第78話 異変
40階非常階段
タイムリミット約6時間30分
フロアー内を見渡す矢口
煙りも薄い、それに日の光も差し込んでいる
これなら視界も何とかなる…
火も所々燃えあがっているが大丈夫…
これぐらいなら行ける…
ただ…
見渡す矢口が1つ気になるのは壁、天井、床の表面が全て燃え尽き、剥き出しになるコンクリートに無数の大きな亀裂が生じている事だった
崩落の危険性は否めない…
声に反応し、びくつく高林がショットガンを上階へと向けた。
「領収書は落ちませんよ…」「ううぅぅぅ」
「え~ 家内があれでこれなもんで~」
引きつる高林「やばい もう近いっすよ」
ARを手すりから下へ向ける金子
金子「…」
奴等が今何階付近にいるのかさえも分からない…
声のみが急速に近づいてきた。
高林「このタイミングで挟み撃ちってこいつら…まさかこれを狙ってるとか… まさか…俺等に気づいてるなんて事は…? もしそうなら…」
金子「どうだろう… でも変異かサイレンサーならありえなくもない 矢口さんは?」
高林「今 中を調べてます。」
「ううぅぅぅ」
上下共に着実に近づく亡者の声音
「君の足に絡みつくのは何劣等感それとも不調和…」
感染者がゆずの虹を大声で熱唱するや
合図と言わんばかりに、突然上下同時に足並みを揃え、足音が駆け足へと変わった。
迫り来る足音に2人は言葉を失う…
奴等が襲いかかって来る…
すると 扉が開かれ中から矢口が2人を手招きした。
矢口「2人共 早く中へ」
「特別な事ではー ないさぁ~ それぞれ悲しみを抱えてんだよぉ…」
金子「来た」
2人は取り乱し、中へ逃げ込もうとした時
高林が散弾の入ったバッグを手すりに引っ掛け、ショットシェルを床にぶちまけてしまった。
周囲に装弾が散りばめられる
高林「まじか チッ」
慌てて拾う高林…
すぐ近くまで奴等が迫っている。
「領収書…領収書…落とせますん…」
「誰ぇ~の~せいでもぉー ないさぁ~ 人は皆鏡みぃーだからぁー」
金子「高林くん!」
矢口「もういい そんなのはいいから早く入って」
高林「あわわわ」
フロアーに入った金子「おい 奴等はもうすぐそこだ 早く早く早く!早く入れ」
手探りで何とかかき集めるが途中で拾うのを断念した高林
矢口「もういいって言ってるだろ 早くしてくれ」
高林が素早く中へと飛び入った。
その入った途端、高林はつまづかせ転倒
そして矢口がすかさず扉を閉めようとした その時だ
閉まる直前、皮膚の焼けただれた1本の腕が隙間から飛び込み
閉扉を拒んだ
それから間髪入れず数本もの腕が伸び、瞬く間に無数の腕が入り込んできた。
金子が隙間から飛び出す無数の腕を目にするや咄嗟に扉を押した。
矢口「クソ…入られる…」
矢口と金子の2人がかりで必死に扉を閉めようとするが…
多勢の奴等が侵入しようとしている為…
凄い力…
扉が閉まらない…
このままでは…
力を抜けばあっと言う間に開扉されてしまう勢いだ
クソ…
床へ尻もちを付けた高林が目にすると、隙間から10本もの不気味な腕が伸び、蠢き、侵入しようともがいている。
焼けただれた醜悪な腕達、その1本の手が矢口の肩を掴んできた。
「越ぇ~てぇー 越ぇーて~ 越えーてぇ~…」
隙間からまるで3人に聞かせる様な歌声を発する感染者の口元が覗かせる
必死な形相で扉を押す金子が高林へ
金子「ぐっ… くっ ばやし君… ショットガンで撃て!」
ハッ とさせた高林がベネリを掴み、立ち上がるや隙間へと近寄り散弾銃を向けた。
隙間の奥には血肉に飢えた真のカニバリズムの狂者達
その狂者達と目が合う高林の全身に悪寒と虫唾が走った。
ガシィ 高林は小便を漏らしそうな恐怖の中、イタリア製のショットガン
ベネリM3スーパー90ショットガン下部に位置する先台をスライドアクション、すぐさま引き金を引いた。
ポォン
だが 引かれた銃口からは空砲音のみが空しく鳴り響き、実弾は発射されない…
高林「あれ?…あ…」
金子「ど…どうした?」
慌てた様子の高林「すいません…まだ弾込めて無かったっす…」
「ううううぅ」「専務の愛人綺麗だな…だなだな…ナハナハ」
肩を引っ張られる矢口「おぃ ふざけてないで早く入れて 凄いパワーなんだから…」
金子「ばやしくん ならばスラッグ(一粒の弾)じゃなくフレシェット(鉛弾+小さなダーツの様な矢)を詰めろ」
高林「え?フレ… どれがどれ?」
