・・・・・・私のせいなんでしょう?」
揚羽 舞だった。
胸に手を当ててとても悲しげな顔をしている。
「はて? 何の事でしょうか?」
「私がセイントフェアリーに変身出来るのは、変身ブレスレットの御陰じゃない。私の体の中に春歌ちゃんの妖精石のオリジナルが埋め込まれてるんでしょう?」
皆が驚愕した。
特に春歌が慌てて尋ねる。
「それってどう言う――」
「そのままの意味よ。そしてこいつがアルカディアで変身ヒーローとなって戦ったのも、そしてベルゼルオスを開発したのも、一人で特攻するなんて言い出したのも、極論を言えば全部私の責任――」
「だからなんでその鉱物が体の中に埋め込まれてるんですか!?」
話を進めていく舞に再度春歌が問い質す。
「私ね、昔志郎を庇って死んだ事があるみたいなの。私は本当ならそのまま死ぬ筈だった。だけど志郎はどうやってかそのオリジナルを、妖精石を体の中に埋め込んだ。色々と謎が多い部分があるけどね」
彼女は自嘲的な笑みと一緒に衝撃の過去を語った。
志郎は何時もの人懐っこい表情ではなく、とても悲しげな表情をしていた。
「誰から聞いたんですか?」
「貴方の両親からよ――」
「そうですか・・・・・・ずっと知ってて、今迄黙ってくれていたんですね?」
「ええ」
ふぅと息を吐いて笑みを零した。
「敵いませんね。アナタには」
「ええ――この辺りの事については全てに決着が付いたら改めて、二人っきりで語りましょ? てなわけで皆、私も狙われるてるみたいだから私は志郎と一緒に行くわ」
舞は言い切って志郎の傍に歩み寄る。
そして皆の顔が見えるように振り向いた。
「その倫理で行けば僕も狙われますね――そして影司さんも」
「そうだな・・・・・・黒いセイントフェアリーの事を聞くチャンスだけど、そんな雰囲気じゃないし・・・・・・それに地球が侵略されたら追い掛けるどうこうの話じゃないしな」
そう言って稜と影司が口を開いた。
困惑したようにホークが口を開く。
「おい稜、どう言う事だ?」
「僕は地球人なのかどうか、怪しい存在です。そして影司さんも謎の存在の手で化け物同然の体にされ尽くしています。今侵略している存在からすればこれ以上と無いサンプルに成り得るでしょう」
「と言うわけ・・・・・・戦わなければ生き残れないって奴だね」
そう影司が締めくくる。
続いて恵理が胸に秘めた想いを告白する。
「私は――とある組織の手で人体を改造され尽くしているし、舞さんと同じくサンプルに成り得る。それに稜を放っておくわけには行かないから」
「恵理さん・・・・・・」
そして最後に猛と春歌は――
「猛さんは?」
「あの時――橋の上や学校で起きた不思議な空間の御陰で自分も狙われているって分かってる」
「創星石ですか?」
「うん。お父さんがこれを僕に託したのは何か意味があるのかも知れない。だから逃げるわけには行かない。逃げ込んだ先の、大切な人々を傷付けてしまうから」
「猛さん・・・・・・」
「それに」
「?」
「こう言う時だからこそ、ヒーローはいるって示さなきゃいけないんだ。僕の命を守ってくれた加島君のためにも・・・・・・」
そこまで聞いた春歌は目を閉じ、口を開いた。
「・・・・・・私も行きます。学校で、あの人に頼まれましたから――」
「そう」
学校で起きた不思議な空間で出会った人物の正体は何となくだが想像は付いている。
それに出会ったのだろう。
そして橋の上で様々な未来を見た。黒いレヴァイザーとなった自分の姿。悲しみを背負って戦う姿。大切な誰かを失った姿をも垣間見た。
「先生」
「・・・・・・なんだ?」
「ごめんなさい」
「・・・・・・本当はぶん殴ってでも止めなきゃなんねえんだろうが、学園で言った通りだ。全責任背負って、クビになって、何処か静かな場所で余生でも過ごすさ」
猛達の行動は社会的に見れば正しいとは言えないだろう。
最良の選択肢でもないだろう。
だが嵐山 蘭子先生はそれでも止めなかった。
一連の会話で理解したのかも知れない。
もう止められないのだと。
猛は何か言おうとした。
だがこれ以上言うと先生の覚悟を貶すようで出来なかった。
「だけど私も腐っても教師だ。最後まで見届けるよ」
そう言ってタバコを咥える。
「そう言えばホークさんは?」
稜はふとホークに尋ねる。
ホークは腕を組んだ状態でずっと話を聞きっぱなしだった。
「話を聞く限りだと俺も標的なんだろ? それに宇宙人と世界を賭けた戦いだ。折角だから思う存分楽しんでやるよ」
「・・・・・・変わってますね」
「だろうな。それに人間狩りとかで逃げ場なんて無いんだろ? なら待つよりも攻めた方が性に合ってる――ああ、アイムソーリーとかは無しだぜ? 何だかんだで結構この状況楽しんでるからよ」
「はあ・・・・・・」
とは言う物のホークは結構強がりで言ってたりする。
まさか本物のインベーダーの本拠地に突撃するとは彼も夢には思わなかった。
だがちょいと昔の、やり場のない力を持て余して燻っていた頃よりかはマシかと思う事にした。
「さて、話が纏まった様ですし・・・・・・今後の方針について話しましょう」
そして志郎は今後の事について話しを始めた。
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