第60話 白兵

尻餅を付けたキラーが造次に懐から拳銃を取り出した。



そしてその拳銃を敏活な動作で純やへ向けた



その時の間に



純やが死体を跨ぎ、もう一歩踏み込んでいた。

 


左手一本で豪快に振るわれた金属バットがキラーの眼前に飛び込む。



音を鳴らせたバットが顔面に振るわれたが、キラーがそれを寸前で避け、空振った。



ブン!



だが純やは空振るバットを今度は拳銃を持つ手目掛け、力一杯に振り下ろした。



叩き潰すつもりの手加減無しな殺気漲る一打が右手を狙うがこれも外れた。



床に打ちつけられたバット



引っ込められたキラーの腕



キラーの手は粉砕出来なかったが…



金属バットは代わりに拳銃を捕まえていた。



キラー「やろ~」



キラーに眼くれながら純やはその拳銃を金属バットで弾いた。



仮眠室へと拳銃が滑っていく…



デス「テメェー等」



そして金属バットを放し右手でキャッチ、また放し左手でキャッチ、それを交互に繰り返しながら純やがおもむろに口を開いた。



純や「また会えたな お前等… いいかぁ? ここから生きて出られるなんて思うなよ… 覚悟しとけ!」



純や、江藤、葛藤vsキラー、デス



ベッド下にいる由美の耳に純やの声が聞こえてきた。



純やさん…



葛藤が江藤へ「おい 見ろよ…」



純やが跨ぐ仰向けの死体、目が開かれたまま額にナイフが突き刺さり横たわる制服姿の男



2人は羽月の死体に目を向けた。



扉を開けた瞬間、こいつら同様に認識した羽月の遺体…



足元には羽月の死体があるが純やは目を向ける事無くキラー、デスを睨みつけていた。



一足遅かった…



俺の足下には今 羽月さんの死体がある…



額にナイフが突き刺され、無惨にも朽ちた死体…



また1人仲間が…



だけどもう決めている… 



悲しむのは後回しだと



ここを無事脱出するまで…その感情だけは…



後回しだ



まずは…目の前にいるこいつらを…



ぶっ潰すのみだ



キラーが後ろへ転がりながら瞬時に起き上がり、2本のスローイングナイフを取り出した。



キラー「ひゃっはー 馬鹿共がぁ ノコノコ現れやがって お前等全員皆殺しだぜ お前等全員生きたままそのベロ引き抜いて、腹かっさばいて 内臓取り出して口の中に詰め込んでやっからよ」



