第170話 間髪

都市部を抜け、郊外の車道を走る3台の軍用車両



その軍用車両が急激に折り返し始めた。



タイヤの摩擦音が鳴り、アスファルトに轍(わだち)を描く程の勢いでUターンをかまし、来た道を戻り始める73式特大型輸送トラック群



「本部へ こちら第5、第8、第11の3班も作戦に戻ります」



「暗くなって来たな… 今後市街戦では暗視ゴーグルが必要になるかもしれん…各自用意しとけ それと現場で遅発(ハングファイヤー)、弾詰まりだけは勘弁しろ 各自小銃を点検しとけ、残弾の確認も忘れるな」



1台の車内にバイポット(2脚銃架)で立てれた3挺もの対人狙撃銃レミントンM24その他64式7.62狙撃銃、スプリングフィールド狙撃小銃が置かれている。



そして、その狙撃銃の整備と調整を行う三組のシューター(狙撃手)、ペアを組むオブザーバー(観測手)が見られた。



シューターがスコープを覗き



スポッターが何やら用紙を手に計算している。



本部から送られて来た配置ポイントの風向き、風速、気温、奴等との概算距離、湿度のデータを元に動力予想補正数値やコリオリ、ミル、抗力計算をiPadで計算、入力、弾道予想数値を弾き出していた。



それに伴いスナイパーが照準器のメモリを調整しながら零点規正する姿が見られる。



観測手「後ダイヤルを上に2、右に1だ」



スコープを覗くスナイパーが十字のレティクルを調整する。



スナイパー「よし これで大体はOKだな 後は現地の状況次第か…」



観測手「なぁ…俺達変異体の狙撃が任務だろ…?奴等の中にもいるとかないよな?」



スナイパー「何が?」



観測手「同業だよ」



スナイパー「スナイパーがか?まさか…いる訳ないだろ…」



観測手「でも奴等銃も使えるんだろ…」



スナイパー「扱えるったって拳銃くらいだろ…仮に狙撃銃を手にしたとしても…闇雲に撃って当たる程簡単な代物じゃない 高度な計算、経験、データが必要なんだぞ」



観測手「大阪戦で多くの自衛官が犠牲になった…その中に狙撃手だっていたんだ…多くの狙撃手が犠牲になったんだよ」



スナイパー「だからどうした…考え過ぎだろ 仮にそうだとしても感染者風情が計算なんて出来るかよ…それに感染者が銃器自体扱うって話しも今まで聞いた事が無い…」



観測手「確かに今の所はな…でも本当にそうか?奴等は手榴弾の使い方まで分かるレベルなんだぞ もしベテランの狙撃手が感染者にいたら…」



スナイパー「いたら何だ?奴等がスナイピングしてくるって……?ピン抜きと計算は雲泥の違いだろ」



観測手「そうじゃない、操作のレベルがどうこうじゃない…用途を分かってる事が怖いんだよ…」



観測手「有り得ない話しじゃない…」



他の2組もその観測手へと視線を向けた。



観測手「計算しなくとも…一発外しても…闇雲に撃ってくるなんて事があるかもしれない…元経験者なら即座に弾道修正ぐらい出来る可能性だって否定は出来ない…ともかく撃って来ること事態、脅威を感じないか?…それに奴等はどんどん智恵をつけて来てるんだ いずれ拳銃、89はおろか…狙撃銃で狙いを定め、発砲してくる奴が現れるかもしれない」



スナイパー「変異体の狙撃手…」



言葉を失った狙撃手が困惑した表情でバディーの顔を見詰めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



揺れる車内で声を張り上げる班長



栗賀「これより激戦が予想される…何が起こるか分からない状況だ 不測に備え、連携を密に、常に目標との距離を30メートル空けて銃撃しろ これから座間2個連小隊に全部隊が集結し、反撃、駆逐作戦が始まる 危うく頓挫しかけた今作戦 気合い入れて作戦に望め 私からは以上だ」



