第172話 釣魚

何とかなると思っていた…



奴等をこの管内に誘い込み、奴等をこの管内に閉じ込め、自分はこの管内からおさらば…脱出してやると…



こんな韜略(とうりゃく)の手筈だった…



運搬用エレベーターしかり天井裏への抜け道しかり



上への脱出経路くらい簡単に見つかる予定だった…



しかしまぁ…いやはや…そうそう思い通りには行かせてくれないもんだな…



ハサウェイはそんな感慨を示す表情でボイラー機を眺めた。



こっからのエスケープが困難な事に直面し



ハサウェイは脱出を諦め、作戦変更した。



ただでさえ負傷の身、知識も経験も無ければ、100%ハイリスク ハイリターンな作戦



どれ程の爆発力なのか…その威力も範囲もまるで未知…



巻き添えを食う恐れもある…



こんな事、純や、エレナにバレたら無謀だとどやされ…長時間の説教を受けるかもしれない今作戦



やるからには失敗は許され無い…



ハサウェイはボイラー機を爆発させこの場にいる奴等を片付ける戦法へと切り換えた。 のだが…



その前にマニュアル本が必要だ



あれのマニュアル本か何かは何処にある…?



目で探るハサウェイに、入口付近の中央管理室が映った。



ここの設備を統括する中央管理室、防災センター



あるとしたらきっとあそこだな…



ここから距離にしてざっと2~30メートルって所か…



管がここで途切れてる以上



あそこへ行くには地上に降りて移動しなければならない…



下では自由行動で徘徊する奴等の姿



ちょっと距離があるな…



どうする…?行くか…?



超危険な状態に、ためらいを見せるハサウェイ



心の準備が必要だ



天井の堅管にまたがり、呼吸を整えながら他に策はないかいろいろ設備を見渡すハサウェイの目に…



待てよ…



新たに飛び込んで来た物



大きなコンテナに貼られたプレート



危険 高圧電線の文字



そしてもう1つは4機のボイラー機の横に設置された各給水タンク



ハサウェイはそれらに目を付け、脳裏に新たに作戦を浮かべた。



2つのタクティックスを天秤にかけ計りにかける



こいつなら俺にもすぐにやれそうだ…



高圧電流、給水タンク…



目的を絞り込んだハサウェイの目の色が変わった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



3階非常階段



木の枝の様に剪伐(せんばつ)され、転がる無数の手足



色濃い血糊の道塗が凄惨な道標になっている。



バウンドで弾ませ、階段を転げる物体が2つ…



そう…それはまるでサッカーボールの様に階段を転げる2つの頭部だった…



その後、頭を切り離された胴体が2つ、頭部を追う様に豪快に階段を転げ落ち、裂屑された肉叢(ししむら)に折り重なる。



芹沢vs感染者、ゾンビの集団



球体から放射された複数の硬鋼炭素線



追っての感染者やアンデッドに巻き付いた。



急速に首、胴体、手足へと絡み付き、壁に写るいくつもの影像



頭部や手足の影が胴体から切り離され、壁に血が飛び散った。



壁に鮮血が差し零(あや)される横を死生不知な亡者共が階段を駆け上がる。



人差し指の指甲が折り曲げられるや、また数本のストリングが射出された



駆け上がる3体の感染者にすぐさま絡みつき、即座にバラされていく。



上で待ち構える芹沢は薄ら笑みを浮かべながら、その糸を引き寄せ、今度は、階段を駆け上がり現れた奴等目掛け、ジャストミートでそれを振り下ろした。



捨て身で追走する5~6体が踊場へ現れると同時につるぎと化しか数本の糸が振り下ろされ、真ん中から真っ二つに斬り裂かれる感染者、首もとから斜めへと袈裟斬りに切り落とされた感染者が早急に駆除される。



肢体が何個ものピースに分断され、活動停止する骸達



玩具を壊す悪ガキの如く歪んだ笑顔が更に増し、殺戮の光悦感に浸る芹沢がもう…かれこれ50~60体は葬っただろうか…



おびただしい流血と残骸の中



追走する最後の感染者とゾンビが駆け上がって来るのを芹沢は手すりから眺め、確認した。



芹沢「あとはあのクズ2つで終わりかな…」



独り言をこぼす芹沢が階段を登る最後の2体へと手すりから球体を差し向けるや



2本の糸を放射した。



忽地に2体の首へと巻き付く糸



芹沢は舌で上唇を一度舐めるや、球体を揺する事無く、ただ糸のみを引き戻し始めた。



首に絡みつく糸が締め付けながら、引き寄せられ、感染者、ゾンビの躰が上へと引き上げられる。



浮き足で宙吊りに首吊られた2体



空中でバタバタもがく2体の首が更に締め付けられ、感染者の食い込む首から血が滴り落ちた。



芹沢「あれっ…結構…重…」



芹沢は壁に右足を付け、力任せに引っ張るのだが中々引き揚げられずにいた。



重量があるからなのか…?オートでの収納が停止した糸



芹沢は人力で2体の奴等を引き揚げようとしている。



それはまるで釣りでもするかの様に…



大物を釣り上げるかの様に首吊られた2体を必死に釣り上げようとしている。



芹沢「はぁあ~んん~ぐぅぅぅ~あがれぇぇええ~」



徐々に上がって行く2つの躰



バタバタ全身を動かし暴れる感染者の首が益々締め付けられ、きつくなるや、絞められ鬱血した箇所から血が溢れ出した。



また腐乱状態に突入するゾンビの首にも糸が食い込み、徐々に皮膚を裂き始める。



芹沢「らぁぁぁぁ ッソ~暴れんなぁ~ 馬鹿ぁ~」



芹沢は顔を赤らめ、この釣り上げに執着した。



半ばまで持ち上げられた2つの成人男性の身体



中肉中背 総量120~130キロって感じだろう…



こいつは絶対釣ってやるぜ…



芹沢「くぅぅ~かぁ~上がりやがれぇぇ~死に損なぃ~」



渾身の力で引き揚げる芹沢の腕が痺れと痛みを伴ってきた。



だが…何かに駆られた様にやり続ける芹沢



こめかみに血管が浮かび上がり、真っ赤に染まる顔



踏ん張り、全身の筋肉を駆使して芹沢が2体を引き寄せるている最中…



突如 急激に軽くなり、勢いよく感染者の頭部が手すりへと現れた。



そのまま引き寄せ、感染者の身体が手すりを越えて床へと落ちた。



芹沢「はぁはぁはぁ…あれ?」



2体の筈…



芹沢が手すりから下を見下ろすと、締め付けられそのまま切断されてしまったゾンビの頭部と身体が落ちていた。



芹沢「あっちゃ~ そうゆう事」



まぁいいか…



芹沢が首を絞められ尋常じゃない程蒼白する感染者を目にした。



ジタバタもがく姿に冷淡な眼差しで見下ろす芹沢



なんだおまえ…まだ生きてたの…?



そう言いたげな冷めた目で球体を揺すり、糸を吸引するやその場を後にした。



邪魔な雑魚は全て排除したし…



後はメインディッシュ…だね



そこには悪魔の様な不敵な笑顔の芹沢がいた。

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