すると 江藤が前に出てきた



江藤「あ~ 声デカい ペラペラとよくしゃべる口だね それよりもう1人女の子がここにいたでしょ? 何処やったの?」



もう1人… あのメガネがいない…



冷静に辺りを見渡し、江藤が問いかけた。



デス「あぁ どうやら逃げやがったらしぃーな もう1人が追っかけてるぜ まあ今頃とっ捕まって手足切り落とされながら犯されてるかもな ヒャハハァ~」



江藤「ふ~ん じゃあおまえは人質交換の材料に使わないとだな 半殺しにしてから…」



デス「あぁ? んだと テメェー」



その時だ



仮眠室から



由美「大丈夫です 私ならここです」



その場の全員が振り向くとベッドから這い出てきた由美の姿を目にした。



キラー「あぁ? ざけやがって!そんな所に隠れてやがったか…」



デス「クソがぁ… そいつフカしかぁ~」



葛藤「へ! ナイスだぜ 由美…」



純や、江藤がすぐに奴等に視線を戻しながら



純や「良かった…君だけでも無事で本当になによりだよ ホント…良かった」



由美は涙を流しながら口を開いた



由美「純やさん 羽月さんが… 羽月さんが私を庇って…そいつらに酷い目に遭って… 殺されてしまったんです… うぅぅ 私のせいで…私なんかの為に…」



純や「分かってる… 分かってるよ由美ちゃん でも…その涙は後回しだよ… それは全部無事にここを出れてからにしよう」



由美は涙を拭いながら「はい!」



葛藤が扉を閉めながら「由美 そのまま中にいろ すぐに鍵を掛けろ いいかぁ?俺等がいいって言うまでドアを開けるなよ」



由美「分かりました」



バタン  カチャ



そして、扉が閉められ、鍵が掛けられた。



葛藤「はぁは~ 残念だったなカス共 ご覧の通り高校生はピンピンしてるぜ」



そして後ろのドアも葛藤によって閉められ、鍵が掛けられた。



葛藤「これでもう1人の…あの眼鏡は入って来れない…俺等を全員殺さなきゃ外にも出れない」



そして鬼の形相に変わった葛藤



葛藤「ただヤキ入れるレベルじゃ済まさねぇぞ貴様等 ただ単に普通に死ねるなんて思うなよ 超たっぷりとお仕置きしてやるぜ」



ドアに鍵がかけられたと同時に



閉まる扉にもたれた芹沢の姿



芹沢「ふ~」



芹沢は目を閉じ、俯き、溜め息をつき歩き出した。



一方



ハサウェイとエレナは建設系オフィスに到着



中に踏み入れた。



ハサウェイ「はっ はっ は」



少々息を切らした2人が辺りを見渡すがそこに皆の姿は無かった。



エレナ「はっ はっ あれ?みんながいない…」



争った形跡も無い…



ハサウェイ「はっ は 良かった みんな迅速に移動してくれて隠れたんだよ」



エレナ「はっ そっか」



この階には建設業をはじめ製薬会社、クレジットカード会社、大手の出版社から大手車メーカーなどと様々な業種5社のオフィスが並んでいる。



ハサウェイ「はっ はっ とりあえず探そう」



エレナ「うん はっ はっ」



2人がすぐに廊下へ出ると



ハサウェイ「はっ はっ エレナはそこの車屋のオフィスを探して、俺はこっち側を探す」



出版社を指差しハサウェイが中へと入って行った。



エレナが頷き、車屋のオフィスに入るとまず最初に飛び込んできたのは、全ての窓に鉄格子の様な金属の足元シャッターが下ろされてる事だった。



徹底された牢獄とは聞いていたがこれを見てそれが頷けた。



オフィス内には散乱する書類やパンフレット、それと既に惨殺され放置された感染者やゾンビ等の死体があちこちに転がっていた。



エレナ「はっ は みんな~エレナだよ~」



呼びかけるが返事は無い



オフィス内は静まり返り、エレナの呼びかけに反応は無い



念の為会議室や小さな応接室などに足を踏み入れ何度か呼びかけるがやはり皆はいなかった



ここにはいないか…



エレナが足早に別のオフィスへ移ろうとしたその時



微かに何かが動くのに目を止めた



ソファーの後ろでゴソゴソし、うっすら影が動いている。



拳銃を構え、恐る恐る近づくと、頭部がキレイに斜めから斬られ血と脳みそがこぼれる感染者の死体、更に胴体が真っ二つに斬られ真っ赤な血が床に染み渡っている。



エレナがそっと顔を覗かせるとそこには切り離された下半身が動いていた。



倒れた下半身の右足が、ゆっくり屈伸運動を繰り返していた。



蟲に侵された身体…



生命力の強さなのか…?



この光景を見た瞬間 ふとエレナの頭に純やがあの時口にしたあの話しを思い出した。



一瞬だけ… 人に戻った…



純やがそう言っていた…



一瞬でも人に戻れる…



なら…感染者ってホントに死人なの…?



魂の抜けた器なのかな…?



そして、ある疑問が浮上した。



宿主の心臓を止め… 一旦殺すって聞いてたけど



本当は…殺されてなんかおらず ただ操られてるだけなんじゃないかな…



死んでないんじゃないかな…?



もしかしたらまだ生きてるのかも知れない…



その虫を頭から追い出せば… もし排除する事が出来れば…



もしかしたら…



その時ハサウェイの声が聞こえてきた。



ハサウェイ「エレナ~ エレナ」



ハッとさせたエレナは動く下半身を見ながら応接室を後にする。



何か助けられるいい方法があるかもしれない…



エレナが車メーカーのオフィスを出ると奥にある製薬会社の入り口前にハサウェイとスタイルの姿を目にした。



エレナが駆け寄りながら「わぁ~ スタイルさん って事はみんな無事なのね?」



スタイル「うん エレナちゃん みんな無事よ 急に言われたからびっくりしちゃった 早く移動しろって」



エレナ「でも良かった って事は?」



ハサウェイ「あぁ って事は警備室が危ない」



ハサウェイがスタイルへ「これから警備室に行って来る 申し訳ないけど音を立てないように もうちょっと我慢してここに隠れててくれ」



スタイル「うん わかったわ…でも二人とも気を付けてね」



ハサウェイ「あぁ」



エレナ「ありがと」



その時だ



突然非常扉の閉まる音が鳴った。



渋谷組か…?



何者かがフロアーに入ってきた…



ハサウェイが小声で「スタイルさん 早く中へ エレナ」



ハサウェイがアーチェリー弓を構える。



エレナも拳銃を構え、2人はゆっくりと前進した。



緊張が走る



そして、しばし前進すると角から1人の男が姿を現した。



渋谷組の奴じゃない…



こいつ…



一度目にした事のある奴だ



そいつは見覚えのあるあの時のあいつ…



どこぞのフロアーで死体を盾代わりにし、エレベーターに乗る寸前2人にその死体を投げつけて来た奴



あの時の特異感染者だ



ギョロついた目玉を不規則に動かし



見つけた… 例の女だ…



そして… こちらも戦闘が勃発する。

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