第65話 腐男子とは





ぎゅっと手を握られる。

はっと息を吐く。


次第に、周りが見えるようになってきた。



「…引か、ないの…?」


「引かないよ」


「…気持ち悪く、ない、の?」


「全然、気持ち悪くないよ。…寧ろ…」


「…寧ろ?」






「大好物です」






「………は?」



ぽかんとして智紀を見つめると、キラキラした目とぶつかった。



「僕ね…腐男子なの」


「…え、えっ?」


「だからね。そういうの偏見無いし、むしろ見ていたい」


「………」



まさか天使が腐っていたとは。



「…引いた?」


「や、驚いただけ…。ていうか、引ける立場じゃないし…」



不安げに聞いてくる智紀に、正直に答える。

驚いたけど、智紀が腐男子だからこそ、俺らの関係に理解があるんだろう。


智紀は、拓夢と幼馴染みだと言った。

拓夢が大切な人に引かれなかった事が、嬉しい。

だから、寧ろ有難いのかもしれない。



上手く考えられないけれど、これはこれで良かった様な気がする。



軽く息を吐くと、ポケットの中で携帯が震えた。

廊下に教師が居ないことを確認して、それを取り出す。



LINEの新着の知らせだった。

開くと、そこには拓夢の名前。



「もしかして、拓夢から?」


「…ん」


「結構ラブラブだったりして!」



きゃっきゃっとはしゃぐ智紀。

それを横目に、俺は苦笑した。


…きっと、そんなんじゃない。

俺らの関係は、そんなんじゃないよ。



内容は、今日会おうというやつ。

特に用事も無いし、了解と送る。

浮かれないように。

その後、傷つかないように。

ギリギリのラインを探しては、そこにしがみついている。



我ながら、馬鹿だよな。





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