金子「カートリッジにF12ゲージって表記されてる」
高林「え?12…?どっちも12って書いてありますけど…」
矢口「早く ならどっちでもいい とにかく早く もう保たない…」
2~3センチ程、扉が押され、開かれる。
高林「あった これか」
高林は1発のシェルを急いで装弾口に入れ先台をスライド
シュコン 装填音が鳴り、ちゃんと込められたショットシェル
「届けぇ~ 届けぇー 届けぇー…」
゜
高林が隙間から伸ばされる爛れた無数の汚い手に向け銃を構え
熱唱する感染者の口パクに銃口を向けた。
高林「ッキショー 上手に歌いやがって ゾンビのクセにサビで裏声とか使ってんなぁ~」
ドンッ ショットガンが発砲された。
たちまち発射された実包から20個もの小さな鉛弾と3個の子矢弾が隙間から飛散され、伸びた無数の手にいくつもの穴が開くと同時に歌う感染者の眼下や口に子矢弾が貫いた。
拡散した広範囲の散粒弾が伸びた手はおろか、隙間に群れる食人鬼共を一辺に蹴散らし、後方へと吹き飛ばした。
その隙に矢口と金子が勢いよく扉を閉め
バタン グチャ!っといった音を立て扉が閉められた。
矢口はすぐに扉の鍵を掛け、肩を掴む切断されし腕を床へと投げ捨てる。
矢口「ハァ ハァ」
扉の先から再び群れる奴等のドアを叩く音やうめき声、意味不明な声が集まっていた。
矢口は若干息を荒げながらその場にしゃがみ込み2人に視線を送った。
矢口「今のはやばかった… 2人共大丈夫?」
金子も無言で頷き、荒れた呼吸を整える
高林も頷き、座り込んでショットガンにシェルを急いで装填し始めた。
金子「このフロアーに奴等は?」
矢口「えぇ… 幸いにも大丈夫そうです」
だが…
バタン
まだまだ安全と決めつけるには早計な様だ
遠方の扉の閉まる音と共にいくつもの足音がフロアーへと入ってきた。
高林「え? まじ… 冗談でしょ?」
顔が強張る3人は廊下の先へ視線を送った。
「挙式はワイハでやるのよ いいでしょ~ ゲヘヘヘへ」
「うぅううぅう」
矢口「ドアを開けて入ってきたのかよ…」
恐怖はまだ続く…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
5階非常階段
芹沢vs特異感染者2体
芹沢「くく さて… こうなったらどうするよ?」
両手首が床へと落ちた。
ツナギ服姿の特異感染者
その特異感染者の全身には何重にも糸が巻き付き、今や身動き1つ取れずにぐるぐるに絡みついていた。
更に もう1本の糸が球体から放出され、全身に絡みつく
もうかれこれ、20本もの鋼糸が特異感染者へと巻き付き、上下左右至る所へ巻き付いた身体は完璧に動きを封じ込められていた。
芹沢は見上げると、ジッと見下ろすもう1体の特異者へ笑いながら口にした。
芹沢「ハァハハハ なぁおまえ 糸出せんの1本だけだと思っちゃったぁ? テレパシーかなんかでおまえが指示出してんだろ? 当たりか?
まぁどうでもいいけどね」
すぐ真上の踊場からジッと見下ろすもう1体の特異感染者
芹沢「ププ でも残念だったねぇー こいつはご覧の通り指示通りには動けねぇーし 所詮はおまえ等なんか…こいつの前ではクモの巣に捕らわれた蛾なんだよ ハァッハ~~」
ジッと見下ろす特異者と視線を合わせながら
芹沢「相棒がバラバラになる様を御観覧あれ… では 行くぜ…」
「バラッバラショータイム!」
球体がゆすられるや、一瞬にして特異感染者の全身が小間切れにされた。
ボタボタと音をたて、細かく裁断された肉片が床に転がった。
芹沢「ひょー ブラボー いいねぇ!やっぱ角切りサイズは 80等分はいったかぁ!?」
芹沢は再度、特異者を見上げた。
芹沢「まさかゾンビの分際でブルッて、ウンコ漏らしたとかないよな?… 次はおまえだよ 更に細かくバラしてあげるから来なさい カマーン」
今までジッとしていた特異者が急に手すりに両手をつくと、次第に身体が小刻みに震え始めた。
なんだ…?
特異者の突然の異変に芹沢から急激に笑みが消える。
一体なんだ…?
激しく身体が揺れる特異感染者
「ガガガガガガガァァァー」
悶絶に似た苦痛の表情…
そして、絶叫
特異感染者の身に異変…
これから芹沢の瞳に映る物とは…?
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