第122話 焦りと幼馴染み





「え?真琴の元カレに会うの?」


「……元カレじゃない」




家の近くの公園で、幼馴染みの智紀と喋っている。

コンビニでばったり出会って、そのまま此処に。

真っ暗な星空の下は、記憶の中よりもずっと静かだった。


幼馴染みの智紀の歯に衣着せぬ言い方は、今の俺にはグサリとくる。



「あぁ。恩人か」


「命のな」


「細かいなぁ」


「大事だろ」



智紀の言い草に、思わずムスッとしてしまう。

元カレだなんて、恋人だなんて。

耐えられない。

とてつもなく焦らされる——本当は恋人よりも愛し合っていたかもしれない、その考えは無理やり消した。



「…何で会いたいの?」


「何でって?」


「だって、修羅場になりそうじゃん」


「………」


「拓夢、そういうの嫌いだから。珍しいなぁって思って」


「………そうだけど」



人から負の感情を向けられるのは、とてつもなく苦手だ。

でも、だからって避けられるものじゃない。

今回は、避けたくない。

会って、話しをして。


そして——真琴と彼の関係を、はっきりしてほしい。

俺だって、ちゃんと把握したい。安心したい。


もう目の前で、真琴が誰かに触られているのは嫌だ。



「…コンポタ、いる?」


「いる」



智紀が差し出したその缶を、掌で転がした。

あったかい。



「帰ったら連絡ちょーだい」


「ん」


「出来れば俺も行きたいんだけどね…」


「やめろ。男の絡みが見たいだけだろ」


「えへ」



此奴、腐男子ってやつらしいからな…。

智紀的には、美味しい展開らしい。



「まぁ、学校での真琴と裕也のやり取りで補給しますか」


「…え、彼奴他にもちょっかい掛けられてんの?」


「ん?うん」


「……聞いてない」


「あらら。裕也はね、真琴大好きマンだよ」


「………」



どうやら俺の恋人は、人を焦らせるのが得意らしい。






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