第十三話「激突」


 お墓参りをすませ、アーカディアへの施設への帰り道の道中。

 住宅街で猛と春歌はある人物と出くわした。


「君は?」


「待ってたぞ・・・・・・」


 髪の毛が逆立っていて、黒尽くめのコートを身に纏った、俳優をやっていそうな人物だ。

 二人は最初は誰か分からなかった。


「黒崎 カイト。これに見覚えはあるか?」


 そして黒崎 カイトの手元に黒い鳥の様なマシンが現れた。


「貴方はあの時の!?」


 城咲 春歌はその時ハッとなった。

 あの時、一方的に因縁を付けて来て天野 猛と戦闘し、そして勝利した男だ。

 思わず春歌は身構えるが猛は手で制す。 


「何か用?」


「少し付き合えるか?」 


「付き合えるかって、また戦うつもりですか!?」


 春歌は問い質すが猛は近寄っていった。


「ちょっと猛君!?」


「大丈夫。心配しないで」


 猛は何時もと変わらぬ笑みを浮かべる。


「心配しますよ!! 前回あんな事になったなんですから!!」


「お嬢ちゃんはああ言っているがお前はどうする?」


 と、再度カイトは猛に決意の程を促すが――


「行くよ――ごめんだけど春歌ちゃんは先に帰っててね?」


「ちょ、ちょっと!!」


 そうして二人は夜の町に消え、春歌は取り残された。



 猛とカイト。


 人気の少ない住宅街近くの二人は海岸で向かい合っていた。


 まず最初にカイトが話を切り出した。


「お前はどうして戦っている?」


「・・・・・・自分みたいな人間を減らしたい。これ以上の犠牲を出したくない。黒崎さんはどうなの?」 


「カイトでいい。それと名前は知ってるんだな」


「あの後調べて貰ったから・・・・・・」


「そうか・・・・・・俺のやる事は変わらない。ジェネシスの遺産を全て潰す。だが全部が全部潰すつもりはない」


「どう言う事?」


「考えが変わったと言ってもムシが良すぎるか・・・・・・何で最初、形振り構わず破壊しようとしたか分かるか? 人のために正しく使っているとかそうとかじゃない。目立ちながらも戦い続ける事事態が問題だった」


「だけど、多少衆人観衆に晒されるのを覚悟して戦わないと――」


 カイトの真意は分からないが猛は一先ず正論で返す。


「そう、その通りだ。世間では確かにお前達はヒーロー扱いだ。アーカディアにいる連中も含めてな。だが人前で戦えば戦う程その力に群がる連中が現れ、またジェネシスの様な悲劇が繰り返される」


「それが戦う理由――」


 身勝手な意見にも思えた。

 しかし彼の言う事にも一理はある。

 確かに自分達はヒーロー扱いだ。

 しかしその力を無理矢理にでも奪おうと考える人間は沢山いるだろう。


 デザイアメダルがその代表例だ。


 使用すれば誰だって超人的な力を得られる。

 警察だって恐くはない。

 自衛隊でも動かない限り誰にも止められない。

 そんな力が欲しい人間はこの世に幾らでもいる。


「だけど事情が変わったってどう言う意味?」


「デザイアメダルがどれだけ溢れているか知っているか? もう政府を経由して世界中に拡散しているだろう。学園の中だけでも今の様な惨状だ。何れ日本全国で発生するのも時間の問題だ。対抗できる人間は多い方が良い」


「そう・・・・・・」


 確かに黒崎 カイトの言う通りだ。

 遅かれ早かれ何れはそうなるだろう。


「お前がヒーローであろうとすれば、いずれ日常生活どころじゃなくなる。悪い事は言わない。遊び半分で戦っているのなら今直ぐ降りろ」


「降りない。少なくとも今は降りるわけには行かない」


「じゃあ力尽くで降りさせると言ったら?」


「それでも降りない」


 一触即発の緊迫した空気が流れる。


 波風の音が両者の間に木霊する。


 そうして暫しの間を置き、黒崎 カイトは口を開く。


「じゃあこんな話を知っているか? ジェネシスの本当の目的を」


「ジェネシスの本当の目的?」


「ジェネシスはそもそも発見されたオーバーテクノロジーや学園で産み出された超科学技術などの平和利用を目的とした団体じゃない。お前のスーツや俺の変身アイテムを見れば分かるだろう? どう見ても戦闘用だ」


 確かに言われてみればそうだ。

 もっとレスキューヒーロー然としたスーツがあっても良い筈である。

 にも関わらずデザインは置いといて存在するのは戦闘に特化したようなスーツばかりである。


 霧の玩具屋が売買している変身アイテムとジェネシスの関係性は不明であるが何かしらの繋がりがあるかもしれない。


「じゃあ本当の目的は?」


「ジェネシスの人間は地球外生命体の存在・・・・・・平たく言えば宇宙人の存在を信じているのさ。そして接触し、万が一対抗する事態に陥った時の為にお前や俺のスーツを開発したんだ。少なくとも今の様な状況のためじゃない」


