第26話『抹茶』
僕と美来はレストランでお昼ご飯を。
僕は羽崎町のご当地ラーメンである羽崎醤油ラーメンを食べた。魚介類系の出汁をふんだんに使っているそうなので、匂いは結構強かったけれど、さっぱりとしていてとても美味しかった。
美来の方もご当地料理で、ここのレストランの窓からも見える海で取れた海産物を使った和風スパゲティ。美来と交換し合って、僕も一口食べて見たけど、磯の香りが程良く感じられてなかなか良かった。
さっぱりとした温かいものをお昼ご飯にしたことで、この流れで美来のお目当ての抹茶アイスを食べても大丈夫そうだ。
レストランの隣にアイス屋さんがあった。ここの地域で収穫できるお茶の葉である羽崎茶を使っているからか、アイスを目当てに10人くらいの人が並んでいる。
「ソフトクリームもあるんですね」
「みたいだね」
ソフトクリームを持って建物の外に出る若い女性がいる。その後ろにはバニラアイスを持った中年の男性。でも、どちらもコーンなのか。
「智也さんは何にしますか? 味もたくさんありますけど」
「あぁ、これは迷うね」
バニラ、抹茶、チョコ、ストロベリー、ラムネ……色々とあるな。バニラ、抹茶、チョコはソフトクリームも販売されている。バニラと抹茶のミックスがあるのか。
「たくさんあるけど、やっぱり僕は抹茶味のアイスが食べたいかな。自宅が近かったら全種類1つずつ買って、家でゆっくり食べるんだけど」
「ふふっ、確かに。私は……抹茶味のソフトクリームにしようかな。アイスクリームとソフトクリームなら、ソフトクリームの方が好きなんです」
「そうなんだ。僕はアイスクリームの方が好きかな。好きなものを食べるのが一番いいよ」
そんなことを話していると、列はどんどん進んでいき僕達の順番になった。
「抹茶アイスと抹茶ソフトクリームを1つずつお願いします!」
「かしこまりました」
「すみません、アイスってカップもありますか?」
「ございますよ」
「じゃあ、アイスの方はカップでお願いします」
「かしこまりました」
カップがあるんだったらそっちの方がいい。美来は隣で不思議そうな表情をして僕のことを見ているけれど。
「600円になります」
「はーい。600円ですね」
600円……ああ、アイスクリームもソフトクリームもそれぞれ300円なのか。こういうところのアイスってもっと高いイメージがあったけど、意外と良心的な価格設定だな。
「お待たせしました。抹茶のソフトクリームとアイスクリームなります」
「ありがとうございます」
やっぱり、カップの安心感はいいね。
「せっかくですから、景色でも見ながら食べましょうか」
「そうだね」
建物の外に出ると、運良く近くにベンチが空いていた。美来と僕は隣り合って座る。
「それじゃ、いただきますね」
「うん、召し上がれ。アイスいただきます」
僕は抹茶アイスクリームを一口食べる。
「あぁ、美味しい。やっぱり抹茶は好きだな……」
意外と甘さが控え目で、抹茶の苦味が利いていて美味しい。これなら甘いのがあまり得意ではない人でも食べられそうだ。
「美味しい!」
美来は抹茶のソフトクリームをペロペロと舐めていて……唇に付いたクリームを舌で舐め取っている。何だか凄く艶やかに見えるなぁ。よし、スマートフォンで写真を撮っておこうかな。
「……今、ソフトクリームを舐めている私の姿がエロいって思いながら、写真を撮っていたでしょう?」
「な、何で分かっちゃうのかな」
「舐めたら美味しいミルクが口の中に入るんですよ? それって……」
「それ以上は止めなさい。ここは2人きりの場所じゃないから」
「ええっ、何を想像していたんですかぁ?」
美来、僕のことを見ながらニヤニヤしている。まったく、僕のことをからかって。こうなったら、今夜は美来に色々なことを要求してみようかな。
「智也さん、ソフトクリームをペロペロしている私の写真を……」
「……エロいとも思ったけれど、一番は可愛いと思って写真を撮ったんだよ」
可愛らしい笑顔で、腋がチラッと見えていて、胸のラインがしっかり見えていて、それでソフトクリームをペロッて舐める瞬間のこの写真をいかがわしいことに使わ……ないけど、この写真を見てエロくないと言ったら嘘になりそうだ。
「智也さんも一口どうですか? 甘くて美味しいですよ」
「じゃあ、いただこうかな。こっちのアイスクリームもどうぞ。抹茶の苦味がしっかりしているから、大人の味って感じかな」
