強制送還① 【スピンオフ】


 ルカはミキの車の助手席に乗ると、深いため息をついた。


「帰りたくねぇ……。」


「……うち泊まる?」


 ミキの提案に少し考えたが、シートを倒して目を閉じてルカは答えた。


「……いいよ、別に。」


 ミキは車を走らせながら、言葉を選んでいた。


「お前の気持ちもわかるけどさ、あっちゃんだってこれからどんどん前に出ていかなくちゃいけなくなるんだし……。」


「わかってるよ。」


「…………。」


 ルカは神無月所長の言った誰かさんの言葉を思い返していた。


「お前には何一つ敵わねぇ。」


 ルカの言葉にミキが笑った。


「そう?俺もそう思うよ。嫁も子供も何も持ってないよ、俺。」


「…………。」


「周りの女、アホな要求ばっかしてくるじゃん?見てるところ一緒だし。そういうの疲れんだよね。時間の無駄だと思うし。私、あなたと結婚しますって女が現れたら、明日にでも結婚するわ。やっていく気があるかどうかしか問わない。あっちゃん見てて、そう思った。」


「……ダイヤと結婚した方が幸せになれんじゃね?って奴いるな。」


「そう。欲しけりゃ好きなだけ買えっつーの。どんだけ借金しようが財布が一緒っつーか、こっちは給料の全額で雇うのと同じだから、お前が自分で払うのと同じだってのが全然分かってない。」


「なのに無給労働だとか、家事の経済効果がいくらだとかほざくんだよな。」


「そう!そんだけ稼げるなら稼いでこいっつーの。俺がやった分だけ払ってくれるかっつったら、払わない癖に。それならこっちも自分でやるからお前、要らねってなっちゃうじゃん。主婦ばっか取り上げるけど、一人暮らしの男もいるだろって。何が平等だよ。」


「年収1000万とかな。」


「そんな経済感覚なのに1000万で足りると思ってるのも凄ぇよ。1000万の手取りなんて精々54万だろ。余裕で借金生活転落。2馬力世帯にアッサリ抜かれるし、家買って月20万くらいローン作ったら普通に節約生活だよ?教育資金どっから出すの?いやいや、働いてよってなるよ。上見たらキリがないのに月収1000万位の勢いで夢語りだすよな。どんな魔法の方程式使ってんだって。」


「フィールズ賞間違いなし!ノーベル賞も夢じゃねぇ!!」


「経済に革命が起こるよ!論文にして発表した方がいいって言っちゃったよ!」


「言ったのかよ!最低だな!俺でも言えねー!」


「帰れないオヤジの血の涙で出来てる夜景見下ろしながら酒呑んでいい気分になってる女、失礼ですが魔王か何か?って聞きたくなるよ。」


素面しらふで言うな!真実だけど!!」


 ルカは腹を抱えて笑った。


「職安に求人出せよ。24時間勤務、家事手伝い。月給書いて、財産管理しながら一緒に生活するお仕事です。裁量労働制、住み込み可、子供応相談?」


「その手があったか!」


「退職金は痛いよ、半分持ってかれる。」


「怖ぇー!つうか、雇用均等法で女性限定って出せなくない?野郎も面接しなきゃいけないの?俺。」


「やべー!怖ぇー!!」


 二人はゲラゲラ笑いあった。笑うだけ笑って息を切らせながらルカが言う。


「あー、もう会社行きたくねぇ。」


「休め、休め。そういう時の為の有休。」


 ルカはケータイを取り出して、早緑所長と文被ふみひら班長宛に有休の申請をした。



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