第6話 真実性の原則③


「どうだった?」

「何もなかった」

「なかったってお前」


 戻ってきた栴檀が蘇合に報告をした。


「そのままだ、あそこに室長は住んでいなかった」


 栴檀の結論はそれしかなかった。


「防犯のためかどうかはわからない。とにかく、JMRFに届け出ている住所は、名義を借りているだけで、住んでいた実績はない」


 何かのきっかけで住所が漏れてしまえば襲われるかもしれない。

 回収室が燃えたのと同じだ。

 車椅子で生活する馬酔木にとって、自己防衛策の一つとしての行動だったかもしれない。


「天涯孤独で、住んでいるところも誰にも明かさず、の人生か」


 沈水がぽつりと言う。


「こういうときって、遺産とかどうなるの?」

「遺族がいなければ、特別縁故者になる。親族ではないが、室長の世話をしていた人間がいれば」


 室長はそのような人間がいる素振りは見せていなかった。

 親しい人間がいたのかどうかも誰も知らない。


「俺たちにも権利があるのか?」

「裁判所が認めればだ。それもいなければ、国のものになる」

「そっか。お坊ちゃまぽかったけど」

「もちろん、財産があれば、の話だ」

「悪いニュースがあります」


 席を外していた零陵が馬酔木のような言い方で部屋に入ってきた。

 零陵は、上層部に呼ばれていたのだ。

 回収室の連絡役として働いていたためだろう。


「とても、悪いニュースです」


 はっきりと、明瞭な声で言った。

 表情はいつも通りだ。


 零陵の後ろから入ってきたのは中年男性だ。


「そうでもない。ただ決まったのは、ここは、君たちは、もう終わりだ、ということだ」


 沈水が首を傾げる。


「あ、天下りだ」


 沈水が、小声で、けれど部屋の全員には聞こえるように言う。


「馬鹿、社長だ」


 蘇合が訂正をする。


 蘇合は沈水を諫めたはずなのだが、その言い回しが『馬鹿社長』と繋げて聞こえたらしく、社長がこめかみを押さえる。


 社長は回収室を設置する際にやってきた財務省の天下り役人だ。

 JMRFでの経歴は回収室と同じく短いが、そもそもJMRFが天下りを受け入れて財務省の庇護の元やっていた企業であるから、支障はなく、通常通りの社長交代だと誰しもが思っていた。


「その社長が何か?」


 沈水のぞんざいな物言いに元役人は青筋を押さえて、コホン、と威厳を保つためか咳をした。


「本日を以て、回収室を解散とする。各自は別の指示があるまで自宅待機をするように。情報の持ち運びも認めない。明日以降の出勤も不要だ。給与は支給するから心配しなくていい」

「そういうことじゃねえって、室長は」

「質疑をする場面ではない。調査は行ってはならない。一時間以内に私物の整理をしたまえ」


 それを合図として、JMRFの職員が数名入ってきた。

 余計なものを持ち出さないよう作業を監視するつもりだろう。


「失礼する」


 社長がわざと靴音を響かせながら部屋を出て行った。

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