my fair lady ③ 【スピンオフ】
卯月グループ長が分析野帳でルカの頭を叩いた。神無月所長が卯月に声をかける。
「お疲れ。
「培地しかけたら切り上げるそうですよ。」
嘉月が持っているルカのケータイに気付いて卯月がルカに話し掛けた。
「子供いるの?見せて。何歳?」
「3歳です。」
嘉月が卯月グループ長にルカのケータイを渡した。
「可愛いね。2歳過ぎると悪戯が凄いでしょ?」
「……本という本はお絵かき帳ですね。かなりやられました。」
「あるよねー。勝手に鞄におもちゃ詰め込んでシールだらけにされた事ある。女の子?言葉早いでしょ?」
「……口は達者です。ちょんまげと下ネタが大好きで……。」
「アハハ、あるある。うちもそうだったよ。でも、早いね。それやってたの就学前位じゃなかったかな。うちの子が遅かったのかな。」
「……悪戯が過ぎる事とか、活発さとか、都合の悪い部分は全部俺に似たって言うんですよ。」
「うん。外見的に実感できるところが何処にも無いから、それ、お嫁さんが気を遣ってるんじゃないかな。」
「……この間、向こうのお義父さん来てて、一応、顔くらい見せてやろうかと思って連れていったら、手先が器用なのは君に似たのかなって……
それまで、殺したいくらい憎たらしいとか糞味噌言われてたけど、やっと褒められたと思ったら、娘寄越せって言ってきて……。」
「何でですか?そんなの、ガン無視すればいいじゃないですか。」
花咲が味方するが、ルカは明後日の方向を見ながら言った。
「そのつもりだったよ?こっちも言ってくるの見越して二つ返事で断ろうと思ってたんだけど、答え合わせして正解を選ぶとお菓子が出てくるおもちゃ持たされたんだよ。じゃんじゃんバリバリ出しやがって……理解力は6歳に近いだろうって……。」
「凄いですね!頭いいんだ!」
「……良いことばかりじゃないんだよ。標準的な教育だと頭打ちされて落ちこぼれになっていくから、子供の為にならないってハッキリ言われたよ。」
「適切な教育が受けられる所に一家で移住するか、単身行かせるか、引き渡すかか?」
神無月所長が半分寝ながら体を起こして、なみなみ注がれたグラスに口をつけた。
「嫁さんに相談した?」
神無月所長の問いかけに卯月グループ長が答えた。
「言おうと思った矢先にソレだったんでしょ?」
「もっといかがわしい仕事、沢山あるんだから、モデルでよかったじゃん。」
嘉月がフォローしたが、ルカは納得いかない様子だった。
「俺にとっては10が8になった位で大差ないよ。イチゴ1個でここまで発展するとは思わなかったですよ。働いてみろとは言ったけど、2日で交通費込み15000円、月末締めの180日払いとか、他にも仕事あるだろって……。」
「うん。お嫁さん、わかろうとしてくれたんでしょ?1日、2日、働いた所で半年も待たないと買えないんだって、その間の生活費とか考えたら、到底買えないんだって、よっくわかったと思うよ。」
卯月グループ長の言葉にルカがため息をついた。
「……6ぐらいまで下がりましたかね。」
「何がそんなに気に入らないの?俺、ぶっちゃけ羨ましいけど?」
嘉月の言葉にルカがキレた。
「表情だよ!誰だ、この表情引き出した奴!ぶっ殺してぇ!!」
半分寝ながら神無月所長がグラスに口をつけて言った。
「お前だろ?確かに、誰にでもできる顔じゃないよ。おおかた、カレシの話題でも振られたんじゃないのぉ?何を思ってたか聞けばよかったんだよ。」
神無月所長が回覧の茶封筒を手に取った。
「相手もプロだ。その瞬間を見逃さなかった。
女が見たって綺麗だ。いつでも撮れる顔じゃない。してやったりと思ったろうよ。今頃評判爆上がりだよ、このカメラマン。」
「…………。」
ルカの言い分に納得して神無月所長が改めてプリントアウトしたページを眺めている所に、ルカがカン高い声を出してセリフをあてた。
「亜蘭、パパに預けちゃった。パパ大丈夫かなぁ?」
「……そうにも見えるな。」
「どっちなんだ!納得しかけたじゃねぇか、ババァ!」
周囲は再び笑いに包まれた。
神無月所長が花咲に回覧を渡した。
「花咲、この顔が自在に操れたら、どんな男も手玉にとれるぞ。勉強しろ。こんだけ人を信用しない男が落ちたんだからな。」
「ええぇ、そう来ますか……。」
「流石、高校時代からイッパシに稼いでただけあるわ。言うことが違う!ずっと財布狙われてたんだろうな!」
そう言って神無月所長は手を叩いて笑った。ルカは明後日を見つめて頬杖をついたまま、答えなかった。
「鳴神、電話鳴ってるよ。」
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