 俄に信じ難い内容だった。


「誰から聞いたの?」


「ジェネシスの関係者からだ・・・・・・もしこれが暴露されれば世間はどう思う? 下手をすれば道化の集団だ」


「だから証拠隠滅の為に破壊して回ろうとしたの?」


「そうだ。それが表沙汰になる前に全て一人で決着を付けようと思った。今でもその気持ちは変わらない」


「だけどもう手遅れだよ。相手の組織の規模は想像以上だよ。ブラックスカルを倒せば真実が公になるのはある程度時間稼ぎが出来るかも知れないけど・・・・・・強いよ。二人掛かりでも厳しいと思う」


 現在、ジェネシスの爆発事件の首謀者一味はブラックスカルが主従関係を逆転させて手足の様に使われている状況だ。


 今のブラックスカルは何をしでかすか分からないが政府は弱味を握られ、実力行使も通用しない以上は従うしかない。


 逆に言えば彼を倒せば黒崎 カイトが恐れている真実の公表、ジェネシスの職員が道化扱いされる可能性は低くなる。


「どうしてそこまでしてジェネシスの人達の名誉を守ろうとするの?」


「俺には恋人がいた」


「え?」


「ジェネシスで研究員として働いていた。だが襲撃の中で命を落とした。残ったのはこの変身アイテムだけだ」


 そう言って右手に黒い鳥形ロボットの変身ツールを乗せる。


「その名誉を守るために、ジェネシスの全てを闇に葬ろうとしたんだね」


「ああ・・・・・・正直今でも迷っている。他のヒーロー連中ともども、このまま力尽くで奪い取って辞めさせるべきかどうか」


「・・・・・・なら戦って確かめて見る?」


 猛は静かに、だが力強く提案した。


「なに?」


「僕の覚悟が本物かどうか・・・・・・少なくとも、僕は遊び半分で戦っちゃいない」


「ふん、またやられたいのか?」


「やられるとか、やられたくないとかじゃない。もしここで引いたら――加島君の想いや、春歌ちゃんの気持ちが無駄になる!」


「そうか・・・・・・なら確かめてやる」


 そして二人は戦う決意を決めた。


「「変身!!」」


 両者の姿が変わる。


 青き戦士。


 漆黒の翼の戦士。


 徒手空拳でぶつかり合う。

 だが互いに場数を踏んでおり、戦い馴れているせいか中々友好打が出ない。

 まれにケリや拳が当たるだけだ。


「空は飛ばないの!?」


『ただのハンデだ!! そっちもどうして姿を変えない!!』


「ならこっちだって変えない!!」


『好きにしろ!!』


 突き飛ばされたら殴るために距離を縮め。

 倒されたら直ぐに起き上がり体制を整え。

 ただひたすらに戦う。

 両者とも激しい接近戦を繰り広げていた。


『何故そこまでして戦おうとする!?』


「辛い過去、悲しい過去がなくても、誰かの為に真剣に戦ったっていい! それを皆から教えて貰った! だから今だけは自分のやりたい様に戦う!」


『そうまでしてヒーローごっこがしたいか!?』


「ヒーローごっこじゃない! 本気の全力の嘘偽りない何の特にもならない無料奉仕だ!」


『随分口が回るな! 最近の学生は口ケンカの勉強までしてるのか!?』


「そう言うアンタこそ、どうして自分の気持ちに素直になれないの!?」


『大人だからな! 少なくともお前より理性的に行動出来る!』


「さっきまで迷ってたクセに!」


『言ってろ!』


 口論もヒートアップしていく。

 段々と内容が子供の口ケンカレベルになっていった。


 拳、蹴りをぶつける度に火花が散る。

 意地と意地のぶつかり合い。

 戦いではなくケンカの延長線上の行為。

 それでも二人は真剣にド付き合いをしていた。 


「例え理由が何だろうと、その変身アイテムは――本当は世の中のために、平和の為に役立てて欲しくて作った筈だ!」


 そんな中で、猛は黒崎 カイトの変身アイテムに言及した。


『お前にアサギの何が分かる!』


「分かる! 僕の友達に、変身アイテムを作ってる人がいるから! その人は・・・・・・ただ大好きな人が格好良く戦う姿を眺めたいだけじゃない! 本当はもう戦って欲しくないって思ってる。けど、誰かの為に本気で戦う彼女をその人は止められなかった!」


