第47話『MIKU's Room』

 酔い潰れた雅治さんを部屋に連れて行ったり、夕食の後片付けをしたりしていると、あっという間に時間が過ぎていった。

 午後9時。

 僕は美来に手を引かれる形で、2階にある彼女の部屋に向かう。


「ここです」


 美来の部屋、僕の家より広いな。ベッドも僕のよりも大きそうだし……ここなら僕と一緒に過ごしても大丈夫そうだ。

 あと、勝手に女の子の部屋は物が多いイメージを持っていたけど、美来の部屋はそういう感じではない。寮に住んでいるからからなのかな。ただ、本棚にはぎっしりと本やCDが入ってたり、ベッドや机の上に可愛らしいぬいぐるみが置いてあったりと、女の子の部屋と思わせるものはある。


「部屋の中を色々見られると恥ずかしいですね」

「ごめんね。女の子の部屋に入ることは親戚以外ほとんどないからさ」

「……そうだったんですか」


 嬉しかったのか、美来は笑顔を見せてくれる。

 最近の中高生はパソコンも持っていないし、テレビもあまり観ないって聴いたことがあるけれど、ここには立派なパソコンとテレビがある。もし、ここが僕の部屋なら休日はずっと引きこもってそう。


「智也さん」

「うん?」

「……やっと2人きりになれましたね」

「そうだね」


 そういえば、今日、美来と会ってからは僕ら以外も果歩さんなどがいて、ずっとリビングにいたもんな。僕の家にいたときも含めると、2人きりになるのは僕にいじめのことを話してくれたとき以来だろうか。

 美来は僕をぎゅっと抱きしめた後、そっとキスをする。


「智也さんにキスしたからでしょうかね。顔も体もポカポカしてきました……」


 確かに美来の顔は赤くなってきていて、頬を触ってみると熱くなっている。いつもとはほんのちょっと雰囲気が違う。


「あっ、もしかして……僕とキスをしたせいで、白ワインが美来の口に入っちゃったんじゃないかな」

「確かに、ブドウの香りもしましたね」


 これはまずいな。美来と2人きりになったら、必ず口づけするのは分かっていたはずなのに。一度でも口をゆすいでおけば良かった。

 あの雅治さんと果歩さんの娘だ。酔っ払うととんでもないことになりそうだ。


「智也さん、もっとキスしましょう?」


 甘えてくる美来はとても可愛い。

 ただ、今はワインを飲んだことで喉が渇いているので、キッチンか洗面所に行って、一口でいいから水が飲みたい。ただ、美来がさっきよりも強く僕を抱きしめているので身動きが取れない。


「……何でキスしてくれないんですか? 月村さんの方がいいんですか? もしかして、昨日……最後までしちゃったんですか? だから、私の家で何日も過ごしてもいいと思ったんですか……?」


 美来の涙と怒濤の質問攻め。

 やっぱり、美来は昨日、僕の家に有紗さんが泊まりに来て一緒にお風呂に入ったことに、とてもショックを受けていたんだ。美来に寂しい想いをさせちゃったんだ。

 僕は美来にキスし、少しでも寂しさを晴らすために美来と舌を絡ませる。


「美来は有紗さんと同じくらいに素敵な女性だよ。昨日、美来と有紗さんとは最後までしないって約束したじゃないか。有紗さんとは最後までしてないよ。美来の家にお世話になるのは、美来のことを側で守りたいからだよ」

「本当ですか……?」

「本当だよ」


 嘘偽りはないことを伝えると、嬉しいからか、疑った自分を責めているからか……美来は大粒の涙をいくつもこぼした。


「ごめんなさい、智也さん。変に疑ったりして。でも、月村さんと泊まっていることを聞いたときに、凄く不安になっちゃって。私も智也さんの側にいたいと思って……」


 昨日、美来が電話をしてきたときも、今すぐに僕の家に行きたいって言っていたな。


「そう思うのは自然なことだと思うよ。こっちこそ、美来を不安にさせてごめんね。有紗さんも、こんなことしていいのかなって言っていたし」


 美来の涙を僕の指で拭う。


「昨日、美来が寂しい想いをした分、今夜は美来とずっと一緒にいるから。美来のしてほしいことがあったら、何でもするつもりだよ。僕のできることに限るけど」


 そう言わないと、とんでもなくまずいことを要求される危険があるからな。こう見えても美来は16歳の高校生の女の子なんだから。

 少しの間、美来は泣いていたけれど、


「……では、智也さん」


 泣き止んだところでようやく美来は話し始める。彼女は今、僕に何をしてほしいのだろう。


「昨晩、月村さんとしたことを私にもしてくれませんか?」


 昨日の夜に有紗さんとしたことをしてほしいか。お酒を呑んでいたから、はっきりとした記憶ではないけど、おおよそのことは覚えている。


「分かった。ちなみに、有紗さんとは一緒にお風呂に入って体を洗ってもらったんだ。あとは何回かキスしただけだよ」

「そうなんですね。それなら良かった……」


 美来はほっと胸を撫で下ろしている。


 ――コンコン。

「おおっ」


 お風呂とかの話をしていたからか、部屋の扉をノックされただけでかなりビックリしてしまった。


「はーい」


 美来が部屋の扉を開けると、そこには水色の寝間着を着た結菜ちゃんが立っていた。


「お風呂空いたよ」

「ありがとう、結菜」


 すると、結菜ちゃんはニヤリと笑って、


「思う存分、2人でイチャイチャしてくださいね。じゃあ、おやすみなさい」

「もう――」


 美来が何か言う前に立ち去ってしまった。結菜ちゃん、美来が僕と一緒にお風呂に入ると思っているんだろうな。正解だけど。


「まったく、結菜ったら。イ、イチャイチャするつもりだけど、実際に言われると凄く恥ずかしいよ……」


 美来、もじもじしているけれど大丈夫かな。顔赤いし、お風呂に入ったらすぐにのぼせてしまうのでは。


「……じゃあ、一緒にお風呂に入りましょうか。智也さん」

「そうだね」


 美来が嫌がるようなことは絶対にしないようにしよう。お風呂に入って、髪と体を洗ってもらうだけだけど……油断は禁物だ。

 僕と美来はそれぞれの着替えを持って、浴室へと向かうのであった。

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