第4話 13歳の母
「そういえば、ベルデネモの妹は15だったか。もうすぐ子供が生まれるとかなんとか」
書き物をしていたのではない方の男――こっちの人は布を縫い合わせた、ベレー帽に似たものを被っている。その帽子の下から覗く髪は真っ白だったけれど、加齢によるものだろうな、と思える雰囲気があった――がしっかり揃った髭を撫でるようにそんなことを言っている。
「母親の歳と大差ないって、あんた、いったい何歳なのよ」
「あんた呼ばわりとは……。もうすぐ17です」
若!
そんな歳だとは思わなかったけれど、そういえばわたしはあまりこの……べで?
「べ……べる?」
「ベルデネモ、です」
べるもでねとか言うこの騎士的な人の顔も体格も、ほとんど見ていない。馬酔いでいっぱいいっぱいだったし、ほとんどわたしの後ろにいたし。
改めてマジマジと見たけれど、体つきはその身につけている鎧……で合ってるよねこれ、これのせいでよくわからない。背は朝に測って158センチのわたしより高いのはわかるけど、バカ高いってほどじゃない。確かに顔つきには幼さが残っていた。髭の青さがないのも、若さだろう。
だけど、17の息子がいる母親って。
「……13で……?」
「確かに、少し早婚だったのは間違いありませんが」
女性の歳を批難したことが今更若干後ろめたくなったのか、そんなことを付け足すベルなんとか君。
わたし個人の倫理観としては、正直、引く。ドン引きする。
とはいえ14歳で子供を産むってドラマも見た覚えはあるし、それこそ日本でも、源氏物語の時代とかはそんなものだってことも知っている。現代日本が晩婚の時代だってこともまあ、わかってはいる。
思い出した映画のように、わたしがタイムスリップしたとかだったら……つまり、そういう時代に来てしまったということなんだろうってくらい……納得も、理解もできないけれど、推測はできる。
衝撃に頭が真っ白になっている間に、わたしたちが入ってきた扉が、勢い良く開く音がした。
「おい、魔物が出たぞ!」
「なんと」
飛び込んできた中年くらいの、革の胸当てを着けて弓らしき物を持った男が放った言葉に、書き物をしていた前髪氏が顔をしかめて立ち上がった。
ころろ、と申し訳程度に鳴る木鈴の音が、ワンテンポ遅れて詰め所に響く。
ま……まもの?
「えっと……野良犬とか?」
声が裏返る。たぶん、違う。
なんとなくわかっていても、わたしはその質問が肯定されることを願っていた。
「そんなわけあるか。
前半は、わたしの言葉に心底不思議そうな顔をして。
後半は、男たちへの警告と激励として。
飛び込んできた弓の人は、あっさりとその違和感へのヒントを口にした。
わたしは思わず目を閉じて、現実を拒否した。
――
どうやらわたしは、とんでもないことに巻き込まれているみたいです。
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