第193話 志願

物置室



透明なカバーがかけられた古びたコピー機が1台



うっすら埃が被るそのコピー機以外何も置かれぬ物置室に純や達3人がただ静かに待機し、時を待っていた。



沈黙する室内に円形の壁時計の針の音がチカチカと鳴り、時を刻んでいる。



腕を組み、座り込む矢口



コピー機に座り込み、足をブラブラさせる由美



そして、壁にもたれ、目を瞑りながら待機する純やがハサウェイの帰還を不安げな表情で待っていた。



いつまでここで待てばいい…



純やが壁時計へと目を向けた。



もう…かれこれ30分は経過している…



ハサウェイからの連絡は未だ何も無い



ハサウェイさん…トラブったのか…?



あんな重傷の身体で…1人で行かせてしまった後悔と最高潮に達する不安、そして、ただ何もせずこの場に留まる歯痒さにいい加減痺れを切らせた純やだが…



ここにいろと言われた以上動け無い…



エレナさんの身も心配だ…



時が経つにつれ、苛立ちさえも覚えた…



後10分して 何も連絡がなかったら…助太刀しに乗り込もう…



時計の針を見詰める純やがそう決意し、気を静めた時



純やが一瞬由美と目を合わせた、すると由美が沈黙を破る一言を発した。



由美「純やさんって体育会系だから…こうゆう待つのって苦手そうですね」



純や「え?」



由美「乗り込もうって思ったんじゃないですか?」



純や「え?何で?」



由美「顔にそう書いてあるし」



純や「え…あ…うん…何かトラブったのかもしれない…」



矢口も由美へと視線を向ける。



由美「大丈夫です ハサウェイさんならきっと大丈夫ですよ もうじき戻ってきますから今は待ちましょ」



純やを落ち着かせる為の配慮なのか…



由美がニコリと微笑みかけながらそう口にした。



由美「あ そうだ 昔あるテレビで見たんですけど…一つ問題です。この世の中から人がいなくなったらどうなるかってやつ… もしこの世から人がいなくなるとどうなるでしょうか?」



これも重苦しい雰囲気を払拭する為の話題変えなのか…



思い出したかの様に由美が突然口にした。



由美「この世界はどうなると思います?」



矢口「どうなるか?う~んそうだなぁ…あ!あれみたいになんじゃないかな… あの映画…あれ何だったっけ?…あれだよ…ウィルスミスが出てる洋画のやつ?」



由美「アイアムレジェンドですか」



矢口「そうそうそれ」



由美「ですね じゃあもっともっと長い年月が経つとどうなると思いますか?」



矢口「どれくらい?」



由美「もうずぅ~とです」



矢口「永遠にって事ね う~ん見当もつかないなぁ…特に何も変わらないんじゃないの」



由美「ブッブゥ~ そう思いますよね でもびっくり仰天なんですよ、なんかいろんな分野の学者が集まってそれをシュミレーションした所、約5000万年!5000万年経つと人が作った全ての物は消滅しちゃうらしいんです。世界の全ての大都市は草木が生え揃う大自然に戻っちゃうらしいんですよ」



矢口「街が大自然に?いやいやまさかぁ~ 流石にこの街が大自然にはならないでしょ~」



由美「そのまさかなんですよ 5000万年後にはこの新宿の街は森になり、川さえ流れちゃうらしいですよ」



矢口「何で? ビルは? アスファルトは?」



由美「人間が作った物は人間が手入れをしないと持続しないみたいで、雨風による風化とかサビとかで、建ち並ぶ超高層ビルなんか1000万年持たずに崩落しちゃうらしいですよ」



矢口「え?そうなの?」



由美「そう 他にも植物が力を増して来るそうです アスファルトなんかすぐに覆われちゃいますし、シダ系の植物なんかがビルに巻きついて、風化と力を合わせてそのまま崩しちゃうみたいですよ」



矢口「まじ? へぇ~」



由美「スカイツリーもアメリカの自由の女神もパリのエッヘェル塔だって脆くも崩れちゃいますし、紙は勿論の事、DVDなんかのディスクさえも微生物に分解されちゃって跡形も無く消え去っちゃうらしいです」



