第63話 寒さとカイロ





「うー・・・。寒い…」


「大丈夫?なんかすっごい震えてるけど」



翌日の学校での昼休み。

相変わらずの寒さに、俺は震えていた。

弁当を食べる手が止まる。


昔から寒いのは、苦手だ。

…だからといって、暑いのが得意な訳では無い。

所詮、ただの我慢が出来ない奴ってだけだ。



そんな俺を見て、智紀は箸を止め心配そうに見てくる。

何て優しい子なんだ、この子は。

天使だ。

流石、俺の癒し…。



「ん。大丈夫…ありがと」


「ちょっと!何で智紀に微笑んでんの!?まこちゃん!」


「……うるさ」


「俺には冷たい視線だし!?不公平だ!俺にも微笑んで!」


「…智紀、今度チョコあげる」


「えっ、本当?わーいっ」


「スルーしないで!」



俺と智紀が話していると、裕也が入ってきては、ギャンギャン喚く。

…本当にうるさい。

俺の席を囲んで3人で食べているものだから、なかなかに近い距離だし。

至近距離での大きな声は、かなりイラッとする。


睨みつけてスルーすると、わっと嘆き出す。

何だか、暑苦しい。

何処かの修造さんより、暑苦しい…。



「あ、そういえば。裕也、カイロ持ってなかったっけ」


「え?持ってるけど」



午前中、裕也がカイロを手にしていたのを思い出し、俺は尋ねた。

やっぱり、持っているんだ。


俺は左隣にいる裕也の右腕を掴むと、じっと見つめる。



「え、えっ?何、まこちゃんどうしたの?」


「…ちょーだい」


「へっ?」


「カイロ、俺に恵んで」



身長的に差がある為、少し目線を上げながら言う。

裕也を見上げるとか、ちょっと悔しい。

ポカンとしたその顔を阿呆面だなーと眺めていると、裕也の喉がゴクリと動いた。



「…い、いいよ。あげる」


「お、まじで?ありがとー」



差し出されたカイロ。

俺は直ぐに、それを受け取った。

ラッキー。

言ってみるもんだな。


とか言いつつも、裕也からカイロを貰うのは、定番になりつつある。

手の中で熱を発するそれに、俺は満足した。



「…裕也って、本当に真琴の頼み断れないよね」


「だって、上目遣い…。こいつ狡いんだもん…」


「は?してないけど」


「「…してるよ」」


「………」



不本意だ。

別に、狙ってしてる訳では無いのに。


…まぁ、お陰でカイロ貰えたから、いっか。



『2年D組、宮崎裕也。2年D組、宮崎裕也。今すぐ職員室に来なさい』



ダラダラと食事を再開していると、流れてくる放送。

俺らの数学授業担当の教師が、呼び出しをしていた。



「…裕也、呼ばれてるよ?」


「何で、俺?」


「何かやらかしたんだろ」


「早く行ってきなよ。あの先生、遅れると面倒だよ」


「あー、行きたくねー!」


「黙って行け」


「まこちゃん冷たい!行って来ます!」



嘆きながらも、裕也はバタバタと教室を出て行った。





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