第九章

第100話 おかえり




久しぶりに走った。


こんなに走ったのは、いつぶりだろうか。



冷たい風に晒され、頬や耳が痛い。

足が重くて、鈍くて。

どんどんと動かなくなるのが、解った。


ああ。

頭もガンガンする。

自分の呼吸が、五月蝿い。


左の横腹が、ズキズキと痛む。

完全なる運動不足。

正直、自分がこんなに体力が無いとは、思わなかった。



段々と、気持ち悪くなってきて。

少しだけ食べたカルボナーラが、出てきてしまいそうだ。





それでも、足を止めたくはなかった。





最後には、もう歩いている様な感じだったけど。

それでも、俺は一度も歩みを止めること無く、到着する事が出来た。


重い身体を引きずっては、公園へとたどり着く。



「真琴!?」



声がした方へと、顔を向けると。

俺に気づいた拓夢が、慌ててこちらへと駆け寄って来るのが、解った。


よ、良かった…。

まだ、拓夢はそこに居てくれた。


安心した俺は、その場にずるずるとしゃがみ込んだ。



拓夢も、同じ様にしゃがみ込んでくれる。



「馬鹿。そんなに急がなくても、良かったのに」


「…は…はぁ…。ごめ……」



汗を浮かべては、流れ落としていく俺の額。

拓夢はそこを、手で撫でてくれる。





その手は、物凄く冷えていた。





どれだけの間、ここに居たんだろう。

それを考えると、より一層胸が苦しくなっていった。


しきりに俺の顔を撫でてくれる、拓夢の手。

俺は無意識に、それへと擦り寄る。



頭上で、拓夢が小さく笑ったのが聞こえた。

そして、優しい声で呟く。





「真琴、おかえり」




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