第23話『群青色の闇』
朝食の後片付けを終えてスマートフォンを確認すると、有紗さんから数分前にメッセージが届いていたことに気付く。
『青薔薇のことが報じられているね。文化祭は予定通りに開催されるみたいだけど、羽賀さんや浅野さんは文化祭に行くの?』
という内容だった。青薔薇といえば不正や犯罪を暴くイメージがあるから、2人が警察官として青薔薇のメッセージについて捜査すると考えているのかな。
『天羽女子は神奈川県ですから管轄外だそうです。ただ、僕の恋人が天羽女子に通っているので文化祭に遊びに来たという名目で、天羽女子でメッセージのことを調べるつもりらしいです。なので、2人と岡村は先に天羽女子に行くらしいです。羽賀には、僕らは昨日と同じくらいに行くと伝えてあります』
という返信を有紗さんに送った。
そういえば、羽賀は先に天羽女子に行くと言っていたけど、親友の恋人が通っている文化祭に着ていた休暇中の警察官が、文化祭の始まる前の学校に入れるのか? あの地域を管轄する警察署や、神奈川県警の警察官ならまだしも。ただ、羽賀なら、そこは上手く言って文化祭が始まる前に学校に入りそうだな。
――プルルッ。
すると、有紗さんから返信が届く。
『分かった。じゃあ、昨日と同じように9時くらいに鏡原駅で待ち合わせして、一緒に天羽女子へ行こう』
僕らはいつも通りに行って、調査をしている羽賀達と会おう。
その後、洗濯物を干していく。今日も晴天で、雨が降る心配もない。風も少し吹くからよく乾きそうだ。
9月になってから、休日を中心に洗濯を担当するようになった。ほぼ毎回、美来の下着を手にすると大きいなと思う。あの大きな胸を包んでいるんだから、このくらいあって当然だけれども。前に僕が洗濯していいのかと美来に訊いたことがあるけど、僕が触れた下着を身につけると幸せになれるから大歓迎らしい。
「美来は底知れぬ女の子だな……」
そんなことを呟きながら、僕は昨日着けていた美来の桃色の下着を干した。そういえば、今日の下着の色は黒だったな。
色と言えば、青薔薇は2枚の赤い紙を天羽女子に送りつけていたな。1枚は赤い紙で、もう1枚は青い点が打たれていた。あとは裏側が黒く塗られた500円玉か。それらは何の意味を示すんだろう?
「……さっぱり分からないな」
ただ、それを天羽女子に送りつけたってことは、学校や生徒、職員と何かの関わりがある可能性は高そうだ。生徒や職員は悪くないと青薔薇はメッセージを出していたけど。
「あっ、もうすぐ出ないと」
考え事をしながら家事をすると、あっという間に時間が過ぎてしまうな。
昨日と同じように黒のカーディガンを着て、帽子を被り、天羽女子に向かって出発する。青薔薇のこともあるし、無事に家に帰ってくることができるといいな。
急ぎ足で桜花駅に向かい、僕は昨日と同じ時刻の快速電車に乗ることができた。これで遅延や運休がなければ、9時までには鏡原駅に行けそうだ。
昨日は仁実ちゃんと一緒だったけど、今日は一人なので音楽を聴いてスマートフォンを弄ることに。
ニュースサイトを見てみると、青薔薇が天羽女子にメッセージを送ったことが記事になっている。このことで天羽女子に人が集まりすぎて混乱しなければいいけど。
――プルルッ。
美来からメッセージが届く。学校で何かあったのかな。
『学校はいたって平和です。クラスメイトや声楽部の先輩方もみんな来ました。昨日、青薔薇さんが文化祭に来ていたことや、今日も来るんじゃないかということで興奮している人がいるくらいです。昨日よりもいい雰囲気ですね』
青薔薇はミステリアスな正義のヒーロー。昨日の文化祭に来ていたとなれば興奮したり、今日も来るんじゃないかと期待したりする生徒もいるか。何にせよ、学校が明るい雰囲気であることはいいことだ。さすがは青薔薇といったところか。
『いい雰囲気になっているなら良かった。みんなと一緒に無理せずにメイドさんを頑張って。今、学校に向かっているところだから、また後でね。』
という返信を送った。美来達には青薔薇とか関係なく楽しい文化祭を過ごしてほしい。
