第71話 降下

超高層ビル 屋上



空中停止するヘリから垂れ下がるロープ



軍用の輸送機から矢口、高林と続きロープを伝って降下していく



既に降下を終え、ハーネスが取り外されたロープが上昇すると共に、金子が89式小銃を周囲に向け、警戒した。



チヌークの操縦士が2人の降下を見守る中



あらゆる通信が飛び交う無線機に、ある無線のやり取りが操縦士の耳に飛び込んで来た。



「ザァァ こちらSHマルマルヒトヒトよりコマンドポストへ 中央自動車道相模湖パーキングエリアより300メートル手前にて走行中の一般車両を発見しました ザァ」



「ザァー 0011 コマンドポスト了解 到着したらこちらで救出、保護する ザァァァー 引き続き哨戒にあたれ ザァ」



「ザァーー マルマルヒトヒトよりコマンドポスト 大変です パーキングエリア建物内よりウォーカー及びランナーと思わしき大多数の群勢出現 うようよ奴等が外に出て来てます 数は…200いや300… およそ300体以上と思われます 通過した車両を追いかけ進行 現在下り道を小仏トンネルに向かっての進行を確認しました ザァァ」



「ザザァ 0011 コマンドポスト了解 現在こちらのバリケードは8割方設営を完了している 防壁は間に合う ザァー」



「ザァァ マルマルヒトヒト了… コマンドポスト コマンドポスト 信じられん… 緊急事態発生です ザザァ」



「ザザザ 0011 どうした? ザ」



「ザザァ ありえない… ランナーの1体が乗用車に乗り込み…車を動かしました ザザァ」



「ザザァ 何?車を動かした? ザァ」



「ザァ そうです… あ また2体が車に乗り込んだ 一体どうなってる… またです… 感染者が4トントラックに乗り込み…動き出しました。 クソ もう一台も走り出した…ザァ」



「ザザァ 0011 落ち着け 冷静に報告しろ こっちへ向かってるんだな? ザァー」



「ザァ そうです 一般車を追いかけ4トントラックを含む計3台の車両がそっち方面に向かって走行してます 距離およそ5キロ 感染者の乗車した車両が向かってます ザザァ」



「ザザァ コマンドポスト了解 4トントラックが突っ込んで来るのか…? そんなのに突っ込まれればバリケードが破壊されてしまう… 周囲に飛行するガンシップ(戦闘ヘリ)も無ければ… こちらは今…一般人の設営隊のみで…武器はあるが弾薬がまだ運ばれていない… 0011の現兵装を教えろ ザァ」



「ザァ 軽機関銃1挺とマルヒト(01式対戦車用誘導弾)があります。… ですが炸薬弾は1発分しかありません ザザァ」



「ザザァ 恐らくそいつらは変異体感染者だ 東本部の指示を仰いでる時間がない こちらで許可する ただちに対処しろ MINIMIとマルヒトで攻撃するんだ ザザ」



操縦士「おいおい まじかよ……俺等も早く合流しねぇと あいつら急げ、急げ…」



流れてきた会話に焦り顔で降下を見届けるパイロット



「ザァ SHマルマルヒトヒト了解 本機はこれより偵察を変更、ただちに攻撃態勢に入る 目標レガシィツーリングワゴン車、フリード車、4トンロングワイド車の計3台 空撃する ザザァ」



SH60シーホーク0011番機が攻撃に入る情報が機内に流れる



10メートルの高さを矢口と高林がバランス、落下速度をザイルで上手く保ちながらスムーズに降下、その様子見下ろす中川二等陸士が口を開いた。



中川「あの2人なかなか上手いな ホントに素人なのか? 一度説明しただけで出来るなんて筋がいい もしかすると現防大生のお前なんかより全然上手いんじゃないか?」



安藤「…」



矢口が地に付きハーネスとロープを外すや、ヘリに向かい親指を立てた。



次いで高林も無事着地、ロープが外され、合図の後、2本のロープが上昇する。



それを見ていた堀口陸士長が3人に向けて親指を立てると操縦士へ



堀口陸士長「ラペリング成功しました 行って下さい」



操縦士「了解 それより陸士長 たったいま無線に大変な事態が…」



そして、空中停止する2機の機体が動き出し屋上から遠ざかって行く



遠ざかるヘリを背に3人の男達が屋上へ降り立ち、足早に扉へと近づいた。



無残に放置された死体、首の取れたよしたかの死体を通り過ぎ3人は扉の前へ立った。



金子巡査と高林がそれぞれ銃を構え、矢口が扉を背にドアノブを掴み、目で合図、勢い良く開いた。



扉の先に人型の怪異はいない、ただしいかにも毒素の高そうな濃い黒煙がかわりに吐き出されて来た。



高林「うぉ ゴホ」



充満していた煙りが外界に出て天に向かって流れだす



金子はヘルメットを外し、ガスマスクを装着



金子「有毒ガスだ 2人共早くこれを装着を 吸い込めばすぐに一酸化中毒を起こしあの世行きになる」



矢口と高林もガスマスクを装着、3人はモクモクけむるビル内部へと侵入して行った。



89式の銃身上部に取り付くドットサイト、下部にはライトが取り付けられ、金子はそのライトを点灯させた。



だが黒煙な霧状態な中、ライトの効果むなしく光はほとんど届かない



ライトが遮られ、視界の悪い中 ゆっくり前進すると高林が何かに足を引っ掛けた。



同時に金子や矢口も何やら踏みつけ、足をとられる 



なんだ?