矢口「え じゃあ何が残るの?」



由美「ピラミッドみたいな岩石で作った建造物はかろうじて残るんじゃないかって言ってましたけど…」



矢口「それ以外は何も残らないの…」



由美「うん 基本、人が作った物は全て何も残らないみたいですね、人が繁栄した痕跡は一切なくなるらしいです」



矢口「5000万年でかぁ~ まぁ途方もない年月だけど… たった5000万年の様な… いや!まぁ長いか… う~ん…それ何か複雑だね」



笑顔の由美が一変



神妙な顔つきになり言葉を口にした。



由美「今… このシュミレーション通りになろうとしてます… 私達これから…その道を辿ろうとしてるんです…」



無言で由美を目にする純や



由美「私… この世からみんなが抹消されるなんて嫌です」



矢口「由美ちゃん…」



由美「確かに傍若無人な振る舞いでいろいろと迷惑かけてるのかもしれない… だけど… 私達は害じゃない… 私だって結婚して子供が欲しい、その子供が結婚して、孫だって欲しい、曾孫だって…玄孫(やしゃご)だって、らいそんだって… 私で終わりになんてしたく無いです」



矢口「…」



矢口が言葉を詰まらせ、由美を目にするや純やが口にした。



純や「終わらない…ピリオドなんてうたせないよ…俺達人類はこの先だってずっと生き続けるんだ」



由美「理沙みたいな化け物相手でも…?」



純や「そう いつか必ず日常の生活を取り戻してみせる… 実は俺、これが無事終わったらザクトに入隊しようと思ってるんだ」



由美「え?」



矢口「え?ザクトに?」



純や「えぇ… 江藤の件もあるし、この惨状を打破するにはザクトしかない」



突然のザクト入隊表明を告げた純やへ矢口、由美が驚きの表情を浮かべた。



純や「入隊して元通りの世界に戻したいと思ってる。元通りに戻すにはあの組織に入るしかないと思うんだ まだ諦めてなんかないよ まぁ それは今後の話しだけど それには、とにもかくにも…ここを無事に抜け出さないとだよ」



由美「そうなんですか?純やさんが入るなら私も入る!」



由美も突然の志願を表明した。



矢口「えぇ~ それノリ?つ~かそもそも女の人は入れるのかな?」



足を振り、コピー機へ一度、二度と足をぶつける由美



由美「ノリじゃないですよ 今の純やさんの発言に感化されたんです。私も一緒に変えたいと思いました。きっと私だって入れますよ 私だってザクトに入ってこの世界を変えたい…矢口さんは?」



矢口「俺も?」



由美「破滅を止める為にも入隊して一緒に戦いましょうよ」



純や「無理強いは駄目だよ由美ちゃん ピクニックへの誘いとは違うんだから」



由美「分かってますよ、でも…矢口さんも使命みたいなものをちょびっと感じませんか?」



矢口「使命…?」



由美「理沙ってこのゾンビ達の親玉なんじゃないかって私は思うんです…つまり、そいつがいる現場に今私達はいるんですよ 世の中をひっくり返したこの事件の中心に…今」



矢口「…」



由美「つまりぃ~ 選ばれたんですよ 私達は」



何のスイッチが入ったのか…?次第に熱を帯び始める由美



矢口「何に?誰に?」



由美「誰にって…分からないですけど…感じないんですか?矢口さんちょっと鈍臭くないですかぁ~ ようは私達こそ 理沙を止める使命を受けたって事です」



矢口「…」



由美「要は要は…この世界を変える使命を受けたんですよ私達は」



矢口「だから誰から…?」



由美「だからぁ~ あぁ~もう 誰からなんてどうでもいいじゃないですか もう話しにならないですよ~矢口さんは…」



純や「由美ちゃん…」



コピー機をバンバン足で叩きつけ激しさを増す由美



由美「もういいやぁ~ で!とりあえず入るの?入らないの?」



純や「ちょい ちょっと由美ちゃん…強引…強引…」



苦笑いする矢口「う~ん どうだろう… まぁ ここを脱出した後に考えてみるよ」



由美「もう優柔不断なんだから 分かりました ちゃんと考えておいて下さいね」



足をバタバタ動かし、バンバンコピー機へぶつける由美が強引な勧誘の如く矢口へ問い詰めていた



その時だ



ドカァァァァァ



突然の爆発音が鳴り響いて来た。

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