「そうなんですか。ちょっと楽しみですね。では、お言葉に甘えて……」
僕は美来のソフトクリームを一口いただく。アイスクリームを食べた後だからか、結構甘く感じるな。ソフトクリームの方がミルクを多く使っているのかな。もちろん、これはこれで美味しい。
「アイスの方も美味しいですね。ソフトクリームを食べた後だからかもしれませんが、とてもさっぱりしているように思えます」
「そっか。僕は逆にソフトクリームが結構甘く感じたよ」
「ふふっ、そうですか。あの、買ったときから思っていたんですけど、どうして智也さんはカップにしたんですか? コーンがあまり好きじゃないとか?」
「いや、コーンは好きなんだけど……冷たいものってあまり早く食べられなくて。だから、アイスが溶け出して、コーンを持っていた手がベタベタになったり、柔らかくなったアイスが床や道路の上に落ちたりして……」
「あぁ、そういうことってありますよね。私もありましたよ。特に小さい頃は」
「誰でもそういう経験ってあるよね」
僕の場合、その確率がかなり高いだけで。
「私、甘いものだと無心になってパクパク食べちゃうときありますから。こんな風に」
美来はコーンに乗っているソフトクリームをパクッと平らげた。それでも美味しいと笑顔になれるのが凄いと思う。僕の場合、寒くて体が震えるか、頭が痛くなるかのどちらかだから。
「そんなことを言っているうちに溶けてきた。良かった、カップで」
「でも、ちょっと溶けているくらいのときが一番美味しいんですよね」
「言われてみればそうかもしれない」
冷たいと味が分かりにくいからかな。アイスが柔らかくなった今の方が、抹茶とミルクのコクがより感じられて美味しい。
「美来も食べてみる?」
「いいんですか?」
「もちろん。あーん」
「……あーん」
スプーンで美来に抹茶アイスを食べさせる。
「美味しいです。智也さんに食べさせてもらうと一段と美味しいですね」
幸せだと言わんばかりの笑顔を浮かべているな。ここで抹茶アイスを食べたいと言っていたし、旅行の思い出の一つになったかな。
「では、智也さん。お返しでコーンを一口食べてください。嫌いではないんですよね。もうクリームはほとんどついていないので大丈夫ですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
僕は美来のコーンを一口食べる。元々は抹茶のソフトクリームが乗っていたので、ちょっと柔らかくなっていて抹茶の味が染み込んでいる。
「美味しい。ひさしぶりに食べたから、昔を思い出したよ」
「その言い方ですと、本当にひさしぶりだったんだって分かります。ちなみに、何年ぶりくらいですか?」
「はっきりとは思い出せないけど、少なくとも成人になってからは初めてかな」
夏を中心にアイスは食べるけれど、スーパーやコンビニで買うのはカップアイスか棒状のアイスキャンディーくらいで。
「ということは、コーンとは本当にひさしぶりの再会だったんですね」
「そうなるかな。まあ、もうちょっと早く食べられるようになったら、コーンのアイスに挑戦してみるよ。まあ、今は美来がいるから美来に手伝ってもらうのもありか」
「そのときはいつでも言ってきてくださいね。私、アイス全般大好きですから!」
「ははっ、そっか。頼もしいな」
そんなことを話していたら、アイスはもう液体になってしまっていた。僕は残りの液体抹茶アイスを飲む。どうやら、カップで正解だったようだ。
時間も午後1時を回ったところか。これから恋人岬に行って、ホテルに戻れば海やプールで遊ぶ時間も十分に取れそうかな。
「アイスクリームもソフトクリームも美味しかった」
「そうですね。やりたいことができて良かったです」
「じゃあ、そろそろここを出発して恋人岬に行こうか。これから下りのロープウェイに乗るけれど大丈夫かな?」
「だ、大丈夫ですよ! 智也さんが一緒にいてくれるなら……」
そう言うと、美来はぎゅっと手を握ってきた。僕が一緒でないとロープウェイに乗れないと言わんばかりの表情をしているな。
僕らは一緒に駐車場へと戻るロープウェイに乗るけど、下っているからなのか美来はさっきよりも怖がっていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます