第87話 邂逅

15階 エレベーターホール前



開いた扉から、続々と焼け爛れるゾンビや感染者が侵入



冷たく澱んだ目で廊下を徘徊する亡者達でにぎわい



フロアー内には感染者同士の一切内容の噛み合わない不自然な会話が平然と行われている。



そんな中



壁にもたれて、俯き深い眠りに入る理沙の指呼の間に…



夥多の兵隊共が導かれるが如くこのフロアー内に集束している…



攅立する密集の中、眠る女王から片時も離れず、ただ凝然と立ち詰める長身の特異感染者



その今まで微動だにしなかった特異感染者の目が動き、首を動かし、斜交いへ視線が向けられた。



理沙の目がパチリと開かれ、顔が上げられたのだ



理沙「ふ~ よいしょ」



そして起き上がる理沙が辺りを見渡し、横で佇む特異者へ振り向いた。



良い子なチルドレン達はこれで全部…?



そう… どれくらいいるの…?



ふ~ん 90ね…



1階フロアーにいる子達と合わせて…?



350ね… ふーん 随分と少なくなっちゃったのね…



まあ お外に行けばいっぱいいるからいっかぁ…



すると 理沙はメガホンの様に両手を口に添え大声を張り上げた。



理沙「ねえー 良い子な良い子なおこちゃま達~ みんな聞いてー」



理沙の発する声で徘徊する亡者達の呻き声、話し声がピタリと止み、歩行が一斉に停止された。



理沙「もうちょっとしたらみんなでお外に出るから、みんな1階の大きな広場へ集合~ いーい?うろうろしないで速やかに集まれだよ~ 分かったぁ~?」



一匹たりとも返事は無いが、女王の一声を受けた直後、一体が足早に廊下から非常階段を下り始めた。



そして、連なりゾンビ達がゾロゾロと移動しはじめる



貴方も下で待ってて… 理沙はちょっと行ってくる所があるから…



ううん… 理沙1人で行くから… 貴方はこの子達を見張ってて…



まだ言う事聞けないやんちゃな子もいるから…



そうゆう子は見つけたら、器から抜いちゃっていいから よろしくね…



理沙は特異者へ薄ら笑いを浮かべた。



理沙「さっきの子達が意識線をプッツリ切られちゃったみたい… ヒューマンなんかにまた殺されちゃったんだよ…」



理沙を見詰める特異感染者…



テレパシーに似た目に見えぬ意識下から発する粒子



その粒子が意識線を伝い…それが言葉の意味として、情報として変換され、コミュニケーションとして伝達されて行く



そのテレパシー的なやり取りが鮮明となった。



やはり… 私もお供致します… 貴女様から離れるのはとても心配でありますので…



ううん… 駄目… 理沙1人で行くって決めたんだから… あんな脆弱な人間なんかに理沙の大事な大事な子が3匹も殺されちゃったんだから… どんな奴の仕業なのかこの目で確かめなくちゃ…



理沙は突如として特異感染者へ拳銃を取り出し、見せた。



それは健太から奪ったあのニューナンブ



それが理沙の右手に握られ



それから左手には掌いっぱいに弾薬が乗せてあった。



ヒューマンには理沙達を殺せるこんな武器があるんだよ… ちょびっとだけこれには脅威を感じてるんだ…これには興味もあるし…



ちょっと使ってみようかなと思ってるんだ…



予想より少し早いですが2体程…

変態が始まりました…



うん… 分かってる…



一早く外に出て連鎖反応の拡大をさせたいと願っております…



呼び寄せはその為の集結なのですから…ですが…もし…貴女様に万が一何かあっては…統率する貴女様がいなければ全てが無意味となってしまいます…



ですからどうぞ片暇も無く私をお側にお付け頂けないでしょうか…?



分かってるよ… でも…それ理沙があんな弱っちい生き物にやられちゃうって言いたいの…?