 それは天村 志郎と揚羽 舞の事だった。


『傍迷惑な話だな! 自分のエゴで地獄の道連れを増やすとは!』


「そんなの志郎君だって分かってる! 後悔してる! 止めるには、力尽くで止めないと行けない事も分かってる!」


『なら何故そいつはそうしない!?』


「想いを大切にしたいから・・・・・・カイトの、その変身アイテムを作った人だってそう言う想いを込めた筈だよ!?」


『いるかもどうかも分からない宇宙人と戦う為にか!?』


「違う! もっと単純な気持ちだよ! 僕だって、このベルトを渡された意味をずっと考えていた時期がある。だけど今なら分かる!」


 レヴァイザーの拳に緑の光が灯った。

 胴体の球体の出っ張りの下半分が開かれ、緑色の発光を行う。


『なっ!?』


 ――大切な人の為に。大切な人が、困難な時にぶつかった時、想いも信念も貫き通す為に必要だったんだって!


 レヴァイザーの発光した拳がブラックセイバーに直撃した。

 爆発と共に吹き飛び、黒崎 カイトの変身が解除される。


「そう言えば必殺技の制限はしてなかったな・・・・・・」


「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」


 激しい殴り合いで疲れたのか猛もその場にへたり込む。


「大切に想う気持ちがあるから、危険な目に合わせたくないって言う気持ちは分かる。けど、本当にそれが大切にする事なのかな・・・・・・」


「子供は何時かは大人になるからな。間違っちゃいない。ただお前見たいな子供が命のやり取りの世界に踏み込むのは早すぎる。本来なら警察だかの仕事だろ・・・・・・最もその警察が頼りにならないからこうして俺達みたいなのが割食ってるんだがな」


「そう・・・・・・だね。何時かは僕も変身ベルトを捨て去る時が来るのかな」


「何時かは人間は死ぬんだ。その前に仕事だか家庭だか子供だか、それでも老いを迎えればイヤでもその時が来るさ」


「それもそうか・・・・・・」


 確かにその通りだと思った。

 自分は人体改造された改造人間でも不老不死の生命体でもない。

 遅かれ早かれベルトと別れを告げる日が来る。

 ただそんな当たり前の事なのに今更気付いて何だかおかしくなった。


「何笑ってやがる」


「うん? そう?」


「ふん・・・・・・」


 そして黒崎 カイトは立ち上がった。


「行くの?」


「ああ。お前の心意気は認めてやる。だが、お前が道を間違えたら俺が力尽くでそのベルトを粉砕するからな」


「分かった」


「・・・・・・お気楽な奴だ」


「ねえ? これからは一緒に戦える?」


「子供と一緒にお遊戯する年頃でも無いんでな」


「そう・・・・・・」


 そして黒崎 カイトは消え去った。

 天野 猛もアーカディアの施設へと戻る。



 猛はアーカディアに戻り、城咲 春歌に叱られる事になった。


「結局傷だらけじゃ無いですか!? 何の為の休暇だったんですか!?」


「ご、ごめんなさい・・・・・・」


「スーツもボロボロにして・・・・・・とにかく安静ですからね!?」


「はーい」


 春歌の言う通りなのでただ大人しく従う他無かった。

 それにダメージが大きいし、とにかく回復に務める事にした。


 そして黒崎 カイトはと言うと・・・・・・


『随分派手にやったみたいだな。それにしても君らしくもない・・・・・・』


「見ていたのか」


 アジトの一つとして使っている学園内の廃工場で黒い漆黒のコートを身に纏ったレヴァイザーと接触していた。

 テーブルの上に黒い鳥形マシン、黒崎カイトの変身アイテムを置いて、ケーブルに繋ぎ、空中にウィンドウを表示させて何やら手馴れた手つ付きで入力する。


『ああ。吹っ切れたか?』


「さあな・・・・・・少なくとも辻斬り紛いの行為は控える気にはなった」


『そうか』


 そしてカイトはその辺に置かれたパネルで横になる。

 流石に激しく殴り合ったせいでダメージが大きい。

 特に最後の一撃。

 そして放たれた言葉。


 ――大切な人の為に。大切な人が、困難な時にぶつかった時、想いも信念も貫き通す為に必要だったんだって!


(大切な人の為にか・・・・・・)


 ――ごめんなさい――カイト。


 ――アサギ!! 死ぬなサキ!!


 ――・・・・・・


 ――アサギィイイイイイイイイイイイイイ!!


 あの直前、ブラックセイバーはアサギがカイトに死ぬ間際に託された物だ。 

 これを使って何をするべきか考えた事は無かった。

 ただ死んでいった人の為だけに動いてその気持ちを理解しようとは思わなかった。


 だが今回の戦いで何となくだが託された理由が分かった気がした。 


  

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