第63話 突然の不安

  最初は、右ひじに痺れが来た。

今までに体験したことのない痺れである・・。


一旦治まって、コーヒーポットでお湯を

かけている時に、右ひじがガクッとなった・・。


一切、力が、入らない。


これも10分ほどで治まったが

時々、発作のように起きるようになった。


 1番不安だったのは、運転中である。

左手だけで運転はできるものの

ものすごく、不安になった。


脳梗塞?

脳卒中?


去年、従兄弟が、くも膜下で急死した。

母も、最期は、脳梗塞を起こした。


 ろれつは、回るが

字が書けない。

箸が使い辛い・・。


 病院に行きMRI検査を受けた。


脳は異常なしだが

頚椎を痛めているとのことで

全治3ヶ月。


 牽引とビタミン剤、患部にテープを貼る。

稽古は、当分、見取り稽古のみとなった。

剣道経験者には、頚堆損傷者が結構いる・・。


 体育館のネット裏で

窓越しに皆の稽古を眺める。


普段は気が付かなかった他の剣士の

細かい点が、よくわかりだした。

これは、意外な発見だった。


 稽古の後の雑談で、高段者の先生が

ポロッと一言、打ちの骨(コツ)らしきものを

教えてくださるようになった。

それが実に中身が濃い!

ある意味で、奥義に通じる一言がある。

広志は思った。

道場で打ち合うばかりが稽古ではないなあ・・。


 古い竹刀を切って、短い子供用のような

竹刀を作り、軽い素振りを部屋で続けた。


特に高橋先生に、教えていただいた「手の内」が

やっと、自分のものになった感覚があった。


「人は、謙虚に教えを乞う者には

決して嫌なことをしない」という事がよくわかった。


 還暦で剣道を始めて、5年の歳月が流れた。


広志は、もう立派な老人となった。





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