第180話 急襲

唯一排水口に直結したホース



そのホースの裂け目から激しい水が漏出



勢いよく水が床を流動している。



下で朽ちる死体の衣服に水が浸潤し広がりを見せる大量の水



まるで滝の様に放流された水の効果なのか…?周囲の気温が一気に下がった様に感じられた。



まるでマイナスイオンでも発生してるかの様にこの暑苦しい館内で一間の涼しさ、一時の爽快感を感じるハサウェイがナイフを口で咥えた。



よしよし… この調子で足首…または膝下まで水が浸かってくれればいい…



4つある給水タンク



ハサウェイは通路を伝い流出する水を眺めながら弓矢とモップを拾い上げ、隣りのタンクへ目を向けた。



そして隣りのタンクへと移り、同様の手順で同様の細工を施した。



2箇所から放流された水が機械室中の通路を流水して行く



これでオッケー…



2つもやれば十分だな…



ハサウェイは2箇所からの放流を確認、次はあの場へと目を向けた。



同ブロックの電気設備区画にあるあれに…



ハサウェイの思い描く作戦のシナリオはこうだ



まず機械室を膝辺りまで冠水させる



それから奴等を一点へと呼び集め、一手に集めた所で…



あれをぶち込む…



目を向ける視線の先には高圧電線が収納されるコンテナがあった。




そう…ハサウェイの作戦とは…あそこの高電流をこの浸かった水へと叩き込み、奴等を一気に叩く…



ボルトは電気を送ろうとする力



アンペアは電気の力



人間の身体ならおよそ300ボルト 1アンペアもあれば致死に関わる



触るな危険 高圧電線の文字



その下には3万ボルト 200アンペア。



関係者以外立ち入り禁止の貼り紙にそんな文字が連ねてある。



直流なら確実、即死に至るレベル



いくら奴等がアンデッドとて…身体は人間…



また…もし体内に蟲がいようと…



この大電流なら奴等の身体に巣くう虫もろとも一気に片付けられる…



40体を一気に倒すには…



通電性抜群な水の中にこいつをぶち込み…奴等に電撃を食らわせるしかない…



ハサウェイは水浸しな地へと静かに降りた。



同時に素早く物陰へ隠れ、前方へ視線を向けると



その先には、水に足をとられ転ぶ感染者や思う様に前へ進めずにいるゾンビを目にした。



奴等に気づかれぬ様、前へと進み出すハサウェイ



早くも水は靴の半分近くまで浸かり、冠水している。



この勢いなら水が貯まるまでそう時間はかからないだろう…



ハサウェイは急ぎ足で高圧電線のコンテナへと近寄った。



至る所に設置された室温計



壁に取り付けられたアナログ式の室温計の赤い線が42℃を示している。



放水で著しく室内の温度が低下



その差は身をもって体感しているのだが



しかし…まだまだ涼しさとは程遠いい灼熱の暑さ



身体中に巻かれた包帯を取りたい…



あらゆる箇所の毛穴から汗が溢れ出し、ハサウェイの不快指数は一向に平行線を辿っている。



暑さからそんな衝動にかられるもそれを我慢した。



背中に収納された弓矢、右手にモップ、左手にナイフを握るハサウェイが額の汗を拭いながら迅速な忍び足で歩を進めて行く



そして高圧電線のコンテナ前へと辿り着いた。



金網状のフェンスに取り囲まれたコンテナ



1、関係者以外の立ち入り禁止



2、施工する際、一級電気施工管理技師資格を持つ者及び第2種電気主任技術者資格を持つ者の立ち会い下、作業を行って下さい



3、工事、点検など施行には必ず2人以上の作業員で行って下さい



4、作業の際は第3種電気工事士以上の資格を持つ者で作業にあたって下さい



ビルメンテンナンス機械総合管理責任者 郷田



このような規則が書かれたプレートを目にするハサウェイ



扉には鍵が掛けられ



ハサウェイは錠へ触れながら見上げた。



コンテナは金網で囲まれているが天井は空いてる



入り口は施錠されてるが…この金網をよじ登れば中に入れる…



ハサウェイは左右を警戒した。



遠目に奴等が見え



先の通路を徘徊する姿だ



大丈夫だ… 気づかれてない…



左右を確認したハサウェイはモップをそっと立てかけ、ナイフを咥えるや、金網をよじ登りはじめた。



だが…



2~3歩程上がった時…



突如 ハサウェイの足首が掴まれ



突然引きずり下ろされた。



何だ…?



凄い力で引きずり下ろされ



ハサウェイの金網を掴む手が外れた。



バランスを崩し、ガシャガシャと金網に身体を押し当てながら落下



ぐぅ…



着地と共に激しい激痛が全身を襲い、一瞬苦悶の表情を浮かべた。



だが…すぐに我に返りハサウェイがハッと正面へ振り向くや



男の姿



その男が拳を振りかぶり、打ち込む寸前だった



ガシャャャ



金網を激しく揺らし、打ち込まれた拳



飛び込み、回転しながら受け身を取るハサウェイ



寸刻で男の打撃を避け、男の斜め後方へと回避していた。



ハサウェイは瞬時に片膝を付けながら起き上がり、そいつへと振り返った。



一体何だ…?



未だ揺れる金網



衝撃を受けた部位の金網がヘコんでいる。



迷彩柄のズボンにピチピチの黒いTシャツ、マルタの様に鍛え抜かれたぶっ太い腕を伸ばす男



いかにも訓練されてるだろうガタイのいい男の姿だ



そいつが金網へ正拳を撃ち込んでいた。



そして、その男がゆっくりこちらへと振り返った。



眉間にシワを寄せ、犬の様に威嚇した表情



眼は充血し、眼球が不自然に動いている。



口から泡状の唾液を吐き出し、1ミクロンも友好的には見えない表情を浮かべていた。



周囲は確認した筈…こいつ…どっから現れた…?



それよりもこいつ… ただの感染者じゃ無い…



特異感染者…?



いや… 見た所、好戦的で獣並みの狂暴



こいつ…



サイレンサーか…?



しかも軍人…



自衛官タイプか…



っとに…次から次へと…



うざってぇーなぁー…



またしても敵との遭遇を許してしまったハサウェイ



ハサウェイの前に1体のサイレンサーらしき感染者が現れた。

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