第六章 草原の話    

旅人達は、北東へ

 幽霊屋敷を不思議な声に任せたその夜。

 コギト、ロブ、ハナの三人の旅人は、あてがわれた住宅街の中の空き家にいた。

 「北東の草原に行け?」

 カーキ色のジャケットを脱いで白いシャツに黒いズボン姿になったコギトは、インスタントの珈琲コーヒーを一口飲んでから、ハナに聞いた。

 「ええ、そんなお告げが……」

 ハナは、温めたお茶が入ったマグカップを持ちながら言った。

 「うーん……、それさ、お告げじゃなくて、PSIなんじゃない?」

 「お告げまでPSIなの?」

 ロブがコギトに怪訝な表情を向けて言った。

 「いや、ただのカンだよ?PSIミライヨチ的な感じの」

 「未来予知より、予言じゃない?」

 ハナがぼやくように言った。

 「あー、そっちの方がいいかもね。PSIヨゲンみたいな」

 コギトはそう言うと、珈琲に口をつけた。

 

 翌日の朝。

 黒雲のような影の被害にあった国を、三人の少年少女が出国した。

 一人は、カーキ色のジャケットを着て黒いズボンと丈夫そうなブーツを履き、右腰に銀色の四角い鍔の剣『シルバーバトン』を、左腰に銀色の楕円形の鍔の剣『シュトロームソード』を差した、鴉の濡れ羽色のようなつややかな長い黒髪を持つ少女、コギト。

 もう一人は、赤い長袖のシャツを着て茶色いズボンと丈夫そうなブーツを履いた、腰にホルスターと、そこにこの世界ではまず見かけないはずの『拳銃』を納めた、短めの銀髪の少年、ロブ。

 最後の一人は、くすんだピンクのワンピースを着てその下からジーンズと丈夫そうなブーツを履いた、腰の後ろにプレートメイスを二本差した、ショートボブの少女、ハナ。

 三人は、それぞれ丈夫そうで、防水性も高いリュックサックを背負っていた。

 「で?こっそり出国したはいいけど、このまま北東に向かうの?」

 ハナがコギトとロブに聞いた。

 「いや、まさか。一度近くの国……地図を見たら、ロブ君の住んでいた国が近いから、そこに寄って、携帯食料とか、色々補充しよう。……防寒着も、もし北東に行く時にいらないのなら、売るなり何なりして処分しよう」

 コギトは、ジャケットの右下のポケットから地図を取り出しながら言った。ロブとハナに地図を見せた。

 ロブとハナが地図を見ると、西側に国が一つあった。

 「あ……、たしかに、僕が住んでいた国だね」

 ロブが言った。

 「ここから……、どのくらいかかるの?」

 ハナが誰にでもなく聞いた。

 「え?えっと、そうだね……、二日くらい?」

 コギトが答えた。

 「またえらくあいまいなのね……」

 ハナがぼやくように言うと、

 「地図から大まかに換算したからね。……そういう訳だから、とりあえず西に向かおう」

 「そうだね」「りょうかい」

 

 コギト達は、ロブが住んでいた国に辿り着いたのだが、

 「六日かかってるじゃないの……」

 ハナは、実に嫌そうに言った。

 「ま、まあまあ、三日は雨降ってたんだしさ」

 コギトはハナをなだめるように言った。    「そ、そうだよ。とりあえずさ、ぱぱっと携帯食料とか買っちゃおうよ」

 「そんなもんかしら?」

 「そんなもんだよ」「う、うん……」

 

 数日後。

 携帯食料とその他色々を買い込み、コギト達は出国した。

 ロブは、快晴となった空を見て、次いで振り向いた。まだギリギリ見える城壁を見ながら、

 「さらば、あまりいい思い出のない故郷よ、なんてね」

 冗談めかして言った。

 「珍しいね、ロブ君が冗談みたいな言い方するなんて。なんか、心変わりでも?」

 コギトが覗き込むようにロブを見て言った。

 「いや、そんなのはないよ?」

 「本当に?」

 「本当に」

 「はいはい二人共、早いとこ北東の草原に続く街道まで行きましょう?日が暮れちゃうわ」

 すっかり機嫌が直ったハナが言った。

 「あー、晴れてるっていいわねえ」

 「そうだね」「そうだね」

 三人は、歩き始めた。

                 ―続く―

 

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