第167話 残毀

非常階段  



タイムリミット残り1時間40分



最後尾に位置する由美



由美が追ってを防ぐ殿(しんがり)を務めていた。



煙幕の先から奇声と共に影法師が映り、黒い人影の輪郭が煙りを突き破って実体が現れるや。



パァン



乾いた銃音が鳴り響き、遺体となって階段を転げ落ちた。



仰向けで沈黙した感染者が由美の足元へと転がる。



少し間の空いた奴等との距離



由美はすぐに3人の後を追った。



残弾 14発



ーーーーーーーーーーーー



B3の通路でハサウェイ、純やが2人を待っていると矢口が降階し、やって来た。



純や「由美ちゃんは?」



矢口「上で足止めしてます」



ハサウェイ「銃は?」



矢口「弾切れです…」



矢口が通路を見渡した。



通路の先にはデカデカと機械室のネームプレートの文字



矢口「行き止まり…?この先どうするんですか?奴等わんさか追って来ます」



ハサウェイ「矢口さん…」



ハサウェイが矢口に作戦内容を説明した。



矢口「…それを1人で?そんなの1人じゃ無理です しかも、その負傷した身体じゃ…やるなら代わりに自分が…」



ハサウェイ「いいや…俺がやる」



純や「説得したんですが…もうハサウェイさんにはいくら言っても無駄ですんで」



矢口が純やを目にしハサウェイに視線を移すと



ハサウェイ「まぁ そうゆう事だ」



矢口「自分等は… じゃあその間自分等はどうするんですか?」



ハサウェイ「純や トランシーバーを1つよこせ」



純や「はい どぞ」



ハサウェイは手にしたトランシーバーを握り締めながら



ハサウェイ「時が来たらこいつで合図を送る したら奴等を閉じ込めてくれ」



ハサウェイが歩き出し、側面にある空き室らしき1つの部屋のドアを開いた。



ハサウェイ「それまでここに隠れて待機だ」



矢口「それ上手くいく保証はあるんですか?機械室の地形だって広さだって知らないですよね?」



ハサウェイ「あぁ 実際よくは分からない だから臨機応変さが必要になる…だからこそ…俺が1人でおびき寄せる」



矢口「みんなで協力すれば…」



ハサウェイ「1人の方が動き易い 奴等を一網打尽にするにはもうこれしか手が無い 早く済ませてエレナの元へ戻らないといけないんだ 従ってくれ」



納得いかない矢口と純やをよそに、強行の姿勢崩さないハサウェイ



ハサウェイと矢口を交互に見渡す純やが一息つくや口を開いた。



純や「もう成功を祈って、お互い腹決めるしかないですね」



矢口「…」



ハサウェイ「あぁ…そうゆう事だ」



純や「リハ無し一回こっきりぶっつけ本番ですよ 失敗して死ぬのは許しませんけど分かってますよね?」



ハサウェイ「あぁ 重々分かってる」



純や「分かりました なら…こいつ使って下さい」



純やからアンカラントナイフが手渡された。



矢口「分かりました… やりましょう」



すると 階段を降下する1つの足音が近づき、由美が降りて来た。



隅角から現れた由美



純や「由美ちゃん」



由美「すぐに奴等が追って来ます」



階段を降下するいくつもの靴音が反響して来た。



純や「由美ちゃん こっちだ」



由美「え? え?え?」



由美の腕を引き、強引に連れ込む純や



矢口「頼みますよ」



ハサウェイ「あぁ よし やるぞ」



作戦内容



100体近いゾンビ共を機械室へと誘い込み、奴等を全て封じ込める。



ーーーーーーーーーーーーーーー



エントランスホール



二手に別れたゾンビの群れ



その一群が芹沢へと向かい、階段を駆け上がって来た。



猛ダッシュする先頭の感染者に…



頭部に糸が巻き付けられ、切断



芹沢「やば」



迫り来る大群に芹沢は、たまらず非常階段へと飛び出した。



そんな芹沢を追いかけ、外に出て行く群れをエレナが目で追った。



フロアーに溢れていた奴等は全ていなくなり、エレナと理沙のみが残される。



無声の世界となるエントランスに佇む、エレナと理沙



理沙「2人っきりになったねぇ~ さぁ 早速お食事お食事」



理沙がエレナへ振り向いた瞬間



ドォー



ベネリショットガンの引き金が引かれ、銃口から1発のフレシェット弾が火を噴いた。



拡散した鉛弾と小矢が理沙の腹部から喉元にかけて着弾



小さな無数の銃穴が開き、理沙の身体が後方へと吹き飛ばされた。



数メートルはじかれ、仰向けで倒れる理沙に…



ガシャ



ポンプアクションするや排莢され次弾が装填されたベネリショットガン



倒れる理沙へと散弾銃を向け



先制攻撃を繰り出したエレナは倒れる理沙へ尾撃態勢でショットガンを構えた。



起き上がった瞬間 その頭ふっ飛ばしてやる…



そして倒れる理沙の身体が動き



上体をゆっくり起き上がらせた



その瞬の間…



ドォーン



今度はスラッグ弾(一粒弾)が打ち懸けられた。



狙い定め、放たれた弾丸が…



理沙の顔面に直撃



脆くも弾け飛んだ



髪の毛、眼球、頭部に詰められた脳味噌が割れた風船の様に破裂し、血と混じり周囲に飛び散った。



首無しの残毀した胴体だけが哀れに血にまみれ、取り残される。



それから時間差で理沙の胴体がゆっくりと倒れ込んだ。



散弾 残り1発



エレナは無残に横たわる顔無しの死体に銃口を向けつつ見据えた。



やった…



少し荒げた呼吸、荒げた動悸、荒げた感情で動向を監視するエレナ



頭を吹き飛ばした… だけど…



あまりにもあっけなさ過ぎる…



エレナは安易に勝利の確信など持てずにいた。



こいつがこんな簡単に死ぬとは思えない…



まだ多大な不安が残るエレナは…



もう活動するな… するな… するな…



何度も念仏の様にそう頭の中で唱え…



理沙がこのまま起き上がらない事を強く願った。



理沙の首から多量の血液が放流し床を真紅に染めている。



それを目にしながらショットガンを構え、いつでも放てる状態のエレナに未だ不安は拭えず…



もしかしたらこんな状態でも復活するかもしれない…



相手はただのゾンビでも感染者でも無く…ただの特異感染者でも無い…



何でもありのモンスターなのだから



ジリジリと近寄り、警戒しながら理沙の様子を伺った。



ピクリとも反応を示さない、理沙の死骸



本当に倒した…?



見下ろす死体に



エレナから徐々に疑念が解消され、制勝が込み上げてきた。



本当に理沙を殺した…



それが徐々に確信へと変わって行った。



理沙を倒せた…



強張る表情から安堵の表情へと変わったエレナ…



だがエレナは再びキリッとした目つきを変え



まだ…終わってない…



あの芹沢との対決が残ってる…



あいつから鍵を奪い…早くここから脱出しないと…



芹沢が逃走した非常口へ視線を向け、エレナの眼光が鋭くなった。



そして標的を芹沢へと絞ったエレナ



理沙の死体を通り過ぎ、血の池に足を踏み入れると、血に染まる足形が点々と続いた。



芹沢との決着をつける為



歩み出すエレナ



その歩みを進めたエレナの背後で…



理沙の指先が動き出した…



そして脚が動き…



膝が立てられる…



頭部を吹き飛ばされた筈の理沙が…



エレナの背後で復活を遂げ…



動き始めた。

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