「人が来すぎたり、盛り上がりすぎたりして混乱する事態にならないといいな」
そのことで、天羽女子の生徒や職員の方などに迷惑がかかったら、文化祭も楽しめなくなるだろうから。
車内モニターでも、青薔薇のニュースが流れている。青薔薇が送ってきた2枚の赤い紙と裏面が黒く塗られた500円玉の写真も表示されているな。3つ合わせて1つのことを現しているのか。それとも、2枚の紙と500円玉で別々のことを示しているのか。そもそも、青薔薇は何を考えているのか。
「……分からないな」
心の中で呟いた回数も合わせると、もう何回になるだろうか。分からないという名の沼に嵌まってしまった感じがする。
羽賀はこのメッセージの謎は解けたのかな。彼の性格からして、何か分かったら僕に連絡してくると思うので、まだ分かっていない可能性の方が高そうだ。
『まもなく、畑町駅です。お降りの方は――』
「もう畑町か」
考え事をしていたらあっという間に時間が過ぎていくな。
僕は畑町駅で電車を降り、潮浜線に乗り換えて鏡原駅へと向かう。今日も時間通りに電車が動いていくな。
鏡原駅に到着し、昨日と同じように僕は改札口で有紗さん達のことを待つ。
『鏡原駅に到着しました。昨日と同じように改札口を出たところで待ってます』
有紗さん達にはこれで大丈夫かな。
そうだ、せっかくだから羽賀に今はどうしているか訊いてみるか。
『羽賀、今はどうしてる? メッセージを解く手がかりは掴めたか?』
まだ9時にはなっていないけれど、岡村や浅野さんと一緒に学校の中に入っているのだろうか。
――プルルッ。
もう羽賀から返信が来たのかと思ったら、有紗さんからだった。
『分かった。昨日と同じで、9時くらいに鏡原駅に着く予定だから』
昨日と同じように来られるなら安心だ。
――プルルッ。
おっ、今度は羽賀からの返信か。
『職員室の隣にある会議室を借りて、調査を行なうことになった。岡村と浅野さんと一緒に行き、事情を話したら通してくれた。肝心のメッセージ内容は見当すら分からない。なので、氷室達が学校に来たら、一度、会議室に来てくれないだろうか。考え方や知恵を借りたい』
予想通り、文化祭が始まる前だけど学校に入ることができたのか。さすがにまだメッセージの内容は全然分からないか。
『分かった。有紗さん達と合流したら、羽賀達のところに行くことにするよ』
僕らにできることがあれば何でもしたい。すると、羽賀からすぐに返信が来て、彼らのいる第1会議室は教室棟の2階にあるとのこと。
一応、羽賀達が学校の第1会議室にいることをメッセージで伝え、彼女から了解のメッセージを受け取った。彼らがいることが分かっているだけでも、安心感は違うだろう。
「智也君、お待たせ!」
気付けば、有紗さんと明美ちゃん、詩織ちゃんが改札口を出てきていた。電光掲示板に表示される時刻を見ると、もう午前9時か。あと、こんなに近くにいるのに有紗さんは大きく手を振ってきて。3人の中で一番子供っぽいな。
「おはようございます、有紗さん、明美ちゃん、詩織ちゃん」
「おはようございます、氷室さん」
「おはようございます。一晩経ったら、青薔薇からメッセージが届いているなんて。美来ちゃん、転校した天羽女子でも大変なことになってますね」
「メッセージの真意はまだまだ分からないけれどね、詩織ちゃん。そうだ、羽賀達は既に天羽女子の会議室を借りて、青薔薇のメッセージについて調べ始めたみたいです。ただ、見当も付かないそうで、天羽女子に着いたら一度会議室に来てほしいとのことです」
「羽賀さんがそう言っているなら、早く天羽女子に行かないといけませんね! ほら、お姉ちゃんも詩織ちゃんも行くよ!」
明美ちゃんは有紗さんと詩織ちゃんの手を引いて、天羽女子に向かって歩き出す。羽賀が関わっているからか張り切っている。何だか美来と重なる部分がある。
昨日よりも速い足取りで、僕らは天羽女子高校に向かうのであった。
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