第73話 限点

同時刻



中央自動車道 上空



地上より60メートル上空を飛行中の哨戒ヘリコプター シーホーク



日の丸が記されたスライド式ドアが全開に開かれ1人のZACT隊員が髪や服を強風になびかせながら高速道でカーチェイスする4台の車両を見下ろした。



ZACT隊員「あれだな…」



世の中から渋滞は無くなり、違反など気にする事無く猛スピードで走行する車両



別にストレス解消で飛ばしてる訳でもなければ警察に追われてる訳でも無い、ましてやイニシャルDをしてる訳でも無ければ、友人の結婚式に遅れそうで急いでる訳でも無い



信じ難いが4台の内後ろ3台は感染者が運転してる…



隊員の1人が電動ドリルを使って固定台を設置し、その固定台にMINIMIを取り付けている。



またもう1人は弾丸が装着されたベルトリンク(弾帯)をMINIMIの給弾口へと装填している



隊員が弾帯に紛れるある灰色のカラーテープが貼られた2つのマガジンを発見、それを手に取って尋ねた。



ZACT隊員「なぁ この弾倉はなんだ?」



ZACT隊員2「灰色のテープ?…あぁ そのカラーコードは…5.56用の特殊弾だ NATO規格のC型爆裂徹甲弾だろ」



ZACT隊員「爆裂徹甲弾?」



ZACT隊員2「ってゆうか なんでそんな物がここに? 搬入の際に手違いで紛れたか…」



操縦士「おい まだか?3キロきったぞ 早くしろ」



ZACT隊員「よし!オッケー」



2人の隊員は落下防止用のベルトを腰に装着



ZACT隊員2「リンク装填完了 こちらもオーケー ベルト固定もオーケーだ」



操縦士「よーし たっぷりかましたれ 行くぞ 戦闘開始だ」



操縦士が頭上のスイッチや計器のスイッチを押し、コントロールスティックレバーを操作



急激にシーホークの機体が傾き、そのまま斜めに急降下で滑空させた。



仁王立ちで銃座に付くガンナーの隊員がMINIMI(軽機関銃)にしがみ付き、もう1人も、落下せぬようしがみつく



そして機体は斜めに降下しながら、先頭を走行するツーリングワゴン車に接近



地上から5メートルまで下りた機体を水平に戻し、シーホークはワゴン車と並走させた。



っと同時に左手で銃身上部を抱え込むように抑え、軽機関銃の銃口向けるやぶっ放した。



タタ タタタタタタタタタ



ベルトリンクが内部に吸い込まれ撃つ度に先端バレルから飛び散る火花、薬莢を吐き出し、弾丸が放たれた。



パリーン



瞬く間に車の窓ガラスは割れ、ドアにも銃穴が開く



そして車内の感染者右肩から腕にかけ被弾するのだが、速度を落とす事なく、手応えさえもまるで無い…



撃たれても平然としている



やはり頭部を破壊するしかないのか…



だが…この高さと角度だと丁度首から上が屋根に隠れていて狙えない…



ガンナー「おい もうちょっと機体を下げろ」



パイロットは頷くと、周りや計器を確認しながら慎重にレバーを操作した。



ゆっくりと機体が下がり



ガンナーの目に首が映り、顎が映り、口、鼻、目が見えてきた。



その途端 ガンナーはゾッとさせた…



なぜなら運転する感染者がずっとこちらを見ながら不気味な笑みを浮かべているのだ



前も見ず こっちをガン見で笑っている…



なんだこいつ…?気持ちわりぃー



顔面に狙いを定め、MINIMIから再び火が吹かれた。



タタタタタタタタタ



助手席の窓ガラスが粉々に粉砕



顔面から頭部にかけて無数の弾を浴び、車内に鮮血と肉片が飛び散った。



ほぼ顔面を損傷した感染者が助手席に倒れ込むと、握られたハンドルが反時計に回され、コントロールを失った車が110キロのスピードで側壁へと接触、回転しながら跳ね返った。



そして後続の4トントラックにクラッシュ、再度跳ね飛ばされ、再度側壁へ激突



爆発炎上させた。



よし まずは1匹…



マルヒトに1発の炸薬榴弾を装填するZACT隊員がガッツポーズ、操縦士も拳を握った。



操縦士は高度や速度を調整しながら4トントラックに機体を横付けた。



すると 4トントラックが急ハンドルで幅寄せ、いきなり衝突を狙ってきた。



だが 操縦士はよく見ていた。



すぐに機体を急浮上させ、斜め移動、それを回避する



ZACT隊員「まじかよ?今見たか 体当たりでぶつけようとしたぞ…」



操縦士「残り2キロ… もたもたしてるとデッドラインに入る」



ガンナー「よし そいつを使え」



先程より10メートル程離れた距離で並行させたヘリ



操縦士も4トントラックへ視線を向け、高度、速度を合わせた。



操縦士「早い所 キメろ」



隊員がマルヒトを肩に担ぎ構えた。



ガンナー「1発しか無いんだ 必ず仕留めろ」



ZACT隊員「あぁ かます 行くぞ?」



ガンナーが頷き



隊員「よーい…」



その時だ!