踏みつける感触は肉塊…



一同視界不可の中、89式のライトを照らし、目を凝らすと…



それは人の死体…



気づけば辺り一面、感染者やゾンビの死体が無数に転がっていた。



矢口「みんな死体だ…」



金子「えぇ しかも奴等の…」



高林「見て下さい」



高林がしゃがみこみ、感染者の額に指を差した。



高林「おでこに被弾の痕です。これも、これもですね 全部誰かが射殺したって事ですかね」



金子もしゃがみ込み、被弾の痕を親指で触れた。



確かに銃痕…



そして床に落ちていた薬莢を発見、それを拾い上げた。



金子「これ… サンパチ(38スペシャル弾)の弾だ… 警察が使用するリボルバーの弾だよ」



高林「ここで銃撃があったって事ですね」



金子「あぁ 間違いない 誰かがこいつらを撃ち殺したんだ… でもこれ全部をか…? 矢口さん メンバーに元警察官は?」



矢口「いえ みんな一般人だったと思います」



これらは全てエレナが撃ち抜いた死体の数々…



金子「…」



3人は再び前進、アサルトライフル(AR)を身構える金子が先頭を歩き、矢口、高林と続いた。



奴等の気配やうめき声は一切無い



あるのは無数に横たわり連なる死体のみ



3人は狭い通路を抜け、広々とした空間に出た。



割れた窓ガラスから大量に煙が排出され幾分視界が良好となる空間



だいぶ見通しが良くなりここがレストランのホールだと知り得た3人



またここは激戦を思わせる先程の通路よりも沢山の屍が転がっていた。



どの死体も額を一発で決められ、撃ち抜かれている。



そして、金子が再度しゃがみ込み、散乱する薬莢を拾うと、これらも全てがサンパチ弾…



金子「ニューナンブ… お巡りさんが携帯する拳銃の名なんだが 正直粗悪なしろものだ」



高林「へぇ~」



金子「命中精度も悪く 手傷を負わせるか威嚇程度の拳銃だ これでちゃんと狙って当てるのは訓練した警察官でも難しい」



矢口「…」



金子「しかしこいつは全部額に命中させている… それが至近距離だったのか…? いや…薬莢の位置からして違う」



相当射術に長ける人物…



射撃のオリンピック選手か特殊部隊の軍人レベルの腕…



しかも… これだけの数が一斉に襲いかかる中、弾込めが間に合わない筈… さては複数いたのか… いや 恐らくは単独…



一体どんな人物なんだ…



金子はおもむろに立ち上がり、歩を進めた。



矢口や高林も死体の数々を見渡しながら金子に続く



高林「しかし凄い数の死体ですね…これビル内のゾンビ全部だったりして」



矢口「…」



ドアノブを握ったままうつ伏せで死んでいる女の感染者を見下ろす矢口はどんどん前に進んで行く金子にしっかりついて行った。



そして広間を抜け、店の門を抜け、エレベーター前にやってきた3人



火災発生によって、運転が停止したのか?故障か?



エレベーターが動かない



金子が何度もボタンを連打するが全く反応がなかった。



金子「火災は何階から発生したのか分かりますか?」



矢口「確か… 二十…なん階かだったと思います」



金子「救出者の居場所は?」



矢口「1階から3階の間ですね」



高林「ちょ… ちょっと待って下さいね… EVが使えないんですよね…? まさかそこの階段で歩いてって訳じゃ」



高林が非常階段を指差した。



金子「そうなるな… 災害時は自動で緊急停止される 無論復旧はない っとなれば徒歩で下りるしかないだろう」



高林「うっそ… だって…」



矢口が軽い準備運動をしながら「自らの足を使えって事だよ」



高林「ここって80階ですよね… まじすか…」



金子「火がどれだけ広がってるか分からない… もしかすると…」



高林「え?もしかすると何です?」



金子「崩落して道が塞がれてる可能性もある それを突破しなきゃならないかも知れないぞ」



高林「火災の中を…?」



金子「行ってみないと分からない…とりあえず行こう」



高林「う~わ~ マジ帰りたくなってきた」



目指すは最下階、みずからの足を使い3人は非常階段を下って行く



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