第44話 侵略
今から3ヶ月程前…
有名化粧品メーカーに務める本間理沙は地方の店舗から栄転、本日付けで新宿へとやってきた。
ここ最近、日本全国で毎日のように頻繁に取り立たされる無差別通り魔事件のニュースが流され
ここ数週間、連日のようにテレビで報道されていた
数人の警察官が暴れる人を取り押さえる映像…
そして… 警察官がカメラを止めるよう指示する映像
何度も使い回されるこの映像は最後にパァーンと乾いた音が鳴り響き終わる…
毎回通り魔事件の代表的な公共映像として、各局事件が取り上げられる度にこの映像が流されていた
YouTubeや他の動画サイトではその後の映像が多数投稿されており、数人の警察官が人気の無い場所に連れて行き、一斉に拳銃を抜くや射殺するといった映像が流されていた。
これ本物…?
作り物の演出だろ…
嘘臭ぇ~
作られた映像で何者かによるプロパガンダじゃないのか…?
でもマジ物っぽくねぇ~
こういった内容がSNSに書き込みされ、サイトを賑わし、大きく物議を醸していた。
それにしても何だか世の中がおかしい…
事件が多発しすぎてる
日本の治安が急激に悪化してる様に思えた。
それに不可解な事も…
理沙はまだ直接目にした事無いが周りの友人からチラホラおかしな話しを聞く
奇行に走るおかしな人の話しだ
Twitterやブログでもこの話題は頻繁にアップされ、普通の人が突然キチガイになって噛みつき出すとか出さないとか…
満員電車で発狂したおじさんがいきなり男子高校生の鼻を食いちぎってムシャムシャ食べだすとか…
ベビーカーに赤子を乗せ横断歩道を待つお母さんが突然!
「ちゃんおっきなブーブーがきたねぇー はい じゃあママと一緒に死にましょーね せぇーの」
トラックに飛び込みひき殺されたとか…
ネットの世界では最初ストレスによるおかしな奴等の増加から始まり精神疾患者の通り魔、宇宙から来た人の頭をおかしくする病原菌の仕業、今ではリアルゾンビと題目を変えながら噂や情報は拡大され、噂と比例して現実でもドーナツ状にそして驚異的スピードで事件は拡大していた。
通勤途中、自宅から駅までの間にもパトカーや救急車のサイレンが頻繁に鳴り響いていた。
地下鉄のホームでも遠くからざわめく声が聞こえ人集りを目にした。
何なの…?
最近やっぱしホントにおかしい…
理沙はそんな事を思いつつも、今日から本社に初出勤、都庁に程近い超高層ビルの前に立ち、緊張の面持ちでビルを見上げた。
本社は8階、9階の2フロアー全域をオフィスに構え、案内板を確認した理沙は正面ゲート前に立つ警備員におじぎしながら事前に手渡されていたIDをかざし、入館した。
エレベーターを待つ理沙の周りに続々と出勤人が集まり、扉が開くと同時に雪崩込み、すぐに満員状態
理沙が8階のボタンを押すと既に60階までまばらにボタンが点灯していた。
そしてドアが閉まる寸前に1人の中年男性が駆け込み、乗り込んできた。
若い女性がその駆け込んできた男性へ「課長 おはようございます」
「お あぁ… おはよう」
「課長 その手どうしたんですか?」
包帯の巻かれた手
「ん あぁ これか…実は今朝 家出た矢先に変な男に噛みつかれてな… 女房に手当して貰ってたら遅れてしまったよ」
女性「えぇー 噛みつきってまた… 第2物販部の冨永さんも変な男に肩噛まれたらしいですよ そういえば昨日休んでたな… 大丈夫かな…? 課長は大丈夫ですか? 最近物騒なニュースが多いんで気をつけて下さいよ」
「はっは この程度平気平気」
理沙はこの何気ない2人の会話を耳にした。
8階に到着、フロアーを歩くと 営業部、マーケティング部、商品開発部の先にある人事部へと足を運んで行く理沙
理沙「おはようございます 千葉の柏店からやってまいりました 本間です よろしくお願いします」
するとデスクに座るポロシャツ姿の中年男性が理沙に近寄ってきた
「あ はい おはようございます え~と…柏店…」
理沙「はい 本日づけでこちらでお世話になります 本間です」
そして書類をみながら「え~ 本間理沙さん あ はいはい 宣伝部配属ですね?」
理沙「はい そうです よろしくお願いします」
理沙はふと目の前の男の手の甲に噛まれたであろう傷口を目にした。
真新しい噛み痕
「宣伝部は9階ですね ちょっと待って下さい 今 担当の者を呼びますんで」
理沙が会釈すると男性が内線電話をかけた
「あー もしもし おはようございます 人事の根元ですけど部長いますか?…………うん……………え?……はい ……大丈夫なの?…… はい 了解 分かりました 今日そっちに配属される本間理沙さんがお見えになったんだけど 了解了解 じゃあこちらでお連れしますね」
内線を切った男が理沙へ
「すいませんね なんか担当の部長さんが今朝傷害事件に巻き込まれたらしく病院に運ばれたようなんだ。代わりに私が宣伝部までご案内しますから さぁ行きましょう」
理沙「あっ あ はい…」
すると1人の女性が出勤してきた
「おはようございます ね~ 根元さぁーんちょっと聞いて下さいよ~ 歩いてたらランドセル背負った小学生にいきまり内腿噛まれたんですけど… やだぁー もうストッキングは破けるてるし、血も出てるぅー あぁー 何あのガキ ムカつく~」
根元「俺も昨日の夜飲んだ帰り道に変な酔っ払いに絡まれて急にガブッ!だぞ」
