第106話 逆戻

あれ…ここは…?



宇宙の様な真っ暗な無重力空間に浮遊する道



光1つ無い暗闇の中…



でも… 気のせいかな…?



ここは初めてな気がしない…



何となくだけど一度だけ…



来た事があるような気がする…



んな馬鹿な… 浮いてるんだぜ…



いや…でもやっぱ…



リアルな感覚の夢の中



道は自らの右腕を目にして、身体全体がうっすらと光に包まれている事に気が付いた。



身体が光ってる…



すると…



「みーちくん みちくぅん」



背後から名を呼ぶ声が聞こえ、道が顧視するとそこには笑顔を浮かべる女性の姿があった。



道は両目でしかと視線を向けると



そこには玲奈が存在していた。



愛くるしさと瓠犀(こさい)な笑顔が似合う玲奈



そう…玲奈が忽爾に御見内道の前に現れたのだ



玲奈の身体は自分と同じく光に包まれ、ほのかに煌めいている。



「れ…玲奈…」



「おみないみち君 びっくりしちゃった?」



「え?…う…いや…ううん…そんな事無いよ… 嘘 ちっとビビったよ…ここは…?ここ何処なの…?」



「これはねぇ~何をかくそう道くんの深層意識の中なんだ まあ夢の中って言っちゃえばいいかなぁ」



「夢の中?そっかぁ… 夢かぁ… そうなんだぁ!でも…なんかかなりリアルな感覚だな…夢の中とは思えない」



「ふふ…そうだよ… ねえ 道くんさぁ~ 私達が付き合い始めた時の事覚えてる?香奈や隼人君達に内緒にしてた時の事?」



「あぁー勿論覚えてるよ あん時結局おまえが口滑らして…みんなに言っちゃったんだよなぁ」



「あははー やっぱ誰にも聞いてないんだぁー やっぱり道くんは知らなかったんだね」



「知らないって…?」



「実はね…あれ…もう最初っからみんなにバレてたんだよ」



「え?付き合ってた事が?なんで?あれは玲奈が口を滑らしたからバレたんだろ?」



「違うよー みんなでカラオケボックス行った時 暗がりだから大丈夫だって…テーブルの下でずぅーと手握ってたの…実は…あれ、みんなに見られてたんだよ」



「ホントに? バレバレだったの?」



「そうだよ~ それで御手洗いの時に香奈がいきなり来て、その場で問い詰められて私…思わず言っちゃったんだぁ それで香奈にみんなにちゃんと言いなって言われちゃったんだよ」



「マジかよ?そうなの?全然知らなかったよ…」



「うん…それで後日みんなの前で話したんだよ 実はそうなんだぁ… 道くんにはもうちょっとの間2人だけの秘密にしとこうって言われてたのに私言っちゃってごめんね」



「う…ううん…いや…別に…うん…別にそんな事くらい…全然いいよ…別に謝る事じゃないだろ」



「ありがとう… 言えてスッキリしたぁー でも…やっぱり道くんは優しいねぇ…私に何かあればすぐに駆けつけてくれたしね…」



「駅で自転車の鍵落とした時もすぐに飛んで来てくれて一緒に探してくれたし…」



「あとは…美容院で髪型失敗しちゃって落ち込んだ時も…仕事で失敗して凄い上司に怒られて落ち込んでた時も…必ず飛んで来てくれて側で励ましたり、慰めたりしてくれたよね」



「うん」



「あ~後…きわめつけは道くんの大好物の肉じゃが作った時、明らかにゲロゲロマズマズだったのに…おいしいおいしいって全部食べてくれた事もあったな」



「え?あ…うん…おいしかったよ…」



「なんか色々と…ホントに嬉しかった」



「うん…」



「道くんとはいろんな所にも行ったね…」



「うん」



「温泉も行ったし海も花火大会もいろいろな所に行ったよね…私は去年行った富士急ハイランドが凄く楽しかったからまた今年も一緒に行きたかったなぁ…」



「うん」



笑顔で楽しそうに話す玲奈とは対照的に涙が溢れ出ながら話しを聞く御見内道



「この2年間道くんがいつも一緒に行てくれたおかげでいろいろな思い出が作れて玲奈はホン~ト~に幸せ者だったよ」



「玲奈…」



「私ね…どうしてもお礼を言いたくてここに来たんだよ…」



「わがままばっかり言ってた私と今まで付き合ってくれてありがとう…」



「そんな…こっちこそ…」



「それともう1つ…道くんに伝えたい事があるの」



玲奈を涙目で見据える道



「私が死んじゃった事で…もう責任を感じないで下さい…決してあなたのせいじゃないの…だから…もう苦しまないで欲しいの」



「でも…あれは…俺が…」



「ううん…道くんのせいじゃない…道くんはちっとも悪くないよ…あれは私が自ら選んだんだから だから…もう後悔するのも…下を向くのも止めて欲しい…道くんには明日から前を向いて強く生きて欲しいの…」



「でも…」




「約束して…道くん…強く生きるって…お願い…これは私の最後のお願いだよ…優しい道くんならきっとこのお願いきいてくれるよね?」



涙を一度拭き取り、玲奈を見詰めながら



「うん…うん分かった…おまえの分まで嫌でも最強に生きてみせるよ」



満面の笑みを浮かべる玲奈を、もう一度涙を拭き取る道の眼が力強さを取り戻した。



「良かったぁ約束だよ?」



「あぁ 約束する」



すると 玲奈から急激に笑みが消え真剣な顔ばせに変わると



「それから ハサウェイ あなたは駄目よ こっちの世界へは行かせないから…」



「え?何?ハサウェイって?俺…?」



玲奈はすぐさま穏やかな笑顔に戻ると



「ごめんね… これは先の道くんに言ったの…時間も空間も関係無い世界だから…この共場に迷い込んじゃってて…今…道くんと意識が一緒になっちゃってて… ほっとくとそのまま黄泉へ行こうとしてるから…」



「え?え?何の話し?」



「いいの…道くんは気にしないで…それよりハサウェイ 大事な人が出来たんだから女の子を泣かしちゃ駄目だよ もう…みんな心配してるんだからそろそろ戻らないとね」



そして、玲奈が手をかざすや、空間に1つの穴隙が生じた。



そしてその穴から光が差し込んできた。



「道くん その穴から行ってもらえる…その穴を出れば道くんもハサウェイも眼が覚めるよ… 一緒にハサウェイも現世へ連れ戻して貰える」



訳も分からず頷くハサウェイこと御見内 道が浮遊し、開いた穴の前で止まると玲奈へ振り返った。



「玲奈 お礼を言いたいのはこっちの方だよ…今までありがとう…それで俺からも1つだけ玲奈に聞きたい事があるんだ」



「うん?…なぁーに?」



「最後に口パクで何て言ったんだ?」



「ふふ… あれかぁーあれは…ちょっと恥ずかしいなぁ…でも…特別に教えてあげる」



すると 玲奈が手を振り



「あれはね…」



「いつまでも愛してるよ…バイバイ」



すると 御見内 道は穴の中へと急激に吸い込まれた。



そして…現在…



「…ウェイ…ハサウェイ…」



呼ぶ声が聞こえ



ハサウェイはゆっくりと目を開けた。



そしてハサウェイの意識が戻った。

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