第69話 綺麗な父親は何処までも
あれから少し話して、それぞれ家へと帰った。
――ガチャン。
家に入って、鍵を閉める。
回すだけなのに、重く感じてゆっくり鍵を掛けた。
音も、重い。
携帯を取り出すと、メールが1件。
母親の再婚相手であり、俺の父親でもある榊原さんからだ。
もうこの時点で嫌気がさす。
俺は彼と『家族』になったつもりは無いし、またしても『母親』からの連絡ではなかったのだ。
『今度一緒にご飯を食べよう』
そこまで読んだところで、俺は携帯を布団へ放り投げた。
この人は、全然解っていない。
仲良しごっこをしたいのなら、余所でやってくれ。
俺を巻き込むな。
俺に、関わらないでくれ…。
幸せが沢山溢れるあの三人の元には、行きたくない。
息苦しい。
俺は確かな拒絶をしているのに。
まだ足りないのか?
何処まですれば、俺を無いものにしてくれる?
綺麗すぎる『父親』には、こんな俺でさえも気にかける対象となるのだろう。
その気持ちは解るけれども、受け入れたくはなかった。
俯くと、床に水滴が落ちたのが解る。
白く濁ってゆらゆらと揺れる視界。
水滴が落ちるとクリアになるが、すぐにじわじわと溜まるから、意味は無い。
足の力が無くなり、俺はしゃがみ込んだ。
あ…堕ちる。
目を開けていられない。
はぁ…と溜息が出た。
頭の奥で、高く細い音がする。
しばらくして、これが耳鳴りなんだと気づいた。
自分がどうして泣いてるか、わからない。
悲しい?哀しい?悔しい?
あぁ…苦しい。
どっぷりと浸かってしまった様な、そんな感覚。
けれども、何に浸かってしまったのかは、わからない。
理解出来ない状態が続く。
…自分の事なのに。
そんな感覚が怖くて、安心した。
何も見たくない。
知らない方が、今より傷つかないかもしれない。
弱いよわい、よわい。
ずるり、と床に倒れ込む。
そうして俺は、眠りについた。
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