「よーし 化け物退治の続きを始めようぜ」



「あぁ 奴等一匹残らず冥府に強制送還だな」



「座間部隊の場所は?」



「下京区の367号と1号の交わる交差点付近です」



「時間は?」



「後20分はかかります」



「急げ 他の部隊に乗り遅れるぞ」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



京都府 京都市 下京区 醍醐町



座間2個連小隊+2個分隊+CHー47チヌーク1機



只今 交戦中



完全に太陽が沈んだ夕暮れ



上下共に3車線ある大きな国道1号線で…



烏丸通りとぶつかる、その大きな交差点の中心に2台の大型バス、3台の軍用車両が置かれ、バリケードが築かれていた。



その車両の屋根から激しい発砲を繰り返す41名ものザクト兵達がいる。



鳴り止まずに永遠と重奏する銃音



グルグルと上空を旋回するチヌーク機



車のライトが点けられ、ヘリからも明かりで照らされている。



その明かりで照らす地上では車両の盾を取り囲む屍躰の集団



夕暮れの十字路から…暗がりな街路から続々と奴等が群れていた。



空の弾倉を投げ捨て、新しいのを装填するやセミオートで単発を撃ち込む隊員達



パァン



命中した感染者の頭部から血が吹き出し、崩れ落ちた感染者の体躯が群集の中へと消えた。



タタタタタタ



「吉川ぁ 吉川」



タタタタタタタタ



「え?はい?」



タタ



「撃ち方止めろ 馬鹿」



「はい」



「フルオートで撃つ馬鹿がどこにいる 単発か3点バーストにしろとさっき言ったばかりだろ」



「先輩…しかし…」



「返事は?」



「了解」



「村上 ひとまる方向へ撃ち方頼む」



スコープを覗く男が無言で頷き、10時の方向へ銃口を向けるや引き金を引いた。



パン



走って向かって来る感染者の頭部がヘッドショットされ、身体が落ちた。



パァン パン 



撃ちながら連射モードを3バーストに変えるや



タタタ タタタ  タタタ



あっという間に的中された9体が道路に転げた。



タタタタ タン タタタタタタタタ



鴨川隊長「マガジンは後いくつある?」



タァン タタ タァンタン



「残りもう50です」



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



鴨川隊長「火砲は?」



タタタタタタタタタタタタタタタタ



「使い切りました」



タタタタ タタタ タタ タタタ



鴨川隊長「擲弾は?」



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



「ありません」



タタタタ タタ タタタタタタタタタタタタタタタタ タタタタ



鴨川隊長「もう使い切ったのか…」



四方で撃ち続ける銃撃



弾がみるみる減っていく



横山「もうじき弾が尽きるな」



タタタタ タタタタ タタ タタ

タタタタタタタタタタタタタタタタ



撃ち殺された感染者やゾンビの人垣を乗り越え襲いかかってくる新たなキチガイの集団同調性バイアス



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



「弾数残り28です」



タタ タタ タン タタタタタタ

タタタタタタタタタタ タタ



誘発する銃声で市内中から奴等が集まり、気付けば2000を越えている。



殺しても殺してもまだまだ膨らみ続ける奴等の群れに焦りを隠しきれない鴨川隊長や横山隊長、山本隊長、他の隊員達



タタタタタタ タタタタ タタタタ

タタタタタタタタタタタタ タタ



「弾を」



タタタタタタタタ タタタタタタタタ



「配給 これで最後です」



タタタタタタタタ タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



横山「援護はどうなってるんだ?」



タタタタタタタタ タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



「弾を下さい」



「これで最後です」



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ タタ



「最後?まだあるじゃないですか?」



タタタタタタタタ タタ タタ タァン



鴨川隊長「救出隊 ガンシップの援護要請はしてます…」



タァン タタ タン タタタタ

タタタタ タタタタ タン タタ



「俺にもくれ」



「これで最後です…もう弾が全員まで行き届かないので理解して下さい」



タタタタ タタタタ タタタタ



「マジですか…この状況で…弾切れなんて起こしたら…」



給弾隊員と辺りを見渡すや…



減る所か急激に増加した奴等の群れ…



2人は真っ青に顔面の血の気が引いた。



タタタタタタ タタタタ タタ



ガチィ ガチィ



弾切れを起こす89式自動小銃



「クソぉ 切れた 弾くれ」



タタタタタタタタタタタタタタ タタ タァン



「ゼロです…もうありません…」



タタタタ タタタタ タタ



「ふざけんな 一発も無いのかよ」



タタタタ タタタタ ガチ ガチ



「ありません…」



遂に弾切れを起こす隊員等が出始めた。



給弾隊員に詰め寄る隊員達



奏でる銃音の数が急激に減って行った…



タァン タァン タタ タン



「弾切れが始まりました…救援はまだですか…?このままでは…」



弾幕が消えた範囲から奴等がこぞって侵入し、バスの壁へと貼り付く感染者



見下ろす隊員がビビって身を引かせた。



「うわぁぁ 貼り付いたぞ」



薄れて行く銃の音色と反比例で恐怖を抱き、混乱するザクト兵達



弾丸など恐れぬ感染者、ゾンビが死体の壁を乗り越え次々に車体へと貼りつき出した。



乾いた音色がなくなり



とうとう弾薬が枯渇した…



インターセプトを失った座間隊に…



容易にバリケードへと貼りついていく感染者達



「弾が…弾が全て尽きました…」



座間2個隊 第3小横山隊長の眉間にシワが寄せられ、厳しい表情へ変化した。



同じく第6小の隊長、山本へ向け…



横山隊長「私には荷が重い任務だっ…」



突如 屋根が激しく揺れ、バランスを崩した、横山、山本、即応救出隊の鴨川隊長をはじめ多くの隊長等が倒れ込んだ



なんだ…?



片膝をつけた横山が下を見下ろすや、すっかり辺り一面を取り囲んだ奴等が車体を揺する光景



バスやトラックが激しく揺さぶられた。



クソ…ここまでか…



望を絶たれた横山が夜空を見上げ眼を閉じた



また…



早く来てくれ…



即応救出で駆けつけた鴨川も歯をくいしばった…



その刹那に…



いくつもの爆発が生じ…



あの音が流れ始めた



覚醒の旋律…



「IFF起動 シューティングマスターアーム放出します」



発砲され、何かが飛翔し拡散された。



「こちらもシューティングマスター放出しました」



広がりを見せる金属製のネットの様な物



その広範囲へ拡散したいくつものネットがたちまち群れを覆い被した。



その後 四つ角に取り付いた鋭利な筒状のけつが点火し、アスファルトへと突き刺さる。



それと同時に



ドカァァァ



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



爆発や銃撃が始まり



いくつものプロペラ音が聞こえてきた。



「本部へ ランド隊 到着 只今交戦中 デジタルコンバット プログラム3へ移行します」



「即応救出隊03 現場到着 戦闘開始」



「こちら救出隊マルヒト 本部へ BP8現着 殲滅する」



「こちらアパッチ02 座間隊、即応救出隊の生存確認出来ました これより航空援護に入る ヘルファイヤ1から2発射」



「AHコブラ06 殲滅開始 TOW1 はっしゃゃ~~」



「こちらAH03 BP8の一掃を開始する 空撃にあたる」



「こちらブラックホーク 航空狙撃態勢に入る」



間一髪現れた仲間の空陸部隊



奴等の殲滅が開始された。

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