初めてのデート ③ 【スピンオフ】


「……帰りたいって言い出したらどうしよう?みたいな。」


「でしょう?結婚しても大したメリット何もないですよ。私も二十歳超えましたし、何も変わらないでしょ?」


「何も変わらないけど、何の証明も無いんだよ。」


「親が誰かは子供が決める事でしょ?第一、最初の家族が他人じゃないといけないのに血に拘るのがわからないわ。家族だと認めれば家族だし、亜蘭があなたを認めないならそこに縛られる必要はないでしょ?それは私も同じよ。」


「ちょっと待って。」


 ルカは頭を抱えた。


「今、結婚してからよそで子供作ってきた奥さんに、あなたも好きにすればいいでしょって逆ギレされてる気分なんだけど……要は、個人を最大限尊重したいって話がしたい?」


「……そうかもしれません。だから、あなたも結婚という概念にとらわれる必要はないと思うんですよ。ヘンリーによく言われてましたけど、最も良いパフォーマンスが出来る環境を作ることにベストを尽くすべきであって、こうでなくちゃいけないみたいな概念に然程、意義はないと思うんです。」


「それはズルい。具体的に言おうか?胎児認知は母親の同意がないと出来ないから出来なかったのね。産まれてしまえば一任で出せるけど、俺もそうかな?って思っちゃったの。だから、踏みとどまったんだけど、調べてみたら、子供に承諾を取れって事だった。最低でも20年かかる勝負に挑めって事なの。わかる?でも、そんときにはもう亜蘭、結婚してるかもね。」


「そういう可能性はありますね。」


「必要かな?」


「要らないですね。」


「そう、俺も要らないと思う。しなくていい勝負はしたくない。どうでもいい事なんだよ。」


「はい。」


「掛け合わせって言うから、掛け算にしよう。並びはみんな違うけど、その数同士をどこまで掛けても答えが1になる式がある。」


「1かルート1ですね。」


「そうだ。どっちかに拘る必要ある?」


「無いですね。」


「70億通りの1になる式がある。」


「1でいいんじゃないですか?」


「聞け。その式は、誰の色んな式と掛け合わせても1になる。当たり前だ。でも、中身はそれぞれ違う時、全部書く?」


「1は1ですよ。演算させるだけ無駄じゃないですか。」


「そう!無駄だ!どう書いても1だ。読むのに100年かかる説明書、読む?」


「読まないですよ。読んでるだけで死んでしまうじゃないですか。」


「俺も読まない。絶対、読まない。タイトルで何となく想像して、中身は1の説明だなって思ったら、何て書く?」


「1ですよ。」


「違うものにしたかったら、追記修正すればいいよね。その時考えればいいよね?俺の説明、重要?」


「……正直、どうでもいいです。」


「そう!どうでもいい!俺の答えは1イコールどうでもいい!!俺はそれに気付いた。だから、それでもいいと思ったんだけど、お前、依頼者になってみて。設計者が1になるまで20年かかるようにプログラムを組もうとしてる。お前、出来上がるまでそれ待つ?」


 アリスは段々可笑しくなってきた。


「自分で1って書きますよ。」


「でも、権限が無いから自分では書けなかったら?」


「権限を与えてもらうか、書ける人に1にしてくださいって言えばいいじゃないですか。」


「俺も言う!もう、それ1でいいよ!そしたらみんな1だって認識するし、考えなくて済む!その方が断然早い!しかも、わかりやすい!権限があったらとっくに書き換えてる!」


「権限貰えばいいんですよ。ハッキリ指摘して設計者に任せないで。どうせ同じなんですから。もし、厳密な値が違っても1として通用する部分は20年の間に幾らかでも使えるでしょうから。」


「そう!心底そう思ったんだよ!!」



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