第二十三話「九龍(がうるん)の少女」


 嘗てこの世界は月の王国、アルテミス王国との戦争、いわゆる月と地球とで第三次世界大戦が起きた。

 こうしてアルテミス王国が独立し、結果だけを見れば月側が勝利したことになる。


 しかし実際には謎の第三勢力の両陣営無差別攻撃により、なし崩し的に終戦を迎えたと言うのが真相である。


 その影響により世界経済は元より捕らぬ狸の皮算用を行ったり、足の引っ張り合いを行っていた地球サイドは混乱した。

 地球の枠組みの中にいる中国も例外では無かった。


 その大混乱に陥っていた中国を建て直す為にある組織の影があったと言う。


 その名も九龍(ガウルン)。


 九人の大幹部で組織運営がなされており、世界的にも高い影響力を持つ組織として中国に君臨している。


 その手は天照学園にも伸びていた――



 天照学園


 商業地区。


 ホテル七星。


 表向きは中国資本の高級ホテルだが実際は九龍のフロント企業であり、活動拠点でもある。


「あー大変だったアル」


 そしてそれを運営しているのは九龍の大幹部の小柄な少女。

 赤い袖無しのチャイナドレスに二つのシニヨンを付け、メガネを身に付けている。

 自分の自室に引き籠もって色々と悪事を働く――暇も無く内政で忙殺されていた。


 彼女の名は春龍(チュンロン)。


 九龍の九人の大幹部の一人である。


 九龍は一応ジェネシスの協力組織でもあり、何だかんだで天照学園とも関係は深いし互いに技術提供したり切磋琢磨している良きビジネスパートナーであり、ライバル関係である。


 天照学園の技術力は世界最高峰であり、下手な関係悪化は組織に不利益をもたらす。


 そんな重大な仕事を中学生の少女に何故任せているのかと言うと色々と深いワケがある。


(中国が懐かしいけど、あんま帰りたく無いのよね――やっぱ秋葉原とか夏と冬の祭典があるサブカルのハリウッドは違うわ)


 何だかんだで重度のオタクである。

 だから日本支部を希望したらこの学園に送り込まれたと言うのが主な経緯だ。

 また親が九龍の大幹部で引退に伴いそれを引き継ぎ、余計な組織の内部抗争から逃れるために中国本部から離れたかったと言う理由もある。


 そうして日本支部に来たのだがここ最近は大変だった。

 ジェネシスの一件を探ったり。

 アーカディアを裏で支援したり。

 デザイアメダルのサンプルを手に入れて本国の支部に送ったりとか。


 まあ良い事も悪どい事も含めて色々とやった。


「春龍様、何時ものお客様です」


 付き人の女性が入って来た。


「うん? 誰アルか?」


 春龍の交流関係は結構広い。

 天村 志郎や姫路 凜などの理事会の親族と交流関係深めたりしている。

 その一方で裏の仕事をしている最中に知り合った人間も多い。


 最近JOKER影浦も学園に戻った事だし、余程の事が無い限りは学園は安泰であろうが・・・・・・それはともかく客は誰だろうか?


 もう夜だと言うのに。まだ夜遊びしている子供は沢山いるだろうが、この時間帯にここに来る人間は限られている。

 それで何時ものと言う事は裏に関わって親しい仲の人間である。


 誰であろうか? と思いつつ通すように言う。


「相変わらずアルとか付けてエセ中国人見たいな口調なのね。今時漫画でもいないわよ」


「おお、沙耶か」


 ヒーロー部の森口 沙耶。

 中学生でありながら高い頭脳を持つ科学者で変身後の姿から黒の魔法使いと言う二つ名でも呼ばれている。

 今はカジュアルな私服姿を身に纏っていた。


「にしても不用心ね? 私がヒットマンだったら命無いわよ?」


「大丈夫アル。最終兵器、作者に物申すと言う方法があるアルよ」


「そう言えばアウティエルの打ち切りエンドから大分経つもんね――まあメタな話はここまでにして、情報交換と行きましょうか?」


「そうアルね。次ヒットするアニメの――」


「それも興味あるけどマジな方で」


「何? 魔法少女育成計画の成果報告とかアルか?」 


「貴方に知らせてどうすんのよ」


 森口 沙耶は素質のある女の子アイテムに魔法少女になれる魔法のアイテムを配ったりしている。

 念の為、バトルロイヤルに突入してないかどうか目を光らせたりしているが今の所はそんな素振りはないらしい。


「サイエンスエリアでちょっと宇宙の異変を観測してるの」


「何? 宇宙人でも襲来するアルか?」


「異世界人なら目の前にいるわよ? 今はまだ小さいけどそう遠くないウチに一種のワープ空間が開くわ。場所は日本上空。データーはこれに」


 そう言ってUSBメモリを机に置く。


「日本狙われすぎアルよ――何か呪われてるアルか?」


「あんまりメタな会話すると批判来るから止めときましょ。志郎も警戒しているみたいだけど、まあ明日どうこうって言う話にはならないわね」


「フラグアルね、分かります」


「言ってる傍からお前は――まあ、らしいっちゃ、らしいけど」


 沙耶は苦笑する。


「そう言えばヒーロー部はどうアルか?」


「ああ、志郎に頼まれたのと女目当てに入ったけど悪くは無いわね」


「お前も大概アルな・・・・・・」


 森口 沙耶はレズビアンである。

 春龍は好みの対象外なのを分かっているがどうしても時折春龍は身の危険を感じてしまう。


「だけど、最近はユナちゃんが可愛くて」


「え? なに? 人身売買に手を染めたアルか?」


「いんや。私とは別口で魔法少女になった子。何か傷心気味だから今お付き合いしている最中」


「弱っている所を付け込んで自分の物にするとは屑の鏡アルな。それ身内(ヒーロー部とか)知ってるアルか?」


「知らないわよ。聞かれてないんだし」


「何か大変アルな・・・・・・それで用はそれだけアルか?」


 かなり話が脱線気味だったので、修正する。


「これから先も九龍としての貴方の力が必要かもしれない」


「へえ」  


 その一言で春龍の雰囲気も裏世界の大幹部のソレに変わった。


「ブラックスカルの事件が可愛く思えるぐらいの危機が迫っているわ。それにジェネシスの事件だってまだ全て解決したわけじゃないし、デザイアメダルを悪用しようとする連中も必ず出て来る」


「貴方、そう言うキャラだっけ?」


 春龍は沙耶が以前に比べて人が良すぎるように思えた。


「そうね、この学園に長く居すぎたせいかも知れないわね」


 沙耶はアッサリ肯定し、春龍はため息をついて「そんなんだと長生き出来ないわよ」と言うが沙耶は鼻で笑ってこう返す。


「長生きして、どうなるってのよ」


「・・・・・・それ、聞かなかった事にするから他人に言っちゃダメよ」


 何時になく真剣な表情で春龍は警告する。

 沙耶は苦笑した。


「アル口調無くなってるわよ」


「・・・・・・私もらしくないわね。何かマジになっちゃうと付けるクセが無くなるみたいなの」  


「そう・・・・・・じゃ、私は行くわ」


 そして沙耶は去って行った。


「さてと、仕事に戻るアルか・・・・・・」


 春龍は事務仕事へと戻る。

 世界の危機に備えるのも大切だが日常を維持するのも大切なのである。


 

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