いえ…そんな滅相もございません…



ふ~ん…まぁいいや…折角使いに出してもことごとく殺されちゃってるし…とりあえず理沙は1人の方がいいの…だからもう貴方は下で待ってなさい… いいわね?



ハッ… ご指示を受けるがままに…



いい子ね…



理沙「さてと エレナ~ この理沙が直々に会いに行くわよ~ 貴女のその美味しそうなお肉に会いにいくから…」



理沙の黒目が猫目のように細く変化



理沙「理沙がぜーんぶ食べてあげるから…」



それが今度は分離し、黒目が2つになって動き回り再び融合して元通りな瞳へ戻った。



「待っててね!」



ついに… 女王理沙が動き出す



ーーーーーーーーーーーーーーーー



4階非常階段



脱出を図ろうとする芹沢にある事実が突き付けられていた。



駐車場、警備室、その他ありとあらゆる出口を調べたが、その前に群がる奴等の姿



各所に散らばる奴等の影、声などが多数確認された。



このビルは既に奴等に取り囲まれている…



この鍵で外に出れる…



だけど…この状況では脱出出来ない…



そんな事実が突きつけられていた。



今や新宿中の奴等が高層ビルを取り囲み、あらゆる入口に群がっていた。



例え化粧室のこの小窓から出れたとしても…



いくら…この鋼糸と言う強力な特殊武器を使用したとしても…



そこら中に散点してる奴等が攅叢している



1人で外へ逃げたとて、隘路地帯と化した多勢に無勢なこの状況…



奴等を1体、1体芟除(さんじょ)するにはあまりにも数が多すぎる…



亡者の群れを突破するのは難しく



一個体ではもはやどうにもならない現状に陥っていた。



すなわち… このビルから徒歩による脱出が不可能に陥っているのだ



脱出断念を余儀無くされた芹沢が焦り顔で考え込みながら階段を上がっていると



上階から突然万斛の奴等の声が響き渡ってきた。



芹沢はすぐに4階フロアーへと滑り込み、扉を閉めると聞き耳を立てた。



なんだ…?



非常階段を続々降下、4階を通過して行く奴等の喚きと足音



惨慄を覚える程の行進の長さに芹沢はドア越しから戸惑いを見せた。



火事から逃れて来た群れ…?



こいつら何処へ移動している…?



ゾンビや感染者達の通過が5分以上続いた。



遠退く声、跫音



それから静けさが戻り、芹沢が扉を開き再び階段を上がり始めた。



どうする…?



こんな所にいたら俺まで…焼け死ぬオチに…



そんな脱出法を試行錯誤する中



芹沢が9階へ辿り着いた時だ



再び1つの跫音が芹沢の耳へ舞い込んで来た。



考え込む芹沢が不意に上を見上げた時



そこに存在する1人の女



目にした瞬間、芹沢の目が飛び出さんばかりに見開いた。



見覚えがある奴… 美しくも禍々しいその姿…



健太を攫ったあの女…



人間なら出会えば誰しも勝手に防衛本能が発動し警告音が鳴るであろう危険人物



そこに理沙が居たのだ。



芹沢が理沙と対面した瞬間



同様に身体中その警告音が鳴り響いた。



すぐに逃げろと…



咄嗟に扉を開き、芹沢が9階フロアーへと逃げ込んだ。



廊下を逃走する芹沢



そして扉が完全に閉まろう寸前



ドアが蹴破られ、その固く、重いドアが芹沢の真横を飛んでいき、通り過ぎていった。



芹沢が仰天しながら後ろを振り返ると



真後ろには既に理沙が立っていた。



ニコニコした表情を浮かべた理沙がウインク



理沙「ハァ~イィ~ 貴方見た事ある~ なぜ逃げようとしているの?」



芹沢が険しい表情へ変わる。



理沙「フフ なんか知らないけど逃がさないよ~ ここで理沙によって…」



「殺されちゃえ~」



突然に始まる戦闘…



動き出した理沙と芹沢が激突する。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る