4トントラックにばかり気を取られていた操縦士が前方を向くや、目の前には鉄塔



操縦士が慌てて、レバーを操作しヘリを急浮上させた。



ZACT隊員「…しゃ~~」



マルヒトの発射ボタンが押されたと同時に機体が上がる



筒後部から煙りを吐き出し、ガンナー、隊員が急激な上昇にバランスを崩すと



発射されたロケット弾が煙りの尾を描き、天空へと消えて行った。



外した…



ガンナー「急に上げやがって 何やってんだ?」



操縦士「前方に障害物が…」



隊員「やばいぞ 外しちまった… このままじゃ到達される…」



ガンナー「スコープってあったか?」



隊員「あぁ ある」



ガンナー「すぐに装着しろ この位置から俺がスナイピングする」



その時だ



隊員「おい あれ見ろ…」



隊員が指差す先に…



4トントラックの窓ガラスに分厚そうな鉄板が置かれた。



明らかに銃撃からの防御…



隊員「嘘だろ… 下等な化け物の筈じゃねえのかよ… あんな事出来るなら人間と変わらねぇーぞ」



ガンナー「残り距離は?」



操縦士「1キロ切った… もうデッドラインに突入する 作戦は失敗だ コマンドポストに退避のコールを出す」



ガンナー「待て まだだ」



操縦士「間に合うかよ もう1台後ろにもいるのを忘れんな」



ガンナー「まだだ」



隊員「どうするつもりだよ?」



ガンナー「タイヤを撃って速度を落とす したらすぐにリンクを外せ」



ガンナーがMINIMIを構え、すかさずタイヤ目掛け連射した。



タタタタタタタタタタタタタタタタタタ



排莢された無数の空弾ケースがヘリから落ち、地面に金属の落下音が鳴る。



そして銃撃の集中砲火で、右方前輪のダブルタイヤが弾け、パンクした。



続いて後輪のダブルタイヤも銃弾を受け、車体が斜めに傾くやみるみる速度が落ち始めた。



隊員「失速したぞ」



ガンナー「よし すぐにリンクを外せ」



ZACT隊員が速やかに弾帯を取り外した。



そしてガンナーがある物を手にした。



それは灰色のテープが貼られたマガジン



ガシャン



ガンナーはそれを手に取りMINIMIへと装填させた。



戦車の硬い装甲を貫く為の破甲弾



そして爆発しながら貫く特殊弾



5.56mmの爆裂徹甲NATO弾だ



あんな鉄板ごとき…



ガンナーはありったけの弾を撃ち込んだ



ドドドドドドドドドド



無数の煙りの線が描かれ、鉄板目掛け飛んで行く銃弾は軽々とそれを貫いた。



そして車内に連続的小爆発が起こった。



窓ガラスから鉄板などすぐにはじかれ、感染者の頭部は原型なく粉々にはじけ飛んでいる。



いや 頭部どころでなく腹部から上は徹甲弾の威力で粉々に粉砕



跡形も無く損失していた。



しかし トラックは止まらない…



アクセルが踏まれたまま死した体



操縦士「バリケードが目前だ クソ 後180メートル ぶつかる」



追いかけられていた車両は防壁に到着、バリケードの壁から隊員等によって救出される



スピードが落ちる4トントラックを後方のフリード車が追い越し始めた。



隊員「あいつ追い越しかけてやがる… もう駄目だ… 終わった…」



ガンナー「まだだ」



ガンナーは弾倉を抜き、新たな灰色のテープの貼られたマガジンを装填



次いで固定台からMINIMIを外すや



スコープ越しから狙いを定めた。



何かを狙撃しようとしている…



追い抜くフリード車が4トントラックとある場所が重なるその位置を…



スナイプするつもりだ



片目を瞑り狙いを定めると追い抜くフリード車が4トントラックとある場所が重なった。



ガンナーが狙う場所



それはほぼ同じ高さに位置する2つガソリンタンクだ



そしてポイントを重ねた一度しかないチャンスを



燃えろ



トリガーが引かれ、1発の爆裂徹甲弾がMINIMIから放たれた。



1発の徹甲弾がフリード車のタンクを軽々貫通、と同時に爆発を起こしタンクから漏れるガソリンに引火させた。



同時に徹甲弾はフリード車を貫通し、4トントラックのガソリンタンクをも貫いた。



その穴からガソリンが溢れ、すぐ横で炎上した車両から飛び火



4トントラックも引火し大爆発を起こした。



ボン ボォォォン



2個の小さなキノコ雲があがり、爆発炎上する2台



車体は燃えながら惰性で走行、側壁へとぶつかり停車された。



ガンナー、操縦士、隊員は旋回するヘリから炎上する2台を見詰める



隊員「やったのか?」



ガンナー「あぁ うまくいったようだ」



操縦士「ギリギリだな」



そう… バリケードまでの距離およそ20メートル



バリケード破壊は見事に阻止された。



バタバタバタバタ



操縦士「こちらマルマルヒトヒトよりコマンドポストへ 敵の全車両破壊確認 阻止は無事成功 繰り返す阻止は成功」




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