根元が噛まれた痕を女性へかざした。
「うわぁ~ いたそぉー」
根元が理沙へ振り向き「じゃあ本間さん行きましょうか」
そして2人は宣伝部へ向かい歩き出した
ガチャ
非常階段のドアが開かれ、階段を下るさなか
根元が突然頭に違和感を感じさすりはじめた「ん? なんだ?」
理沙「…」
根元が書類に目を通しながら「本間さん お住まいは柏か… 柏からのご出勤ですか? ん…?なんだこれ…?」
根元は再び頭をさすり軽く叩いた。
理沙「はい そうです 実家なんです」
根元「ほぉ~ 通勤ちょっと大変ですね… ん?あれ…」
理沙「大丈夫です」
9階の扉が開き、会議室1、会議室2、経理部、を通り宣伝部に到着した2人
宣伝部のガラスドアが開かれ、中に入ると眼鏡を掛けた1人の女性に出迎えられた。
根元「おはよ~」
「あ 根元さん すいません」
理沙は眼鏡の女性に会釈し、その場にいる5~6人の社員等に挨拶した。
理沙「今日からお世話になります 本間理沙です どうぞ宜しくお願い致します」
眼鏡の女性「宜しくお願いします 待ってましたよ 現場ではなかなかのやり手だったそうじゃない 常務のお目に叶って 引っ張られた期待の人材だって噂よ」
理沙「いえいえ そんな事は… 精一杯頑張りますので いろいろとご指導お願いします」
根元「部長さんは大丈夫か?」
「今日は休むみたいです」
そして眼鏡の女性が理沙へ
「担当の部長はご家族から連絡あって急遽欠勤なので本日は代わりに私が指示しますね… そうねぇ…えっーと本間さんのデスクは… じゃあこちらで」
30畳程の広々とした空間に挨拶を終えた理沙が小綺麗に配置されたデスクに通され、おもむろに座ろうとした時だ
根元が突然壁にもたれながら意味不明な言葉を叫び始めた「皆さん こんばんわ… おはようございます…焼酎はやはりロックかな… これから東京ドームへナイターを見に行こう 焼酎はやっぱり水割りだよね あっ みなさんこんにちわ 焼酎はストレートに限るよね」
「え?」
理沙、眼鏡の女性、その場にいる社員等全員が突然の叫び声に驚きを見せた。
根元は頭を抱え、髪をかきむしりながら更に大声を張り上げ口にした。
「母さん いい湯加減だな、おい!なんだおまえらは?勝手に指示するんじゃない… え? 人肉は美味い?ゴルフの打ちっ放し、最近健康趣向で炭酸飲料もしくわドライブ中にビール、ルービーの指輪あぁ~ あ~川の流れのよぉ~にぃ~ あ!ははっ あ 焼酎は?焼酎? はふぅ…ははははは ふぅー」
眼鏡の女性が根元へ近づき肩を揺すりながら「根元さん 根元さん 何を言ってるんですか?しっかりして下さい 大丈夫ですか? 何… 急にどうしたの…」
根元は落ち着いたのか?急に大人しくなり…そして急に顔を上げ天井を見つめ始めた…
口からよだれを垂らしながら…
眼は完全に白目を剥いていた…
根元のイかれた表情に眼鏡の女性はたじろぎ、肩を竦めると根元がギロリと目玉を戻し眼鏡の女性へ振り向いた。
眼鏡の女性は固まりながら「根元さん… だいじょ…」
そう呟いた瞬間
根元が突然女性の眼鏡の上から目玉へとかじりつき… そのまま目玉を噛みちぎった。
「ぎぁぁぁぁぁぁ」
理沙やその場の誰しもが唖然とする
クチャクチャ咀嚼する根元が周囲を見渡しデスクに腰掛ける理沙と目を合わせた。
そして根元はまるで猿の様な四足歩行の格好を取り、突然理沙に襲いかかってきた。
理沙は驚き、立ちあがろうとした時右手首を噛まれると同時にバランスを崩しデスクの角へ頭を強く打ちつけた それから床に倒れ、再度頭を強打させた。
霞む視界に、薄れる意識の中
その場の人々が逃げ惑う光景
次々と根元が獣ように四足歩行で襲いかかる光景が霞んでいき
理沙は意識をなくし、眼を閉ざした…
人類は…
なす術も無く奴らの侵略を許し…
恐怖は奴らの宴に…
死は奴らの至福となり…
絶滅への道を順調に辿って行った…
そして…現在…
パチッと目を開けた理沙
随分と長く眠っていた感じ…
どれくらい寝ていたんだろう…?
眼を覚ました理沙、意識はハッキリしてるのだが身体が動かない…
起き上がろうとするが身体が動かせない…
何?なんで…?
すると
自分の意思とは別に身体が勝手に動きはじめ立ち上がった。
え?
眼、顔、腕、足、口全てが命令を聞かずに勝手に動き始めている。
眼に見える光景、耳に入る音は認識出来るがそれだけ…
身体のコントロールが効かず
己の意思とは別の何かに身体を乗っ取られた感覚だ
辺りには、さまよう感染者が何体も見えた。
何…この人達…? 腕が無いじゃない… 気持ち悪い…
何これ…
ゾンビ等がさまよう廊下を勝手に歩き始める身体
そして… その意思や思考さえも侵されはじめる…
あぁ~ なんかお腹空いた…
何か食べたいなぁ…
お寿司… ハンバーガー… パスタ…ピザ… う~ん違うなぁ…
あれ!? なんだっけ… 私の好物って…
あぁ…お肉だった…
牛肉…?豚…?
あれあれ?どれも嫌い…
何だったっけ……
あ!そうだぁ 思い出したぁ
私が好きなのは…
人間のお肉だった…
このビル内最強の特異感染者理沙が眼を覚ました瞬間だった。
これからエレナ達に襲いかかる
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