第114話『リボン』

 有紗さんが帰って、僕は美来と2人きりに。

 いつもなら美来は嬉しそうな表情をして、僕に抱きついてくることもあったのに、僕が美来と付き合う……いや、結婚することを決めたからか、正座をして僕のことをチラチラと見ている。


「美来」

「は、はいっ!」


 緊張しているのか、美来の声が翻ってしまっている。


「美来が2度もプロポーズをしてくれたから、僕も付き合うことを飛び越えて結婚を申し込んじゃったけど、美来はそれで良かった? もちろん、美来のことが好きでずっと一緒にいたいと思ったから言ったんだけれどさ」

「もちろんです! 私は10年間、どんなときも智也さんと結婚したいと考えていましたから。でも、実際にこうして智也さんと想いが重なると、あまりの嬉しさに……感慨に浸ってしまいますね。温かいお風呂にずっと浸かっていたい感じといいますか」

「あぁ……何となく分かる気がする。まずはじっとしたまま、気分のいい状態を味わっていたいみたいな感じか」

「そんな感じです」


 なるほど。何となく分かった気がする。特に冬だと湯船にずっと浸かっていたいもんな。美来は今、あんな感覚なのか。10年間待ち続けた上で結婚を申し込まれたらそう考えるか。


「美来にはお待たせしましたって感じになっちゃったね」

「いいえ、いいんですよ。10年前、智也さんは私が結婚できる年齢になったときにまた考えようと言ってくれましたし。この10年間、色々なことがありました。智也さんと再会してからも。それらのことを乗り越えて智也さんと結ばれたのですから、私は今、とても嬉しい気持ちでいます」

「……そうか」


 僕と美来は10年前のあの日と、先月からしか会っていない。しかし、それらが点と点で独立しているのではなく、好きだという気持ちによって10年間の線として繋がっていたんだ。


「智也さん。好きです。大好きです」


 そう言うと、美来は僕のことをぎゅっと抱きしめた。彼女の温もりと甘い匂いを感じる。


「美来……」


 美来の背中に手を回し、僕はそっと美来にキスする。


「んっ……」


 美来の口から漏れる甘い声によって、体も心も段々と熱くなってくる。それは美来の方も同じようで、気付けば美来と舌を絡ませていた。


「智也、さん……」


 今まで僕の心にあったしがらみのようなものが、美来と生涯を共にすると決めたことですっかりとなくなっていた。舌を絡ませながら、美来のことを押し倒す形に。


「何だか、今日の智也さんは積極的な気がします」

「僕もその……男だし。それに、美来を僕の嫁にすると決めたからね」

「お嫁さんですか。いい響きですね。奥さん、妻、お嫁さん……ふふっ、私の憧れていたものになれると思うととても嬉しいですね」


 美来の笑う顔がとても可愛らしい。これまでの中で一番可愛らしく思える。これが僕の嫁になったパワーなのか。


「智也さん。私達はもう夫婦も同然です。ですから、一緒に営みたい……」


 僕の目を見つめながら敬語を崩して甘えるところがまた可愛らしくて。僕の心を絶妙な力加減でくすぐってくる。10年近く想い続け、8年近くも見守っていただけあって、僕のことをとてもよく分かっている感じだ。


「うん、分かったよ。その……色々としてみよう」

「智也さん……ありがとうございます。もちろん、避妊するためのものはベッドの収納場所に入れてありますから!」

「用意がいいね。お風呂に入ってからでいいかな」

「もちろんです。一緒に入りましょう」




 僕らはゆっくりとお風呂に入って、僕達のペースで夫婦の営みを行なった。お互いに初めてということもあって試行錯誤をしながら。僕らは深く愛し合った。

 そんな中、美来は数え切れないくらいに僕のことを好きだと言ってくれた。こんな日が来るなんて。夢のようだった。


「とても素敵な時間でした。智也さんと確かに繋がることができて。凄く気持ち良くて。愛おしい時間になりました」

「それなら良かった。僕も……美来のことが好きなんだって改めて強く感じたよ」

「嬉しいです。これでずっと智也さんと一緒にいられますね」

「……うん。ずっと一緒にいよう」

「ええ、約束ですよ」


 これからもずっと美来のことを守っていって、彼女と一緒に幸せになっていこう。彼女とならそれができそうな気がする。


「智也さん、愛しています」

「僕も美来のことを愛しているよ」


 僕と美来は10年という時を経て固く、強く、そして優しく結ばれたのだ。きっと、僕らは永遠に繋がり続けるのだろう。

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